第81話 北へ。
(一人称視点)
シラユキちゃんは旅行に付いて行く理由として、以下のような内容を述べた。
「ほら、私ってこの世界の地上をまだ見たことがないから、早いうちにどんな様子なのか見ておきたくて。元の世界線と違う部分もあるかもしれないもの。それに丁度、外出したいって言おうと思ってたの。色々買い物もしたいし……特に衣服とか。今まで店の制服とか通販で何とかやりくりしてたけど、やっぱり自分の目でちゃんとした服を選んで買いたいし」
うーむ、見事に筋の通った意見だ。拒絶する理由もない。なぜかちょっと早口だったのは気になるが。
特に衣服について。他の生活必需品なら俺が用意できるが、女性用の服装や下着と言われると難しい。
シラユキちゃんが来た当時は俺も流石に女性モノのストックはなかったので、取り急ぎウマゾンで買って間に合わせたのだが。やっぱりお年頃の女の子だし、それじゃ満足できないよね。
「……やっぱり、図々しかったかしら。居候の身分だし……」
「いやいや、そんな事はないよ。むしろ俺の方こそ気が回らなくてごめん。一人でシラユキちゃんを置いてけぼりにするのは良くなかった。一緒に旅行いこっか」
「うん、ありがとう。…………よしっ」
よほど嬉しかったのか、小さく握り拳を作るシラユキちゃん。こうして見るとやっぱり年頃の女の子だなぁ……
◆
という訳で手早く荷物を纏め、いざ地上へ。
お店は臨時休業である。食材調達中の間は店を閉めていたりするが、ここまで長時間、臨時で閉めるのは初めてだ。一応SNSで通知もしたし、今日くらいは許してほしい。
「トオルさん、やっぱり北海道にも転移で向かうの?」
「そうだよ。けどまずは徒歩でダンジョンを出ようか。ダンジョン内から地上へは直接転移できないからね」
ダンジョンを始め、世界にはいくつか次元を隔てた空間が存在する。
地上とダンジョンの境、下層と深層の境、深層とその奥の境、などなど。
その次元を跨超えて、直接転移するのは俺でもほぼ無理だ。
故にこの境界線だけは、徒歩で跨超える必要がある。無理矢理転移したら最悪、次元ごと壊れちゃうからね。
「しっかり掴まっててね」
荷物を持ったシラユキちゃんが、しっかり裾を掴んだのを確認して転移。
次の瞬間、送迎で見慣れた上層1階の景色が広がっていた。
「わ、結構人居る。下層とは大違い」
「出入り口周辺はやっぱりね。さ、人に見つかる前に出ようか。受付さんお疲れ様でーす」
「はいお疲れさ――え!? 店長さん!??」
せっかく一日休みなんだし、のんびり旅行をしたい気分だ。
人目に付くとそうも言ってられないからね。いやあ人気配信者って辛いなー。
「つ、遂にあの店長が地上に出てきた……! 探索者協会に報告しないと!!」
◆
「ここが、この世界線の渋谷……。人が多いのはどの世界でも同じなのね」
「人口が密集する理由の多くは地形だからね。地形丸ごと変わったりしない限り、世界が変わっても大差はないよ」
そしてそんな大規模な地形変動が起きれば、それはここから遠い世界線になってしまう――って、今はその話はいいか。
ひとまず、地上には何事もなく出れた。俺もこの世界の、地上の空気を吸うのは久しぶりである。
……うん。やっぱ魔力濃度薄いな! やっぱダンジョン暮らしの方が性に合ってるわ。
「さて、先にシラユキちゃんの買い物から済ませる? やっぱ物を買うなら都会の方がいいよね」
「私は後で大丈夫。元々旅行に行くのは店長が言い出したことだし、転移できるなら後でも先でも関係ないでしょう?」
「ま、そりゃそうか。それじゃ遠慮なく」
シラユキちゃんの方に手をのせスキルを発動。
次の瞬間には、都会の騒々しさから一変、のどかな雰囲気広がる北海道に転移していた。
「……あ、シラユキちゃん、気分とかどう? 空間転移ってたまに乗り物酔いみたいな感覚に襲われる人とかいるんだけど」
「私は大丈夫。ダンジョンに潜る時にも似た感覚は感じてたし、慣れてるわ」
シラユキちゃんは流石の対応力で、転移しても落ち着きを崩さなかった。
が。
「……待って。トオルさん、これどういう状況?」
「北海道に転移しました」
「じゃなくて。それ以上におかしな事実がないかしら? それとも私の脳がおかしくなったの?」
「……あ。もしかして俺たちが上空にいることについて?」
今俺たちは北海道の上空、大体二千メートルくらいの地点に立っていた。
眼下にはのどかな北海道の地平が広がる。やっぱり北海道はでっかいどう。
「それしかないでしょ!? どうして地上からいきなり上空に転移してるの!? 何の説明もなしに、しかもなんか立ってるし!!」
「見慣れない場所に転移する時は、一回こうして上空から目的地を確認するようにしてるんだ。正確な場所がわからなきゃ、転移するのは危険だからね。そして久々の遠出だったので説明忘れてましたごめんなさい」
うん。誰だっていきなり上空に飛ばされたらビビると思う。ごめんシラユキちゃん、俺が悪かった。
「…………はぁ。まあ、もう今更だし、慣れたからいいんだけど。それで、目的地は見つかったの?」
「うーんさっぱり。というかお目当てのダンジョン産メロンって、どこで栽培されるかも分かってないんだよね」
「……え!? 目的地も分からずここまで来たの!? 衝動的に!?」
「現地に行けばなんとかなると思って」
ネットで軽く調べたんだけど、なぜかそれっぽい場所が出てこなかったんだよね。
けど行き当たりばったりで進むのも、旅行の醍醐味の一つだと思うんだ俺。
「ちょっとその無計画さは納得できない……! 店の立地の話を聞いた時も思ったけど、トオルさんはもっと下調べとかして! 計画性が圧倒的に足りてない!!」
「でぇじょうぶだ、転移と時間操作があれば大体何とかなる」
「ちょっとIQ低下し過ぎじゃない!? 食材が絡むといつもこうなの!?」
夕張メロンって言うからには、夕張近くのどっかのダンジョンだろう!
あの辺とかダンジョンがありそうな雰囲気だな? とりあえずあそこ行ってみるか!
「どうしよう、旅行に付いてきたの失敗だったかも……? いやまだ大丈夫、足りない計画性を私が埋め合わせれば――」
「よし行こうシラユキちゃん、多分あの辺に夕張メロンがあると思う!」
「……なんか嫌な予感がする」
ふへへ待ってろ夕張メロン。すぐに見つけて食べてやるからなぁ!!
◆
およそ二十分後。
俺たちは深い森の中にいた。
「迷子になっちゃった……ここどこ?」
「だから当てすっぽうで移動するなってあれほど……北海道の広大さを舐め過ぎよ」
俺は北海道の大自然に敗北した。




