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ダンジョンで魔物料理店を開いたけど客が来ないので、ダンジョン配信者になって宣伝しようと思う。  作者: 猫額とまり
第4章 未知の世界からのお客様

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第75話 奇跡は


「だから、何」

「……」

「店長も同じ? それがどうしたっていうの。私はただ復讐を成し遂げたいだけ。もしかして店長……いえ、トオルさん。私を邪魔するつもりなの?」

「シラユキちゃん。このダンジョンコアは、君が元の世界に帰れる手掛かりになるかもしれないんだ。だから破壊するってのは――」


かもしれない(・・・・・・)、でしょ」

「――――」

「その顔を見れば分かるわ。私が帰れる可能性なんて、奇跡でも起こらない限り有り得ないって事は。気休め程度に言っただけでしょう?

――そんな気休めは要らない。

せっかくこの世界での生活を受け入れ始めたのに、ようやく現実を受け入れ始めたのに……

そんな曖昧な希望で、私を惑わせようとしないで」

「シラユキちゃん」

「ここで復讐さえ成し遂げられなかったら、これまでの私の人生と苦労は何だったの?

私はこれ以上、何も成し遂げられないままでいたくないの。だからそれを壊して、私は復讐を成し遂げる。これまでの私の人生に、一つの決着を付けたいのよ」


 ……やはり、今のシラユキちゃんは冷静さを失っている。

 確かにダンジョンコアが手掛かりになるというのは、俺の希望的な観測だ。

 ダンジョン自体が崩落したからだろう。俺が見る限り、元の世界線との繋がり(・・・)は断たれてしまっている。


 しかし、可能性はゼロではない。

 シラユキちゃんのように人間が転移するのと、ダンジョンコアが転移するのとでは話が違ってくる。特にダンジョンコアについては、詳しい奴に心当たり(・・・・)がある。


 だが今のシラユキちゃんは、復讐に囚われてしまっている。

 このままではその一筋の可能性を、一時の感情で壊してしまうことになる。

 それだけは、阻止しなければならない。

 俺と同じ(あやま)ちを、繰り返させないためにも。


「俺には、シラユキちゃんの復讐心は分からない。だからその復讐を否定したりはしない」

「だったら」

「でもシラユキちゃんは、一時の感情で冷静さを欠いている。その状態で、今後の人生を左右するような選択をしようとしてしまっている。……それは俺が過去にやらかした過ちと、同じ状況だ。だからシラユキちゃんが同じ(てつ)を踏まないように、俺の話を聞いてほしいんだ」

「……、――」


 シラユキちゃんが押し黙る。俺の真剣さを感じ取ってくれたのだろうか。

 その隙に、俺は自らの昔話を話す。これはいわゆる、失敗談だ。


「俺も、今後の人生を左右する重大な選択を迫られたことがある」

「――――」

「当時の俺は感情を、自分の夢を優先して選択した。その結果、俺は元の世界に帰れなくなった。――死ぬ程後悔してるよ」

「――――」

「結局、その夢すらも諦めて、俺は当てもなくダンジョンや世界線を彷徨う羽目になった。――そんな経験は、シラユキちゃんにはしてほしくないんだ」


 そっと、シラユキちゃんの手を握る。白い指先は冷たくなっていた。

 大切なものが見えなくなってしまっているシラユキちゃんに、俺が傍に居る事を気づいてもらうために、その指先を強く握りしめる。


「シラユキちゃん。俺は君に同じ失敗をしてほしくない。感情のままに選択して、元の世界に帰れる可能性をふいになんてしてほしくないんだ」

「…………」

「ダンジョンコアについて、詳しい奴に心当たりがある。だからその選択は、そいつに見せてからでも遅くはない。復讐を否定するわけじゃない。ただ冷静に、もう少し待って欲しいだけなんだ」

「…………」

「だから落ち着いて。俺が傍に居る。いつもみたいな冷静さを取り戻してくれ、シラユキちゃん」


「……………………」


 やがてシラユキちゃんは。


「……無理だよ」


 絞り出すように、声を漏らした。


「ここで何もできなかったら、私は私でなくなっちゃう……

何もなくなった私に再び現れたチャンスを、ただ眺めて待つだなんて、私にはこれ以上耐えられない」

「何もなくなったわけじゃない。俺がいる」


 今のシラユキちゃんに聞こえるように、はっきりと大きな声で伝える。


「多くの物を失ったかもしれない。けれど俺と出会えた。俺も料理と暴力ばっかりで、あんまり頼りにはならないかもしれないけれど。それでも、支えにはなれると思う。いや、なりたいんだ」


 俺に料理を教えてくれた人は、彼らは、全てを失った俺を支えてくれた。

 だから俺もそうでありたい。誰かにとっての『止まり木』でありたい。


 今、道に迷っている目の前の少女に、手を差し伸べろ。


「シラユキちゃんが崩れそうになった時は、俺が支える。また前みたいに、美味しい料理をご馳走するよ。――世界は悲劇ばかりじゃない。幸運や奇跡だっていくらでもある。色んな世界を見てきた俺が保証する」

「……ッ」

「こうしてダンジョンコアが現れたことも、俺と出会えたことも……シラユキちゃんの幸運、奇跡の一つだ。

だからもう一回くらい、奇跡は起きるさ。それを信じて、俺ともう少し踏みとどまってみないか」



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