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ダンジョンで魔物料理店を開いたけど客が来ないので、ダンジョン配信者になって宣伝しようと思う。  作者: 猫額とまり
第5章 店長、地上にお出かけする

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第94話 バスルームでの提案



(一人称視点)


「うーむ豪華なホテルだ」


 自室で一人、思わず唸る俺。

 俺もホテルに泊まった経験はあまりない。ましてやスイートルームなど初めてだ。

 大抵、自分で亜空間を作ってそこに寝泊まりしてたからな。そもそもホテルとか必要なかった。


「でもこういったホテルにも料理はあるんだよな。そこは普通に気になる」


 ここはなんかすごいホテルらしいから、料理人の腕も多分すごいんだろう。

 地上においてはトップクラスの腕前。俺も参考に出来る部分があるかもしれない。


「……二人はお風呂かな? 流石に一人で先に食べちゃうのも悪いか」


 俺の聴覚が、微かな水音を隣室から捉えた。

 どうやらシラユキちゃんとホムラちゃんは、一緒の部屋でお風呂に入っているらしい。流石に会話の内容までは分からないが。

 ホテルの料理を食べられる時間は限られている。今の時間帯だと朝食(ブレックファースト)だが、時間にはまだ余裕がある。ゆっくりお風呂に入っていても間に合うだろう。


 ん~……けど、このままただ待つってのも暇だしな。


「ちょっとアメリカでお散歩でもしてみるか?」



(三人称視点)


「シラユキちゃんってトオルさんの事が好きなんですか?」


 大きなバスタブでくつろいでいたシラユキは、ホムラの突然の爆弾発言に凍り付いた。



 向かい合う形でバスタブに浸かる二人は、当然ながら一糸纏わぬ裸体を晒している。


 ホムラの幼さの残る顔立ちと年齢に不相応な、メリハリの効いたスタイルの良さ。

 贅肉など一切なく、上気して淡く色づいた薄肌の下には、最強の探索者として鍛えられた筋肉が備わっている。

 その人間離れした隋力と少女としての美しさを両立するホムラの肉体は、まさしく天性の魅力と言えるだろう。

 その体躯が描く柔らかい曲線美と年相応の幼い顔立ちが相まって、まるで果実が実りつつあるかのように、少女と女の間に立つホムラアカリのアンバランスな魅力を引き立てていた。


 対してシラユキは、月光のように輝く純白の肌を惜しげもなく晒し出していた。

 その肌は湯船に浸かることで、ほんのりと桜色に上気している。

 ホムラとは対照的にスレンダーな体型のシラユキは、先程までホムラのたわわに実った果実を羨ましげに眺めていた。

 しかしシラユキの魅力もホムラに負けず劣らず。裸身に貼り付いた雪のような白髪が、光を反射して幻想的な模様を描き出している。

 水滴が白く細い首筋を、そのささやかな胸元を、薄く儚いシラユキの曲線を滑るたびに、確かな色香を匂い立たせる。それは同性のホムラでさえも、思わず見惚れてしまう程であった。


「…………えっ、ええっ!? いきなりなな何を」

「あはは、シラユキちゃん顔が真っ赤ですよ?」


 ホムラの衝撃的な質問に、シラユキの頬が瞬く間に紅潮する。

 裸の付き合いである以上、お互いを隔てるものは何もない。その表情の変化を隠し通すことも不可能であった。


「一応、トオルさんに対するシラユキちゃんのスタンスを確認しておこうと思いまして。前回のお泊り会の時から、ちょっと意識の変化があった様に見えるので」

「う、うぅ……それは」


 ホムラの分析は的を射ていた。

 シラユキが自身の過去をトオルに打ち明けた一件以来、トオルに対する感情が変化しているのを、シラユキ本人も自覚していた。

 しかしまさか、それを他人に指摘されるとは思っていなかったのだ。気恥ずかしさのあまりシラユキは真っ赤な顔を逸らしてしまう。


「私は、トオルさんの事が好きです。もちろん異性として。でもシラユキちゃんも同じ気持ちなら、トオルさんを巡って余計な争いごととかはしたくないんです

――だから、シラユキちゃんの気持ちを知りたくて。実際の所、好きなんですか?」

「ううぅぅ……どうしても、言わなきゃダメ……?」


 その態度がもう実質答えのようなものだが、ホムラはうんうんと、容赦なく頷いた。

 女子同士でお風呂での恋バナという展開に、ホムラは完全に酔っていた。


そして、意を決してシラユキが口を開く。

「…………。異性として、好感を持っている自覚はあるわ」

「わあっ!」

「でも、それをトオルさんに打ち明けるつもりはない。というか、打ち明けられない……」

「へっ?」


 予期せぬ回答に戸惑うホムラ。

やや気まずそうに、シラユキが続ける。


「……今の私、居候だから。衣住食からお金まで全部トオルさんのお世話になってるし、正直ほとんどヒモ(・・)に近い立場でしょ。そんな状況でどの面下げて告白なんてできるの、って思っちゃって」

「うーん? でもシラユキちゃん、トオルさんのお店でちゃんと働いてますよね?」

「正直、あまりトオルさんの役に立ててる自信もないの……料理の技術じゃ全然敵わないし、経営面でも色々相談はしてるけど、まだ大した結果は出せてない。

……これ以上トオルさんに甘えたくはないし、何より今の状況に甘んじて、トオルさんに寄生するような女だと思われたくないから」

「うーん、なるほど……」


 ホムラは顎に手を当てて考え込む。

 トオルがそんな事を気にするとは思えなかったが、これはシラユキ本人のプライドの問題なのだろう。


「となると、シラユキちゃんの理想としては、ほぼトオルさんに依存している現状から脱却して、自立できるようになりたいって事ですね?」

「う、うーん、そういう事になるのかな、多分……?

そもそも私が、いつまでこの世界線に居るのかも正直わからないけれど」

「だからこそです! もし帰る手段が見つかったとしても、このまま何もしないで終わるなんて勿体無いですよ!!」


 ずいずいと、鼻息荒くホムラがシラユキに詰め寄ってきて、シラユキはちょっと狼狽えた。


「私にできることならもちろん協力します。なので、一緒にトオルさんを攻略しませんか?」

「こ、攻略?」

「私もトオルさんの事が好きです。けれど私も、トオルさんの足を引っ張るだけの存在にはなりたくない。だから一緒に並べ立てるようになってから、思いを伝えようと思っています。……けど、きっとそれは容易な事じゃありません」


 それはホムラの辿り着いた、一つの結論であった。

 もしかしたら今後の人生を左右するかもしれない提案を、シラユキの目を真っ直ぐ見つめて告げる。


「トオルさんは私たちに黙って、何か大きな脅威(・・・・・)と戦おうとしています。そして、その日はそう遠くない未来かもしれません。……シラユキちゃんの帰還の件も含めて、私たちにはそう多くの時間は残されていないのではないかと、私は最近考えるようになりました」

「ホムラちゃん……?」

「私も自分の成長速度や、目標までの距離はおおよそ把握しているつもりです。

もし私の考えが正しいのであれば、きっと私一人では間に合わない(・・・・・・)でしょう。その脅威に立ち向かうこともできず、トオルさんの手助けになる事もできない。……最悪、取り返しのつかない事態が起きるかもしれない。

……“いつか辿り着く”じゃ遅いんです。私はその刻限が訪れるまでに、あの人の側に立っていられる様になりたい」


 ホムラがシラユキの両手を握る。

 熱く、温かい感情が冷たいシラユキの手から伝わってくる。


「そして! 困った時の対処方法というのは古来から決まっています!

他の人の力を借りるんです!!」

「えっ!?」

「私たちは、今の私たちにできる事をやるんです。お互いの不得手を補って、協力して一つの目標を達成する。いわば同士! 探索者でいうとパーティーです!!

トオルさんに想いを伝えるという一つの目標に向けて、一緒にゴールを目指す仲間が欲しいんです!!」


 急展開に目を白黒させていたシラユキだが、ホムラの言いたい事はなんとなく理解できた。

 つまりは協定。一人の男を巡って争うのではなく、協力して二人で添い遂げようという提案。

 つまりはハーレム。




「…………それはホムラちゃん的にアリ(・・)なの?」

「? 私はオッケーですよ? シラユキちゃんとならきっと上手くいくと思うんです」

(世界線が違うと、こういう(・・・・)価値観も違ってくるのかなぁ……)


 内心で戦慄するシラユキであったが、同時に意外と乗り気である自分がいることにも気づいていた。

 シラユキもホムラの事は好きだし、大切な親友だとも思っている。

 トオル本人の意思はともかく、二人で争うのではなく協力するというのは、それほど悪い案ではないように思えた。


「でも、私に務まるかな……ホムラちゃんみたいに戦いが得意でもないし、体つきも貧相だし……」

「私だって、シラユキちゃんみたいに料理はできませんし、経営やお金の管理もできません。それにシラユキちゃんはとっても綺麗で、優しいです。

二人でそれぞれの足りない所を補って、一緒にあの人を支えるんです。だからそんな弱気になる必要なんて、ありませんよ」


 私もさっきまでは弱気でしたが、とチロリと舌を出して悪戯っぽく笑う。




(……違う世界で、こんないい親友ができるなんて思わなかったな)


 この世界に来てから、短い間に様々な出会いがあった。

 ホムラと出会って、親友になった。

 イヴと出会って、世界の深淵を垣間見た。

 トオルと出会って――生まれて初めて、人を好きになった。


 かつて全てを失ったと思っていた自分の人生は、(えん)によって生かされている。

 その縁が切れない限り、自分も最後まで足掻き続ける。一筋の希望を信じて。

 トオルとのあの対話で、シラユキはそう決心したのだ。




(……ホムラちゃんの考えは、多分正しい。

この関係性の終わりは、縁の終わりはきっと、そう遠くはない)


 その時。シラユキは決断する事になるだろう。

 元の世界を取るか。それとも、この世界を取るか。


 今の彼女には、どちらを選ぶのが正解なのかはわからなかった。

 けれど今はただ、足掻き続ける。いずれ来るであろうその選択を、後悔しないためにも。


(そう。後悔したくない。トオルさんに抱いたこの気持ちを、何もしないままで終わらせたくない。……時間切れなんて冗談じゃない。今度こそ(・・・・)私は、後悔のない選択をしたい)




 そして、シラユキはホムラの手を取った。

 遠い遠い目標。その場所へ二人で辿り着くために。



 数十分後。

 あの後お風呂でガールズトークに花を咲かせた二人は、揃ってトオルの部屋を尋ねた。

 彼が楽しみにしていた、夕食、いやホテルの朝食を一緒に摂るために。

 しかし。


「あれ、トオルさん……?」

「いないみたいね」


 ドアには鍵が掛けられ、ノックをしても反応はなかった。


「食堂に行っちゃったんでしょうか? ちょっと行ってみましょう」

「なんか、嫌な予感がする……」


 しかし食堂にもトオルの姿はない。

 いよいよ混迷を極める二人の前に、突如ある映像が流れ出した。

 ホテルに設置された巨大なディスプレイには、現地のニュース番組が映し出されている。

 それを見てホムラは、シラユキに問いかけた。


「シラユキちゃん。あのニュースなんて書いてますか? 私英語は苦手でして」

「…………。今はちょっと読みたくない」


 液晶画面には、トオルの顔がデカデカと映し出されていた。


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