第80話 ホムラアカリの一日
(三人称視点)
ホムラアカリの朝は早い。
午前六時に起床。そのまま朝のストレッチを行って、軽くランニングをする。
その後自宅に戻り朝食。SMSやネット等で情報収集を行ったのち、ダンジョンへ向かう。
これがホムラアカリのここ最近のルーティーンである。
「よし、行きますか」
ホムラはほぼ毎日、ダンジョンに潜っている。
最近のお気に入りは、アジア最難関と呼ばれる魔境、渋谷ダンジョンだ。
ここに通うために、わざわざ近場のマンションを借りたくらいである。
「おはようございま〜す」
「あ、おはようホムラちゃん。今日も早いのね〜」
ダンジョン入り口手前、すっかり顔馴染みになった受付の女性に会釈して、そのまま一直線に渋谷ダンジョン上層へ。
上層は全部で3階まで。特に用事もないので、爆速で魔物を蹴散らしボスを倒す。
「ゲームみたいにワープ装置みたいなのがあれば、この時間も省略できるのになあ」
予め指定した場所に転移できる『転移石』というアイテムはあるが、現状ダンジョンの下層でのレアドロップでしか入手報告がない。
下層が存在するダンジョン自体限られているし、そこでのレアドロップとなれば市場には滅多にでまわらない。
なのでホムラは毎日、こうして渋谷ダンジョンの下層までランニングをしている。
「上層と違って、中層はショートカットできるから楽だな〜」
閉鎖空間である上層と違い、中層は渓谷を再現した開けた空間だ。
故に、空中に障害物は何もない。
ホムラは手足から炎を噴出させると、まるでロケットの様に高速で空を飛ぶ。
途中で飛行型の魔物にも出くわすが、今のホムラにとっては脅威どころか、障害物ですらない。
そのまま体当たりで爆殺し、一気に中層ラスボスの元へ向かう。
「前は結構苦戦したのに、今は全然負ける気がしないです」
最終ボス、ダブルヘッドドラゴンを前にしてそんな軽口を叩く余裕すらある。
実際、中層の魔物では敵にならない。時間加速を利用した超高速の斬撃で、あっという間に最終ボスをバラバラにする。
「さて、ここからが本番ですね」
渋谷ダンジョン下層。ここに来るまでに掛かった時間は、およそ一時間。
だがホムラの探索は、ここからが本番だ。目的地である下層7階までひたすら突っ走る。
その物音を感知して下層のモンスターが顔を出すが、それを無視してホムラは進む。
何度も通う内に、下層は魔物をスルーして走るのが最短だと気づいたからだ。
「うわ、幸先が悪い……」
しかし何事にも例外は存在する。
運悪く最短ルート周辺を徘徊していた中ボス、カイザーコカトリスに見つかってしまったのだ。
こうなると皇帝はしつこい。周辺から無尽蔵に手下を呼び出して、永遠にこちらを追いかけまわしてくるのだ。
「今日は大事な日だっていうのに、邪魔しないでくださいね」
ホムラの苛立ちに呼応して、全身から超高音の炎が噴き出す。
ホムラのスキル『焔剣士』は、使用者の感情によってその出力を上下させる。
今日のためにベストコンディションを維持していたホムラの前に、皇帝はなす術もなく丸焼きにされた。
「……ドロップ食材持っていったら、トオルさん喜ぶかな?」
最近買った、空間を拡張して大容量を収納できるカバン(※およそ十五億円)に皇帝のドロップ品を詰め、足取り軽く目的地へ向かう。
そして『止まり木亭』に到着する頃には、ダンジョンに入って約四時間が経過していた。
皇帝のせいでいつもより到着が遅くなってしまったが、まだまだお昼の時間である。
そしてホムラの一日にとって、一番のお楽しみタイムでもある。
「えへへ……今日は何食べようかな〜、トオルさんの料理は全部美味しいんですけどね!」
そう。ホムラアカリは皇帝討伐後、ほぼ毎日この店に通い続けていた。
自力で店に行けるようになった今、彼女を阻むものは何もない。
毎日足繁く『止まり木亭』に通いトオルに会いに行く、すっかり常連客と化してしまっていた。
「やっぱりお肉でしょうか……この後は大事な戦いですし、お肉は一番エネルギーが得られますからね」
そしてホムラは今日、料理を頂いた後に下層最終ボス、シャドウマスターに挑むつもりだった。
そのためのベストコンディション。そのための料理。
これの戦いを制せば、ホムラは遂に渋谷ダンジョンの下層を完全攻略する事になる。
前代未聞、前人未到の領域に胸を躍らせながら、意気揚々と止まり木亭のドアを開けようとしたホムラ。
「え?」
しかしその直前、ドアに貼られた張り紙の存在に気づく。
それには乱雑な書体でこう書かれていた。
『臨時休業。北海道に行ってきます』
店内に人の気配はない。
つまり店主のトオルは既に発っている。そして恐らく、住み込みで働いているシラユキも共に。
「えっずるい」




