第95話 突撃! フードフェス
(一人称視点)
ホムラちゃんとシラユキちゃんがお風呂に入っている間、ちょっと散歩でもしてみようとホテルの外に出たはいいのだが。
「なんて書いてあるのかわからん」
適当に街並みに繰り出してはみたが、看板も標識もあらゆるものが英語で書かれてある。当然だけど。
自慢じゃないが俺は日本語以外全然わからんので、正直街並みを見ても何が何だかさっぱりわからなかった。
「そういやここ海外だった……もしかして、不用意に外に出るもんじゃなかったか?」
アメリカはいま午前中という事もあって、人通りもそれなりに多い。通りすがる人が何か喋ってるが英語なのでわからん。
文字も会話もわからず、周囲に何があるのかもわからない。圧倒的な疎外感。
俺にとってはもはやダンジョン以上の魔境である。深層よりよっぽどキツいぞこれ。
「時間操作も空間操作もこんな時役に立たねーからなあ……んん?」
その時、俺の嗅覚が美食の匂いを捉えた。
やはり窮地で信頼できるのは自らの五感である。匂いの元に誘われてみると、何やら催し物会場みたいな場所に辿り着いた。
「なんか屋台っぽいのが一杯並んでるな」
……もしかしてこれは、フードフェスというやつではなかろうか?
テーマに沿った様々な料理を、各料理店や企業が挙って出品し提供するというイベントである。
どうやらこの会場のテーマは『肉』らしい。様々な肉料理が醸し出す脂っぽい匂いが、俺の食欲を刺激していた。
客数も多く、会場は賑やかな空気に包まれている。デカいカメラを持った人も居るが、テレビの取材か何かだろうか。
「これも巡り合わせというやつか……異国の地でこのような機会に恵まれるとは」
日頃の行いが良かったからかもなー? とりあえずラッキー!
適当に運の女神っぽい何かに感謝しつつ、早速会場に突入する俺。
相変わらず店名や料理名はさっぱり読めなかったが、匂いだけで何の肉かは大体わかる。
それだけではない。食欲により刺激された俺の脳細胞が、この状況を打破するアイディアを捻り出していたのだ。
「英語がわからないなら翻訳アプリを使えばいいじゃない……! 我ながら恐ろしい発想力だ」
自画自賛しつつも翻訳アプリをダウンロード。
イヴから渡された俺のスマホは、どういう原理か海外でも普通に使えるようだ。こういう気配りの利く所は素直に感謝だな。
「おお、見える! そして聞こえるぞ!!」
この翻訳アプリは文字だけでなく、音声をも翻訳してくれるらしい。
英語ノーペラペラの俺でも、ペラペラの英語で会話できるという訳だ。科学の力って素晴らしい。
障害は無くなった。さて何を食べようかと屋台を吟味していた俺。
しかしメニューに並ぶ$の単位を見て、俺は致命的な失態に気づく。
「お金持ってないじゃん俺」
そう。恐らくこの会場の屋台は$オンリー。日本円には対応していない。
そして俺は日本円しか持ってない。こっちの世界に来た時イヴから、この世界線の日本円は渡されていたが、流石にアメリカの通貨までは貰ってない。
「嘘だろ……? 料理を目の前にしてお預けなんて事態、あっていいのか……?」
一文無しでは米一粒すら食えやしない。
俺は絶望した。これが資本主義の残酷なロジック。この世界線は絶望に満ちている……
「こんな思いするなら外に出るんじゃなかった……もうおうちかえる」
「Hey!」
諦めてトボトボとホテルに戻ろうとする俺に、しかし声を掛ける男が一人。
何言ってるのか全然わからなかったので、俺はまた翻訳アプリの力を借りる。
「Hey, you're Toru Sakagawa! ? I've seen it on D-Tube, what are you doing here?」
『おい、あんたサカガワトオルだろ!? Dチューブで見たことあるぜ、こんな所で何してるんだ?』
「ん……? 俺は料理を食べにきたんだけど、お金が無いから食べられないんだ。だから今から帰る所だ」
ちょっとボリューミーな体型の、イカしたサングラスを掛けたおっさんだ。
なんか偉そうな服装してるし、もしかして会場の主催者か何かだろうか?
『なんてこった、そりゃ勿体無いぜ! なんでアメリカに居るのかは知らんが、せっかく来たんだから楽しんでいけよ!! ……そうだ、よかったらちょっと俺の手伝いをしてくれないか? そしたら特別に料金はタダでいいぜ!!』
「Yes」
おっと、なんか風向き変わってきたな??
お手伝い上等。俺は料理のためなら何でもこなす男だよ。
内容は知らんがどんな手伝いだろうと秒で終わらせる。文字通りな!!




