第93話 女子二人でお泊まり会
(三人称視点)
「景色もいいし、ベッドもふかふか! これが最高クラスのスイートルーム!」
「凄くいいお部屋だけど、北海道旅行のはずが、なんでアメリカのホテルに泊まる事になってるんだろう……?」
イヴに招待されたホテルの一室、最上階のスイートルームにて、ホムラとシラユキは興奮を隠しきれない様子で、自分たちの部屋を探索していた。
三人には一部屋ずつ振り当てられたのだが、現在はホムラの部屋にシラユキがお邪魔している形である。一人用の部屋とはいえ、二人でも十分以上に過ごせるほどの広さと快適さであった。
「これだけ広いなら、トオルさんをお招きしても問題なさそうですかね?」
「さ、流石にそれは……男女が同じ部屋に寝泊まりするのは、ちょっと覚悟が足りてないというか」
「ふふ、冗談です♪ にしても、ちょっと意外でした。シラユキちゃんの方から私の部屋に遊びにくるなんて。後で私から尋ねるつもりだったのですが」
ベッドに寝転がったまま、ホムラが意外そうな声色でシラユキに尋ねる。
まだ知り合って間もない二人だが、それでもお互いの性格は大体は把握している。
ホムラの知るシラユキは、友達の家に自分から遊びに行くという、アクティブな行動をするようには思えなかったのだ。
「自分でもこんな行動力があったなんて、ちょっと驚いてる。旅行で浮かれてるってのもあるかもしれない。……ホムラちゃんが心配だったから」
「え?」
「さっきイヴさんと話してた時、トオルさんの故郷の話があったでしょう」
イヴが口を滑らせた、トオルが故郷に帰れなくなっているという話。
ホムラは以前シラユキとお泊まり会を開いた際、シラユキが転移者である事は本人から聞いていた。それを機に仲良くなったのだが、トオルも同じ境遇である事は知らされていなかったのだ。
「その時のホムラちゃん、寂しそうな顔をしてたから……トオルさんの事で、悩んでるんじゃないかって思って、放っておけなくて」
「――――」
ホムラは目を見開いた。
あの時、トオルが僅かに見せた過去への執念と後悔。
本人は過ぎた過去だと笑っていたが、ホムラにはそうは見えなかったのだ。
……しかしホムラは、トオルにかける言葉を見つけ出せなかった。
ホムラはあまりにも、トオルの事を知らない。あの場では何を喋っても、トオルの心の奥底には届かなかっただろう。
それはホムラ自身も実感していた。その無力感に苛まれていた瞬間を、シラユキは見逃さなかったのだ。
「私のことを、心配してくれてたんですか?」
「ホムラちゃんが凄く頑張ってるのは、私も分かってるつもり。トオルさんに追いついて、力になりたくて、努力と研鑽を続けてる。
……私にはできない生き方だもの。正直とても尊敬してる。だから私も、ホムラちゃんの力になりたくて」
シラユキも、トオルにはとても感謝しているし、尊敬もしている。
できる事なら、彼の助けになりたいとも考えている。
しかしホムラとシラユキでは、出来る事が全く違う。シラユキにはホムラのような、行動力や戦闘センスを持ち合わせていない。自分にないものを持っているホムラを、シラユキは尊敬しているのだ。
そしてトオルの助けになりたいのと同じように、尊敬する友人であるホムラの手助けになりたいと、シラユキは心の底から願っている。
「その……なんて言ったらいいのかよくわからないけれど。
私もホムラちゃんも、トオルさんのことをあまりにも知らない。そして、支える為の力も足りていない。私も現状、トオルさんに甘えてばかりの立場だから」
「――――」
「けど私は、この恩を絶対に返すつもり。その為なら、何だってしてみせる。私の人生に自身の過去まで打ち明けて、真正面から向き合ってくれたあの人から……逃げたくないから。それは、きっとホムラちゃんも同じでしょう?」
「…………」
「今は届かなくても、私たちにはまだ時間が残されている。一人じゃ届かなくても、私たち二人ならあの人の側に並べるかもしれない。……私も頑張る。だから、ホムラちゃんも、その……元気になってほしいと、思って」
最後の方はちょっと尻すぼみになっていたが、シラユキは自分の本心をホムラに打ち明けた。
柄にもないことをしたせいか、少し気恥ずかしそうにしていたが。
「……シラユキちゃん」
「ご、ごめんなさい。こういうの私、あまり慣れてなくて。ちゃんとフォローになってるかしら……もし余計なお世話だったらごめ――」
「えいっ」
いつの間にかベッドから起き上がったホムラが、しどろもどろのシラユキに飛びついた。
「きゃあっ!? ホムラちゃん!?」
「えへへ……ありがとうございます、シラユキちゃん。お陰様で元気が出ました! ――私は本当に、いい友達を持ちました」
それは、ホムラの本心からの言葉だった。
同じ想い人を持つ親友への、心からの感謝。
そしてホムラは、改めて決意する。
(らしくもなく弱気になってましたね、私。……トオルさんへ追いつくのが簡単じゃないことは、最初からわかってたのに)
夢を追いかけ、トオルに追いつく。そしてトオルを支える。
容易には達成できない目標だ。しかし今は、同じ目標を掲げる親友がいる。
彼女となら、シラユキとなら、きっとこの障壁も乗り越えられると、ホムラは確信していた。
(諦めませんよ、私は。――誓ったんですから、“世界一の探索者になる”って。
そしていつかトオルさんに並んで立てるようになって、私の思いを伝えるって。
一人じゃまだまだ届かないけど、シラユキちゃんとならきっと、そう遠くない未来に追いつけると思うんです。
……いつかきっと、トオルさんの事を理解してみせます。そして追いついて、側で支えたい。
二人で追いついてみせます。トオルさんが、手の届かない遠くへ行ってしまう前に)
「げ、元気になったならよかったけど……ハグは流石にちょっと恥ずかしい! それに高価な服にシワがついちゃう!」
「じゃあ、お洋服は脱いじゃいましょうか。夕食の前にお風呂タイムといきましょう! せっかくですし一緒にお風呂入りませんか?」
「えっお風呂!? 一緒に!?」
「女の子同士ですしいいじゃないですか〜、そうだ、この間みたいに今日もお泊まり会しちゃいますか? ホテルで友達とパジャマパーティー、一度やってみたかったんです!」
「う、うん。私は全然構わないけれど……あっちょっと!?」
「えへへ、お姫様抱っこです。一名様バスルームまでご案内〜♪」
「わかったから! 一緒にお風呂入るから、自分で歩かせて! 流石にお姫様抱っこは恥ずかしいからっ!?」
そしていつにも増して上機嫌になったホムラは、シラユキを抱えたままバスルームへと消えていくのだった。




