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01.曰くここは異世界で

 

 拝啓、顔も名前も知らないお父さん、お母さん。お元気でしょうか?


 「あああああああああああ!!!!!!!!」


 最近は暑い日が続きますが、お体を大切になさってください。


 「いやあああああああああああああ!!!!!!!!」


 突然ですが、自然とは素晴らしいものですね。小鳥のさえずり、川のせせらぎ、木々のざわめき。どれもこれも都会での生活に疲れ切った心身に染みわたります。そんな雄大な自然の中私、麻上灰奈(アサカミカイナ)は今、


 「しぬうううううううううううう!!!!!!!!」

 「YA!」「UGA!」「WA!」


 大自然の中 ゴブリンっぽいやつ(ヤベー奴ら)に追われています。


 「叫んでる暇があったら足動かせ!」


 日本人離れした真紅の瞳をもつ青年が私に並走する。

 私の命の恩人で兄のような人でもある麻上燼(アサカミジン)だ。


 「なんで燼兄(ジンにい)は私に追いついてるの⁉一日中パソコンに向かいっぱなしなのに!」


 そう、彼はほとんど家から出ることがない。必然的に運動部に所属している私とでは運動神経に天と地程の差があるはずなのだ。


 「あ⁈そりゃ()()()()()()()()してるからな!つーかお前いま暗に俺に先に死ねっつったな⁈」

 「だって、私捕まったらR18展開になるじゃん!それにゴブリンってRPGの序盤の敵だし!今の燼兄(ジンにい)ならいけるって!」

 「無理に決まってるだろ!おい、あいつらが持ってるもの言ってみろ!」

 「・・・斧!ナイフ!メリケンサック!」


 一瞬後ろを見る。どれにもべっとりと血がついている。鮮やかな赤色を保っていることから、比較的新しいもののようだ。私はゾッとし、つい胸に手を当てた。


 「俺の装備はボールペン一本だけだ!勝てるわけねーだろ!」

 「てゆーかあいつら何?日本にあんなのいないでしょ!」

 「世界中見渡してもいねーよ!あれだろ、異世界かどっかだろ!よかったな!夢が現実になったぞ!」

 「異世界なら王様とか神様とか説明する人がいるべきでしょ!」


 お互いにヤケクソ気味にしゃべりながらも走り続ける。しかし、森の中なので足場が悪く、徐々に奴らとの距離が縮まっていく。


 「燼兄、追いつかれそう・・・ってスピード落ちてる!」

 「言ったろ、ズルしてるだけって!10km走っても平然としてるようなお前と一緒にすんじゃねえ!こちとら買い物だけでヘトヘトになる程度の体力しかねーんだよ!」

 「前から思ってたけど運動しなさすぎ!早死にする・・・ってうわっ」


 後ろからなにかが飛んできて頬を掠め、血が少し流れる。少し先の木に矢がサクッと突き刺さる。背筋に冷たいものが走った。


 「いやあああああああ!!!!!!!!」

 「やばいいいいいいい!!!!!!!!」


 それを皮切りに次々に矢が降り注ぐ。走りながら打っているせいだろうか、命中率は高くないが幾つかの矢が私を掠める。


 「うわっ・・・痛っ」

 「灰奈っ」

 

 矢に気を取られ、木の根っこにつまずいてしまった。燼兄も足を止める。何とか起き上がったものの鳴き声がどんどん近づいて来る。奴らとの距離は5mをきった。


 「・・・ちっ、しゃーねー!」

 

 燼兄(ジンにい)はぼそりと呟く。ズボンのポケットからボールペンを取り出し、木の根元に傷を付けていく。


 「ちょっ何してんの⁈」

 「いいから見とけ!」


 この隙を狙って矢が降り注ぐが、矢は私たちに当たらず寸前で急速に運動エネルギーを失い地面に落下する。しかし、奴らはその怪現象に怯むことなくこちらに向かってくる。

 

 「・・・よし。とっとと離れるぞ!」

 「う、うん!」


 燼兄に腕を引かれて、その場から離れる。ゴブリンを巻き込んでミシミシと音を立てて木が倒れ、横になった瞬間轟!と燃え出した。同時に燼兄の持っていたボールペンが粉々に砕けた。


 「ちょっ何したの⁈」

 「あ?ちょっとした手品だよ手品」

 「バカにしてない?ちゃんと答えてよ!」

 「だーうるせえ!今のうちに逃げるぞ!」


 そうだった。逃げようと道の先(あまり道とは言えないが)を見ると・・・


 「「「「「GRURUUUUUU」」」」」


 オオカミの群れが正面に。・・・ニホンオオカミって絶滅したんじゃなかったっけなど変なことを考えてしまう。ヨダレを垂らして今にも襲い掛かろうとしている。


 「よかったじゃねーか、灰奈(カイナ)。お前犬好きだろ?」

 「確かに犬派だけど・・・私の知ってる犬より10倍オオカミじゃん。私のこと昼ごはんとしか見てなさそうだし・・・てかヤバいじゃん。さっきの手品でなんとかしてよ」

 「・・・ボールペンとか持ってない?出来るだけ高いの」

 「買い物に行こうとしてただけなのに持ってるわけないじゃん」

 「じゃあ無理だわ」


 「「「「「GRAAAAAAA!!!!」」」」」


 急にオオカミたちが襲い掛かってきた。燼兄がとっさに私の前に庇うように立ったが、私は頭の中が真っ白になって動けなかった。オオカミの牙が燼兄(ジンにい)に触れる瞬間、 


 「GA?!」


 一匹の脳天に矢が突き刺さる。


 「はあッ!」「やッ!」「おらッ!」


 間を置かずに三者三様の武器を持った男女が他のオオカミを次々と仕留めていく。弓を持った狩人のような青年とローブを羽織った壮年の男が慎重に近づいてくる。ローブの男が持っていた杖を私たちに向ける。燼兄が急な展開に呆然としている私を抱きしめる。


 「・・・魔物の擬態、というわけではないようです」

 「リーダー!こっちは終わったよー!」

 「よし、お前らは馬車の準備しとけ。いったん帰るぞ」

 「りょーかーい」








 「出かけようとして家を出たらあそこにいた?ははは!そいつは不運だったな!」

 「失礼ですよリーダー。不運というより幸運でしょう。魔境域に入って()()()()()無事に出られたのですから。・・・すみません、うちのリーダーが」

 「いえ、それよりも助けてくださってありがとうございます」

 「いいって。オレたちも仕事だからな」


 リーダーさんは涙目になりながらゲラゲラと笑い、ローブさん―暑そうなローブを着ているからそう呼ぶ―はそんなリーダーさんを呆れたように見ていた。

 私たちは今森から出て、舗装された道路で馬車に揺られていた。途中まばらに戦闘が発生したけど、この人たちが軽く追い払った。燼兄(ジンにい)は馬車が進み始めてすぐに「酔った」と言って荷台の隅に引っ込んだ。彼らの装備といい本当に異世界なのか・・・。私はというと、助けてくれた一団のリーダーさんとローブさん話していた。彼らは世界冒険者組合という組織に所属していて、私たちがさっき居た森のような危険地帯を見回っているらしい。


 「あ゛~きっつい」

 「燼兄(ジンにい)、大丈夫?」

 「ああ。本調子には程遠いがさっきよりかはマシになった」

 

 燼兄(ジンにい)が奥からのそのそと出てきた。確かに顔色は良くないが、さっきのように青を通り越して白色になってはいない。2対2で向かい合うように座った。


 「悪いがこっちも仕事なんでな。できる限り速く終わるから協力してくれや」

 「嘘はなるべく言わないようお願いします。手間が増えるだけですので。もちろん答えづらければ答えなくても構いませんよ」


 そう言うと、彼らは透明なガラス玉と紙、ペンを取り出した。


 「では、名前と年齢、出身地をお願いします」

 「はい!麻上灰奈(アサガミカイナ)18歳!出身はたぶん日本です!よろしくお願いします!」

 「・・・麻上燼(アサガミジン)、20歳だ。出身は同じく日本。一応こいつの兄だ」


 私は挙手して勢いよく、燼兄(ジンにい)はガラス玉に注意を払いながら答えた。彼らは答えを書き留めて、ガラス玉をじっと見つめる。変化がないことを確認し頷いた。


 「アサガミカイナさんにアサカミジンさん・・・苗字はアサガミでいいですか?」

 「はい!」


 燼兄(ジンにい)も頷く。


 「二ホンっていうと異世界のチキュウにある国家のことだな。黒眼黒髪の人種が多いと聞いてるが・・・」 


 リーダーさんが用紙から目を離しちらりとこちらを見る。燼兄(ジンにい)は黒髪ではあるが目は夜でも目立つような赤色だ。私に至っては白髪青目と日本人離れの見た目をしている。元の世界で散々言われたので平気だが、燼兄(ジンにい)は明らかに不機嫌そうだ。ローブの人がそれに気が付いたのかバツの悪そうな表情をしている。


 「それは置いておきましょう、嘘はついていないようなので。では次にこの世界についての説明を・・・」

麻上灰奈 (アサガミ カイナ)

年齢:『閲覧不可』 

種族:『閲覧不可』

職業:学生

状態:『閲覧不可』

スキル:魔力操作Ⅲ 直感Ⅹ 超直感Ⅱ 剣術Ⅱ 作物知識Ⅰ 

運命ユニーク

称号:『閲覧不可』『閲覧不可』 愛されしもの

装備品:お洒落な服


麻上燼 (アサカミジン)

年齢:20歳

種族:人間

職業:プログラマー 

状態:馬車酔い(軽度)

能力:思考加速Ⅹ 瞬間思考Ⅲ 分割思考Ⅲ 同時思考Ⅰ 法則知識Ⅹ 魔法知識Ⅹ 魔力操作Ⅹ 薬物知識Ⅳ 魔力支配Ⅱ 完全記憶 速読 速記

運命ユニーク

称号:『閲覧不可』『閲覧不可』 異世界人 世界の法則を知るもの

装備品:動きやすい服 砕けたボールペンの一部


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