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ダンジョンで魔物料理店を開いたけど客が来ないので、ダンジョン配信者になって宣伝しようと思う。  作者: 猫額とまり
第5章 店長、地上にお出かけする

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第91話 偽りの顔


「じゃあ、次は私からも質問いいかしら」


 声を上げたのはシラユキだった。

 イヴのアクアマリンの瞳が――しかしどこか無機質な、人外(・・)の存在から視線を向けられて彼女は一瞬たじろぐ。


 今になって彼女は理解した。トオルの言う通り、確かに目の前の存在は人間ではないのだ。

 まるで昆虫が人間の皮を被って擬態しているような、そんな直感的な違和感。

 人間ならば、こうも無機質で冷たい視線を向けることはできないだろう。


「なにかな?」

「……トオルさんが以前、ダンジョンコアについて詳しい知り合いがいるって言っていました。もしかして、イヴさんがそうなんですか?」


「ああ……確かに、その通りだよ。この世界線において、ボクほどダンジョンコアに詳しい存在はいないだろうね」


 シラユキが今、一番聞きたかった問いを、イヴはあっさりと肯定した。

 つまり目の前の人外こそが、シラユキが元の世界に帰る手掛かりを持っているという事になる。


「さっきも言った通り、ボクは渋谷ダンジョンの管理者(マスター)でもある。――ダンジョンの管理には、ダンジョンコアの操作が必要不可欠。無論ボクはその操作法を熟知しているし、ダンジョンコアにまつわる様々な知識も備えているよ。一般には出回らない知識だろうし、トオルがボクに頼ったのは正解だったね」

「……俺もダンジョンコアの操作や、ダンジョンの管理をした経験はない。そもそもあれは人間の手には余る代物(・・・・・・・・・・)だ。何の知識もない素人が下手に弄るより、専門家に見せた方が確実だと判断しただけだよ」


 ……人間の手には余る代物。

 そのワードを聞いて、ホムラとシラユキは同時にある存在を想起した。

 居たではないか。ダンジョンコアを支配し、管理する事ができる特殊な存在が。

 二人は、その特殊な魔物を――【魔王種】の存在を知っている。




「じゃあイヴさんは、渋谷ダンジョンのコアを管理する魔王種……?」


「ん? ああ、そっちの結論に辿り着いちゃったのか……答えはNO。ボクは魔王種じゃない(・・・・・・・・・・)


 そしてイヴは二人の質問に答えるために、自らの高級そうなスーツの胸元に手を当てる。

 するとそこから突然、黒光りする球体(・・・・・・・)が姿を現したのだ。


「「……ッ!?」」

「ご覧の通り。正解は、ボク自身が意思を持った(・・・・・・)ダンジョンコア(・・・・・・・)なのさ。今はこうして、人間の擬態をして社会に溶け込んでいるけどね。……あ、今のはオフレコで頼むよ? まだ人間達にバレたら困るからね」


 そう言ってイヴは――ダンジョンコアが擬人化した存在である、埒外の存在は。

 イタズラっぽい表情をその偽りの顔に貼り付けて、妖しく微笑むのだった。



「まあダンジョンコアを乗っ取って好き放題する魔王種もいるからね。ボクが留守にしてる間にも、何やら騒ぎがあったようだし? 魔王種がダンジョンマスターという例もあるから、その推測は自然ではあるけれども」

「イ、イヴさんが、ダンジョンコアそのもの……?」


 ホムラとシラユキが愕然とした表情でイヴを見る。

 ダンジョンコアが意思を持つという話も彼女らは聞いたことがないし、ましてや自我を得て動き出すなどとは想像すらしたこともなかった。


 ……そしてそれが、世界に名だたる大企業、『Dチューブ』の社長として、人間社会に紛れ込んでいる。

 それがどういう意味を指すのか、察せないほど二人は愚かではなかった。


「ん、安心してよ。ボクはこの世界をめちゃくちゃにしようとか、そういう事は考えてないからさー。むしろボクは今の所、この世界の味方だよ? この世界の災厄化をどうにか防ごうと頑張ってるんだからね」

「本当か? また(・・)妙な事企てたら今度こそ消し飛ばすからな」

「ちょっと顔怖い! ボクみたいな美女にそんな顔しちゃダメでしょ!」

「ハリボテに欲情するほど飢えてないんだわ。そもそもなんで女性型なんだ、お前性別とかないだろ」

「え? こっちの方がウケがいいからに決まってるじゃん。巷じゃ敏腕美人社長って言われて話題なんだぜ~?」


 二人が付いていけない、トオルとイヴの物騒な漫才(?)。

 しかしトオルが手を下していない以上、目の前の人外は少なくとも、この場では敵ではないのだと解釈した。いや、せざるを得なかった。


「しょ、正直まだ完全には理解が追い付いてないけれど……イヴさんが意思をもったダンジョンコアそのもので、ダンジョンについて詳しいってことは分かりました。……では、私の事情も、トオルさんから聞いているのでしょうか」

「うん。おおよそはね。他の世界線から飛ばされてきたんでしょ? 大変だったねー」


 そう、シラユキの至上命題。元の世界線に帰還する事。

 その手掛かりとなる祇園寺(ぎおんじ)ダンジョンのコアを、トオルは亜空間から取り出してイヴに手渡した。


「これが例の?」

「ああ。シラユキちゃんと一緒に転移してきたコアだ。元の世界線との繋がりはもう切れてるが、コアの中に情報は残ってるだろ?」

「……。うん、まあ確かに、残ってはいるけど……」


 ダンジョンコアを手に取って、形の良い眉をひそめて何やら考え込むイヴ。


「一部の情報が破損してるね……マモンとかいったかな、無茶な使い方をして中身に損傷を与えちゃったのかもしれない」

「やっぱあいつ唐揚げにするか」

「僕というコアが不在の所に、無理矢理別のコアを代わりに埋め込んでダンジョンを操作したんだから、負荷が掛かって当然ではあるけどね。でもまあ、これくらいなら修復できるかな」

「!」


 シラユキの表情に、一筋の光が差し込む。

 しかしイヴは、それを手で制した。


「シラユキちゃん。変な期待をさせないように予め言っておくよ。仮に情報が修復できたとして、確実に元の世界に帰れるとは保証はできない」

「ッ」

「このダンジョンコアには、君の元いた世界で集めた情報が蓄積されている……でも、それだけだ。あくまでそれらの情報は道しるべになるだけ。世界線という果てしない海を航海する上で、精々方角くらいは分かるかな? って程度だ。でも方角だけ分かっても、目的の世界線には早々辿り着けるもんじゃない。なにせそれは、そこのトオルにもできなかった所業なんだからね」

「え」


 ホムラが思わず声を漏らす。

 彼女はまだ、トオルがシラユキと同じ境遇にあることを知らされていなかったのだ。


「あ……もしかしてボク、余計なこと喋った?」



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