〈10話〉世界の歴史とリアスタール
彼女の一族は昔、辺境に住まう貴族だった。
元々戦闘能力が高く、貴族間でも一目置かれる存在であったため、中央の権力闘争に敗れたバルザーク家の長男の一団が隠れ蓑としてリアスタール家を選んだのは必然と言えた。
ハルク・バルザークは中央では最強と称されるほどに優れた人物で知られており、辺境貴族のリアスタール家にも噂は入ってきていたため当時のリアスタール家当主もすぐに迎え入れて丁重にもてなした。
その後、ハルクとリアスタール家は親交を深めながら各地で戦力を集め、数年後に中央政権の争いに殴り込み見事に王座を勝ち取った。
ハルクが王になってからは各地の争いも平定していき、20年後にはローバル内での戦争は終結した。
ハルクは大陸を統べる真王となったが、大陸全土を統治する訳ではなく、生き残った優秀な一族から王を選出し、各地で国を築かせた。
こうしてローバルは真王ハルクと各国の王が連携をとりさらなる繁栄を遂げた。
ハルクの権力争いに尽力したリアスタール家とそのほか4貴族は、その功績から真王ハルクが住まう真王都に面する区画での国の建設が許可された。
これまでにないほどの繁栄を極めたローバルであったが、人間の繁栄の陰に置かれた存在がいた。
魔族である。
人間同士での権力争いが始まるずっと前の時代、まだ民族活動と呼ぶにふさわしい時代から魔族は迫害の対象であった。
人間とは違った見た目に加え、扱う魔力が呪われていると言われた魔族は、大地が枯れていて人が住み着かない土地へ追いやられていた。
当時の魔族は数が少なく単独行動を好んだため、多少人間よりも魔力量が多いとはいえ反抗するものも少なく、大半が自ら人間を恐れて魔族の追いやられる枯れた土地へと移り住んで行った。
それが現在のハルテナである。
魔族の持つ魔力は事実として人間の扱う魔力とは性質が異なっており、魔族が流れ込んだことによりハルテナの土地は変化を遂げ、動物や植生環境も劇的に変化した。
結果、人間はハルテナの土地を捨てローバルの中での利権を巡って争いを繰り返すようになった。
ハルクがローバルを平定して数年後、放置していたハルテナの調査を行うため偵察隊を送ったところ、魔族が数を増やし集団行動をとっていることが明らかになった。
さらに調査を進めると、魔族にも人間と同じように数名の魔王が誕生し軍を率いていることが判明した。
それから時代が流れ、四代目真王であるハルロス・バルザークが、魔王を恐れハルテナに宣戦布告を行い侵攻を開始した。
リアスタール家の悲劇はその時から始まった。
当時のリアスタール家当主であるゴルバ・リアスタールは、ハルテナ侵攻に対して批判的な意見を進言した。
元々はリアスタール家も他と同様に魔族を迫害していた側であったが、ゴルバだけは日頃から魔族への迫害に否定的な意見を述べていた。
なぜゴルバが魔族迫害を非難し始めたのかは分からなかったが、初めは話を聞いてくれていたバルザーク家も次第に取り合わなくなり、その頃からリアスタール家は変わり者の一族として見られるようになっていった。
ハルテナとローバルの戦争が始まってからも、ゴルバは戦争への参加を断固拒否した。
拒否するだけであれば、ローバルでの地位が下がり続けるだけで済んだ。
しかし、ゴルバはローバルに災厄をもたらしてしまった。
魔王の1人を真王都まで手引きしたのだ。
ゴルバの手引きで単独で王都に侵入した魔王は、真王とその直属兵を抹殺し、それを契機にローバルに一斉に軍を攻め込ませ、その後の数年、ローバルでは魔族によるこれまでの報復が行われ多くの血が流れた。
人間の滅亡の可能性が見え始めた頃、事態が急変した。
ゴルバが人間を裏切ったように、魔王の一人が魔族を裏切り人間側についたのだ。
そして間もなくして勇者が誕生した。魔王が何らかの力をローバルに持ち込んだのだ。
その力は強大で、ローバルに攻め込んでいた魔族たちはすぐにハルテナに撤退した。
この魔王の裏切りにより、元々十席であった魔王の地位は現在は九つしか存在しない。
それから現在に至るまで戦争は継続している。これがローバルの歴史と戦争までの経緯だった。
勇者誕生後、リアスタール家は裏切りの罪で国土と権威を失った。
さらに、裏切り行為を実行したゴルバとその側近だけでなく、一族全員が処刑対象となり、リアスタール家はその汚名とともに各地に散らばり日陰での生活を送るようになった。
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「各地に散ったリアスタール家の生き残りの末裔が私ってわけ」
ロアの出自はこの世界の歴史と深く結びついていて、正直処理仕切るのに時間がかかったが、ロアは十分わかりやすく話してくれた。
「貧民街の裏路地で兵隊に両親が殺されて、私も殺されそうになる直前、たまたま用事でローバルに来ていたリーシェ様に助けられ、そのまま使えることになったの。それから3年、リーシェ様から指導を受けて戦闘技術を身につけたって感じ」
ロアは話し終えてスッキリしたとばかりに背伸びをしながら立ち上がった。
「ロアさんにとって、リーシェ様は命の恩人なんですね」
「そう。だから私はこの命の全てをリーシェ様に捧げるって決めてる。それなのに」
ロアは再び表情を固くし眉間に皺を寄せ俺を睨んだ。
「お前がこの世界に来るって分かってから、リーシェ様はお前の事にばかり夢中だし、私もリーシェ様と別行動しないといけなくなるしでまじで最悪」
「もしかして、だから俺に対する態度がそんな感じなんですか?」
「だったら何?」
それは理不尽過ぎない?
とそんな事を口に出せる空気でもなかったので平謝りをしておいた。
「まあとにかく、お前の頑張る理由がしれて今日は満足。私の家の過去話は歴史の授業ってことで、今日の座学は休みでいいよ。私も疲れたからもう寝る」
「話してくれてありがとうございます。おやすみなさい」
「おやすみ」
初めてロアがおやすみと返してくれたことにしばらく浮かれながら風呂に入った。
自室に戻った後でロアの話を整理して紙に書き出してみた。
ローバルとハルテナの歴史は大体まとまったが、謎な部分も多い。
ゴルバ、そして一人の魔王による裏切りの真相。
勇者の力の出処。
もしかしたら、案外この辺りが俺にとっても重要な手がかりになったりしないだろうかと少し考えたが、あまりにも時代が前のことであったし、あまりに規模が大きかったので考える事をやめて魔術書を開き自主勉に集中した。
その夜、何故かもちもちはずっと俺から離れずにぴったりとくっついていた。
謎といえば、何よりも、もちもちが最も謎だ。




