第99話 アヴァロン大迷宮攻防戦(三人称視点)
(三人称視点)
「恐れていた事が現実になってしまったな」
地上に開いた大穴……アヴァロン大迷宮の出入り口から、蟻の如く魔物が溢れ出している。
既にダンジョンブレイクの衝撃で、地盤はひっくり返り高密度の魔力が充満していた。
並の人間は近づけず、戦車やドローン兵器による攻撃も物量に押しつぶされる。
明らかな劣勢。その様子を、アルベルト・ウィリアムズは静かに受け止めた。
「『Dreamers』も、これより戦線に出る。幸い今出てきている魔物は、上層から中層クラスの魔物ばかりだ。……下層クラスの魔物が出てくる前に、可能な限り魔物の軍勢を押し返す」
彼ら『Dreamers』の役割は、時間稼ぎ。
国家存亡を賭けたこの戦いにおいて、彼らがどれ程の猶予を稼げるか。そして、ダンジョンブレイクの原因を探りだし、解決することができるかどうか。
……ダンジョンブレイクの兆候自体は、前々から起きてはいた。
魔物の遭遇率の異常低下。ダンジョン内の魔力密度の急上昇。
この世界線において、ダンジョンブレイクの原因は殆ど明らかになっていないが、それでも人類は対策を講じてきた。その為の調査と、十分な兵力を用意した。
しかし。
(恐らく、私たちだけでは抑えきれない……この戦い、過去最悪の大災害と化すかもしれないね)
アルベルト率いる『Dreamers』の面々も、その事実は薄々察していた。それぞれが悲壮な決意を表情に浮かべてている。
なにせアヴァロン大迷宮は彼らのホームグラウンドだったのだ。その魔物の脅威は、誰よりも知っている。
(とはいえ、それは私たちが戦いを放棄する理由にはならない。……僅かでも可能性が残されているならば、命を賭してそれを守り抜くのが僕らの務め。
守り切ってみせる。この祖国を)
◆
……そして、戦いが始まる。
魔物、探索者、無人兵器。魔と血と火薬の匂いが混じり合い、イギリスの国土は凄惨な戦場へと塗り替えられていく。
渋谷ダンジョンで己の限界を知り、更なる修練を重ねたアルベルト達の前に、アヴァロン大迷宮の魔物は次々と塵と化していった。
「『光の剣』」
アルベルトの持つスキル、【無双剣域】。
自身の想像を具現化するという強力無比なスキルだが、その分扱いは難しい。
故に彼は、自らを『騎士』というイメージで固める事で、想像をより強固に、鮮明にして具現化させている。剣にまつわる攻撃技が多いのも、それが理由だ。
加えて彼は今、祖国を守る為に戦っているという、己が思い描く『騎士』のイメージに合致したシチュエーションの真っ只中にいる。
戦士にとって、それは決して無視できない要素だ。
自らの最大戦力を発揮するためには、十分な集中力が必要になる。それを引き出す要因の一つが、シチュエーションだ。
彼は今、故郷を背負って戦うことで、人生最大の集中力、そして戦闘力を引き出していた。
(これほどの死地、そして集中力。あの渋谷ダンジョン以来だろうか。
……時間が遅く感じる。今まさに私は、新たな境地へと足を踏み入れつつある。普段なら、喜ぶべきことなのだろうが)
アルベルトの動きと、剣術のキレが増していく。
しかし、魔物の軍勢はそれ以上の速度で、勢いを増していく。
(……私はともかく、他のメンバーの限界が近い。戦況はギリギリの所で拮抗した状態。誰か一人が崩れれれば、それを切っ掛けに一気に戦線は崩れるだろう)
アルベルト一人では、この戦況を覆せない。彼はまだその域に至っていない。
そして、ダンジョンブレイクの原因らしきものも、まだ見つけられていない。
政府からも、吉報は届かない。
(……これ以上政府の指示は待てない。
一か八か。単騎でダンジョン内に突入し、原因を探し出し対処する。
指揮官のような存在がいれば話は早いのだが、こればかりはもう天に祈るしかないか……)
……その時。
アルベルトの祈りが、天に届いたのか。
「お? アルベルトじゃん」
突如、一人の男が上空より降り立った。
気軽な様子で、彼はアルベルトに声を掛ける。
それは、アルベルトのよく知る人物であった。
「奇遇だな、いやそういえばイギリスに住んでるんだったか? なら居てもおかしくないか。
……一応聞くけど、要る? 手助け」
「Oh My God」
サカガワトオルが、戦場に牙を剥く。




