第90話 イヴ・ドミネイト
「待ってたよ、じゃねえよ。こっちが待たされてたんだが? 何度連絡しても一向に返事がきやしない」
「ごめんごめん。色々忙しくって、返事してる余裕がなくてさー。でもこう見えて私、大企業の社長なんだよ? 君にも色々と便宜を図ってあげた訳だし、ちょっとは労ってほしいなー」
「フン。厄ネタまみれの世界線に連れてきておいて、何ほざいてやがる」
「手厳しいねー」
こうして会うのは久しぶりだが、相変わらずの態度である。
へらへらとした笑みを顔に貼り付けながら、目の前のそれを唖然と見つめるホムラちゃんとシラユキちゃんに、大仰な仕草で自己紹介を始めた。
「はじめまして。ボクの名前はイヴ。イヴ・ドミネイト。見ての通りこの会社、Dチューブの社長をやっているんだ。――同時に、渋谷ダンジョンの管理者でもある」
「渋谷ダンジョンの……」
「……管理者?」
「要するにこいつ人間じゃないってコト。見かけに騙されちゃ駄目だよ」
「ちょっと、勝手にネタバレしないでくれるかな!? せっかくボクが謎のミステリアス敏腕美人社長を演出してる所だったのに!」
頬を膨らませて抗議の意を示すイヴ。……これもキャラ造りの一環だと思うと全然可愛くないな。
「まったく、相変わらずボクには全然優しくないね君は」
「ほざけ」
「……コホン! まあとりあえず、積もる話もある事だし座りなよ。今後の世界の行く末について、ゆっくりと話し合おうじゃないか」
◆
(三人称視点)
「ん、やっぱり早朝にはコーヒーを飲むのが一番だね。ボクにはカフェインは効かないけれど、なんとなく気分が良くなるというか、高揚感みたいなものを感じるよ。人間は素晴らしい飲料を開発したものだよね」
「コーヒーについては同意見だが、とりあえず話を進めろ。ホムラちゃんとシラユキちゃんがまだ困惑してる」
「はいはい。……そうだね、まずはボクの事について、ある程度話しておいた方がいいかな? どうせそこの料理馬鹿は何も説明せずに連れてきたんだろうし」
(……トオルさんの性格をよく理解してる。実際その通りだもの)
社長自ら淹れたコーヒーを恐る恐る口に含みながら、シラユキは内心でイヴの観察を続けていた。
常人離れした美貌。ある意味トオルと気さくな仲。Dチューブの社長。そして、自分とホムラを連れてきた理由。
色々な疑問が浮かんでは沈み、まずどれを口にするべきか悩んでいたシラユキだが。
「その……イヴさんはトオルさんと、どういったご関係なんでしょうか?」
真っ先に質問したのは、ホムラの方だった。
即断即決。こういった決断は、探索者という事もあってかホムラの方が早い。
「関係性かぁ。うーん、ビジネスライクな関係?」
「ただの腐れ縁だろ。もしくは殺しあった仲か」
「ちょっと、今それ話題に出す!? 二人のボクへの好感度駄々下がりじゃん!」
「ただの事実だろ。そういうやましい所を隠して接するところが嫌いなんだよ」
「も、もうその点は仲直りしたじゃん、そんな辛辣に当たらないでよ~」
「むしろ仲良くする理由が微塵もないが? 利用価値が無かったらとっくに潰してたよ」
やや不機嫌に言葉を返すトオルと、それに慌てるイヴ。
ビジネスライクな関係……というには、多少の上下関係が存在しているように見えたが。ともかく現時点では、トオルも彼女と敵対しているわけではないという事実は、ホムラも理解した。
「その、お二人はそれなりに付き合いが長いように見えますが……もしかして、トオルさんと同じく別の世界から……?」
「そそ。別の世界線でトオルと出会ってね。色々あって……多少殺し合いとかもしたけど、今は仲直りしてるよ。そして今のボクは社長、トオルは料理店を営んでいるって訳さ。あ、ちなみにトオルをこの世界線に誘ったのはボクだよ」
「引っ越し先探し中に欠陥住宅を押し付けられた気分なんだが? 世界線規模の異常とかは事前に説明義務があったんじゃないですかね? お陰で俺の店にお客さん全然こないんだが」
「それは一概にボクだけの責任ではないのでは……?」
◆◆◆
二章冒頭で存在が仄めかされていた支援者さん、遂に登場。
ちょっと情報量が多いので小分けに更新したいと思います。ゆっくり読んでいってね!




