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ダンジョンで魔物料理店を開いたけど客が来ないので、ダンジョン配信者になって宣伝しようと思う。  作者: 猫額とまり
第5章 店長、地上にお出かけする

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第79話 『タイフウカイテンガイのチーズ焼き』


(一人称視点)


 ――拳大ほどもある貝柱を裂き、食べやすい大きさにした後、塩胡椒を振る。

 じっくりバターを溶かしておいたフライパンに入れると、バターの包み込むような優しい香りと(いそ)の香りが混じり合って、プンプンと食欲を刺激してくる。

 そこにお馴染みの調味料、ニンニクとオリーブオイルを加えれば、舌を溶かしてしまうようなたまらないな香りが、店内に充満する。


 これだけでも間違いなく美味いが、まだこの料理は完成していない。

 熱をしっかり通したら、今度はフライパンから耐熱皿へ移す。

 そして焼いた貝を覆い尽くすように、上から粉チーズをたっぷりとかける。


 余熱で既にチーズが溶け始めたそれを、今度はオーブンで中までじっくり熱する。

 ……オーブンから取り出した時にはもう、チーズはとろとろに溶けて乳白色の海を作り出していた。

 グツグツと気泡が煮立つチーズの海に、パセリを振りかけて彩りを加え、完成。


「――お待たせしました。『タイフウカイテンガイのチーズ焼き』になります」



 今日も『止まり木亭』は平常営業だ。

 最近はシラユキちゃんがスタッフに加わって、できる事が大幅に増えた。

 やはり店の経営において人材は欠かせない資源である。


「うまっ……! このチーズと貝柱が、それぞれ違った噛み応えがあるね。特に貝の方は、旨味がギュッと濃縮されていて、口の中で海の味がどんどん広がっていくよ」

「この貝はそのままだと固くて食べにくいんですけど、裂いてから熱を通すと柔らかくなるんですよー」

「なるほど。貝は熱し過ぎると旨味成分が逃げだしてしまうというのに、絶妙な焼き加減だ。それをチーズで閉じ込めているから、こんなにも風味が出るんだな……」


 今回のお客さんは、例によって抽選に当選し、直接送迎をおこなったパターンだ。

 というか現状そのパターンしかないけど。自力で来店できるのは未だホムラちゃんだけである。




「――いやぁ、堪能させてもらいました。噂に聞く通り、ダンジョン料理というのは素晴らしいものですな。それを活かすトオルさんの料理の腕も、目を見張るものがある」

「はは、恐れ入ります」


 シラユキちゃんが冷やした麦茶を飲みながら、食後の談笑タイムが始まる。

 お客さんから色々な話を聞けるのは楽しいし、俺も密かに楽しみにしていたりする。

 ちなみに今回のお客さんはわざわざ北海道から来てくれたという、初老のダンディなおじさんだ。


「しかし惜しいものですな……ダンジョン食材というのは。適切な調理を行えば、極上の美食に仕立て上げられるというのに。我が国ではまだまだ流通ができていない。ダンジョン食材を活かした料理を食べる機会が、もっと増えればいいのですが」

「おお、分かりますかお客さん」


 ダンジョン食材の良さが分かるとは、このお客さんさてはデキるな?


「やはり目下の課題は法整備でしょうか。なにせダンジョン素材は未知の要素ばかりで、食材として流通させる為には長い時間を掛けて検査をしなければならないものですので……」

「そうなんですよねぇ」


 仮に俺が地上で料理店を開くとしても、ダンジョン食材を取り扱うとなれば、まず営業許可証はもらえないだろう。

 ダンジョン食材の安全性、調理法が確立されない限り、日本はお店で取り扱う許可を出さない。そしてそれが認められるにはきっと長い時間を要する。

 モノによっては危険物扱いされて、輸入出すら禁止されてる食材もあるくらいだ。


「ところで、トオルさんはご存じでしょうか? 最近国内でも、ダンジョン内での食材確保……特に、野菜の生育が注目されていることについて」

「うん……?」

「最近の研究で、ダンジョンの土壌には豊富な栄養素が含まれていることが明らかになりまして。もちろんダンジョンによって差はありますが、これを知って植物の育成に適しているのではないか、と目を付けた方々がいらっしゃるのです」


 野菜の生育か……。

 確かに魔物があまり来ない、肥沃な土壌なら可能かもしれないが。

 俺にはちょっと真似できないかも。生き物を育てた経験とかないし、時間管理とか大変そうだ。


「地上の季節とダンジョンの気候は関係ありませんからな。ビニール温室のように、旬を外した野菜でも美味しく食べられるのではないかと、私の地元で話題になっているんですよ。元が地上の食材ならば、検査も比較的スムーズですからね」

「それは……興味深いですね」

「聞くところによると、夕張メロンをダンジョン内で生育する事に成功したそうですよ。地上で育てた物よりも大振りで成長も早く、甘くて絶品なんだとか」

「…………」

「トオルさんのお陰で、ダンジョンを活かした食材の活用方法に注目の目が集まっています。こうした食材が市場に出回るのも、そう遠くない未来かもしれませんなぁ……」



 お客さんがお帰りになった後。

 後片付け中のシラユキちゃんに、俺は声を掛けた。


「シラユキちゃん、ちょっと俺北海道行ってくるわ」




「えっ??」

「あんな美味しそうにメロンの話されたらもう我慢できないよ俺……

俺もダンジョンで育てたっていう夕張メロン食べてみたい」

「ちょ、ちょっと待って……話が急展開過ぎる!

もう着替えてるし今から行くつもり!?」


 夕張メロンが俺を呼んでいる!

 待ってろメロンちゃん、今会いに行くからねうぇへへへっへ


「止めるなシラユキちゃん。俺は一度狙った食材は絶対逃がさないんだ。ちゃんとお土産は買ってくるからぐるぐる」

「わかった、わかったから! その意味不明な挙動と表情止めて!」


 そしてシラユキちゃんは、何かを考えこむように一瞬視線を逸らし。

 何か意を決したかのように、とある提案をした。


「その、北海道旅行? ……私も連れてってよ」



第5章:店長、地上にお出かけする




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