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ダンジョンで魔物料理店を開いたけど客が来ないので、ダンジョン配信者になって宣伝しようと思う。  作者: 猫額とまり
第5章 店長、地上にお出かけする

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第92話 チョロくないのかチョロいのか


「ハァ……別に隠してた訳じゃないんだけど」


 そう言いつつもポリポリと、どこか気まずそうにトオルが呟いた。


「俺もシラユキちゃんと同じで、自分の故郷がわからなくなってる。けど、それについてはいいんだ。俺の中ではもう決着がついた話だから。……だからホムラちゃんが、そんな顔をする必要はないよ」

「ッ」

「正直俺の場合は、自業自得な部分もあるからね。自分の夢を追いかけるばかりで、帰り道(・・・)のことを考えてなかった。……だから俺に憐れみは必要ない。ホムラちゃんが優しいのは知ってるけど、俺については気に掛けなくて大丈夫だよ、本当に」

「――、……」

(……私は。あまりにもトオルさんの事を知らなさすぎる)


 優しく諭すようなトオルの言葉に、ホムラは何も言い返せず(うつむ)く事しかできなかった。

 サカガワトオルの本心。後悔。諦念。

 それが遂に垣間見えたというのに、その障壁を退かす言葉を、今のホムラは持ち合わせていない。

 今の自身が何を言っても慰めにもならないと、トオルの表情をみて悟ってしまったのだ。覚悟はあっても、知識と共感があまりにも不足している。


(トオルさんに守られてばかりじゃなくて、トオルさんを支えるって誓ったのに。……トオルさんが遠い。今の私じゃ、まだ――)




「で、何逃げようとしてるんだそこのエセ社長」

「ギクッ」


 忍び足で部屋を去ろうとしていたイヴが、呼び止められて変な擬音と共に固まった。

 比喩表現ではない。トオルによって空間ごと物理的に固められていた。


「いや、ちょっとシリアスな雰囲気になってたからお邪魔かな? って思って。ほら、ボクも忙しい立場だし? 仕事とか山積みだからそろそろ戻らなきゃって……」

「こんな雰囲気になったのはお前が余計なこと漏らすからだろうが。お前にはプライバシーって概念が……いや、あるわけないか。所詮お前はダンジョンコア。無尽蔵に情報を(すす)って悦に浸るだけの害虫だもんな」

「言い方がキツい! ボクの手落ちについては謝るけど、それにしたって限度ってものがあるでしょ! ボクだって酷いこと言われたら傷つきますぅー!!」

「じゃあ慰謝料を払え。俺もお前のせいで心が傷つきました」


 胸元を叩いて私傷つきましたアピールをするトオル。

 ホムラやシラユキに向ける態度とはあまりにも違う。イヴに対してはかなり乱暴な態度を取っていた。

 その様子を見て、シラユキにはある感想が思い浮かぶ。


(さっき一度は殺し合った仲って言ってたけど、そのせいかな。この乱暴で妙な距離感は。イヴさんの事を信用はしてるけど、信頼はしてないって感じ)

「お、横暴過ぎる……お店のインフラも通販サイトの搬入ルートも、キミの配信用アカウントだってボクが用意したのに! ボク結構頑張ったんだよ、これ以上何を求めるって言うんだい?」

「アカウントの件はともかく、他は家主として最低限用意するべきサポートじゃないか? ネットも電気も通ってない住宅とか不便すぎるし。……とにかく、だ」


 話題を切り替えるように咳払いをして、トオルはイヴの持つ祇園寺(ぎおんじ)ダンジョンのコアを指差した。


可能性はゼロ(・・・・・・)じゃないんだろ(・・・・・・・)。だったらそれを隅々まで調べてくれ。現状シラユキちゃんが帰還するための、唯一の手掛かりなんだからな」

「……随分肩入れするんだね。ハァ、分かったよ」


 重い溜息と共にイヴは、ダンジョンコアを懐に仕舞い込む。

 こうしたトオルの無茶な要望も、今に始まった事ではないようだった。


「慰謝料代わりと言ってはなんだけど、こっちでできる限りは調べてみるよ。ダンジョンコアに残留した情報の種類によっては、また話が違ってくるかもしれないし」

「……! あ、ありがとうございます!」

「礼を言うのは早いよシラユキちゃん。ボクは調べるだけだ、正直望みは薄いし、仮に手掛かりがあったとしても実際に決断するのはキミだ」


 貼り付けたような笑みを消して、意味深な表情でイヴはシラユキを見つめる。


「一朝一夕で調べられる代物じゃないし、少し時間をもらう。

……結果によっては、人生を左右するような重大な決断を、迫ることになるかもしれない。今の内に、その覚悟だけはしておいてね」

「ッ、はい」


 シラユキがそう返事をした直後。

 イヴの懐から、ピピピ、と軽快な電子音が鳴り出した。

 スマートフォンに設定されたアラーム音だ。


「……うわ、もうこんな時間!? そろそろ始業しちゃう! まだ話したいこと一杯あったのに!?」

「あん?」

「ごめん、と言う訳で一旦お話タイムは中断! ボクは仕事に戻らなきゃいけないから!!

また後で時間を確保するから、続きはその時に!!」

「えぇ……人をアメリカに呼び出しといてもう帰るのかよ。それに後でっていったって、俺も店の営業があるんだが」

「トオルが変な茶々を入れるからだよ! ……ちょうど日本時間は夕飯時かな? なら、まだ半日くらい時間があるね。それまでアメリカでのんびり観光でもしててよ。どうせお客さんも来ないでしょ?」

「……………………」


 黙り込むトオルをよそに、イヴはスーツの懐からカードのようなものを取り出した。


「これ。三人分のホテルのパスキー。ボクが個人で所有してるプライベートルームだ、プライバシー保護もしっかりしてるし、人目を気にせずゆっくりできるよ。

ボクのせいで時間を貰っちゃう訳だし、これくらいはサービスさせてもらうさ」


「わ、この書かれてるホテルの名前、超有名な所じゃないですか!? トップスターや要人がよく利用してるって聞きますよ!?」

「こ、個人用に所有……? ちょっと意味がわからない、もし本当だったらどれだけのお金が……?」

「ふふふ、その反応が見たかった。こう見えてもボク、世界トップクラスのお金持ちなんだよ? 日本のホテルじゃなくて申し訳ないけどねー」


「……いや待て。そもそも俺がいれば転移ですぐ家に帰れるし、ホテルに泊まる必要はないぞ? なにより俺がホムラちゃんシラユキちゃんと同じホテルに泊まるのは、世間体的にマズい。流石に俺もそれくらいは分かる」

「ふ~ん? この二人はホテルに興味深々に見えるけど? まぁ無理強いはしないよ、一人だけ帰ってもらってもいいさ。……あ~あ、せっかく美味しい料理もあるのになー。三ツ星レストランのシェフが作る凄く美味しい料理が味わえないなんて、もったいないなー」

「ホムラちゃんシラユキちゃん今日はホテル泊まろっか」

「焚きつけておいて何だけどキミちょっとチョロ過ぎない?」



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