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ダンジョンで魔物料理店を開いたけど客が来ないので、ダンジョン配信者になって宣伝しようと思う。  作者: 猫額とまり
第4章 未知の世界からのお客様

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第74話 分水嶺


祇園寺(ぎおんじ)ダンジョン? あそこ広いわりに敵が強いし、たいした資源やドロップアイテムもないでしょ? 正直、他のダンジョン潜ってた方がよっぽど得だね」



 ……他の探索者に尋ねてみても、返ってくるのは同じような答えだった。

 あれだけの爪痕を残しておいて、祇園寺ダンジョンは人類に大した恩恵をもたらさなかったのだ。

 探索者が殺到したのも最初の頃だけで、旨味がないと判明してからはすっかり人気(ひとけ)が無くなっていた。


 それでも私には、祇園寺ダンジョンに潜る必要があった。

 ダンジョンのどこかにあるコアを見つけ、私の手で破壊する。そうすれば祇園寺ダンジョンは消滅する。

 喪われたものが戻ってくるわけではないけれど、そうでもしなきゃ私の気が済まない。


 だけど探索者になって分かったのは、私には探索者としての才能が無いという事。

 一人じゃ探索もおぼつかない有様だ。探索者になってお金を稼ぐという計画は早々に破綻した。

 だから共に探索する仲間が必要だった。特に、祇園寺ダンジョンに一緒に潜ってくれるような仲間が。


 でも、こんな旨味のないダンジョンで、私のようなお荷物を抱えて探索してるパーティーなんて、簡単には見つからない。

 ようやくパーティーが見つかった頃には、災害発生からずいぶんと時間が経っていた。


「私は戦闘だと、足を引っ張っちゃうから……サポートに専念する。荷物持ち、調理、パーティーの金銭管理。何でも言って」


 そう言って、私は言われた通りにパーティーのサポートに尽力した。

 大学も辞めて、バイトと探索者を掛け持ちしながら、両親の入院費を稼ぐ毎日。

 何度か探索をしたけれど、ダンジョンコアの場所は全く見当がつかない。

 時間だけが無情に過ぎ去り、心身が摩耗していくのを感じていた。


 そして、臨界点が訪れる。



 祇園寺ダンジョンを探索中、激しい揺れに見舞われた。


「な、なに……地震!?」


 ダンジョンは地上とは隔絶した異空間だ。

 地上で地震が起きても、ダンジョンの中では何ともない。

 だからこの揺れは、ダンジョン起因によるものだった。


「やばい、足場崩れるっ!」

「早く地上へ! このままじゃ生き埋めになっちゃう!」

「シラユキさん、早く!」


 パーティ―の中で一番身体能力が低く、荷物持ちまでしていた私が逃げ遅れるのは、当然の帰結だった。

 崩れる地面に足を取られ、転倒してしまう。


「あっ……」


 致命的なタイムロス。

 それは私も、彼らにもわかったのだろう。


「――シラユキさん、ごめんっ」


 パーティ―メンバーは、私を置き去りにして地上へ向かう。

 ……その選択はきっと間違っていない。

 私を助けて全滅するより、現実的で合理的な選択だ。

 ダンジョンでは時に、非情な選択肢を迫られる事がある。

 それは私も理解していたつもりだった。たまたま今日、私の番が回ってきただけ。


 だけど。


「悔しいなぁ……」


 私は、結局何も果たすことができなかった。

 料理人にもなれず、経営を手伝うこともできず、両親に恩返しをすることもできず。

 故郷も両親も救えない。夢も叶えられず、無様に足掻いてここで死ぬ。


(ごめんなさい、お父さん、お母さん)


 ――だから私は、最期まで醜く足掻き続ける。


「……最期くらい、ちゃんと私の言う事聞いてくれる?」


 今まで散々迷惑を掛けてきて、探索でも扱いきれなかったスキルだ。

 もう一心同体のようなものだし、今更恨み言を言うつもりは無いけれど。

 それでも私の悪あがきには、最期まで付き合ってもらうから。


 私は、抑え込んでいた自身のスキル【冬術士(とうじゅつし)】を発動させる。

 全身が凍り付き、分厚い氷の結晶が私を包み込む。


 激しい地割れや落石から身を守れる程の、強固な氷の棺。

 それを生み出した代償に、私は急激な疲労感に襲われる。今まで全力でスキルを使った事なんてなかったから、仕方がない。


(次に目覚める機会なんて、あるのかどうかも分からないけれど……)


 視界と思考が暗黒に沈む。

 天地の感覚も、時間感覚も分からなくなる中で、私はおぼろげな意識で祈った。


(私は今度こそ、何かを成し遂げたい)


 そして、私の世界は閉じられた。





(一人称視点)




「――――」




 シラユキちゃんの、突然の告白。

 未練と後悔に濡れたその生涯は、このダンジョンコアに恨みを抱くには十分すぎる経歴だと思えた。


「だから、店長……それを渡して。私は今度こそ、成し遂げなきゃいけないの

そのダンジョンコアを壊して、私の復讐を終わらせる」


 幽鬼のような表情で、シラユキちゃんが冷たく告げる。

 きっとこれは、祇園寺のダンジョンコアだったのだろう。

 それがダンジョンの崩壊と共に、シラユキちゃんと同じくこの世界線に流れ着いてしまった。


 このダンジョンコアは、シラユキちゃんの未練の象徴なのだ。


「…………」


 分水嶺(ぶんすいれい)だった。

 これを渡すのは簡単だ。だけどそれだけじゃきっと足りない。

 ここで発する言葉を、間違ってはいけない。俺の直感が、そう告げていた。




 だから俺は。

 真剣に、真正面から、シラユキちゃんに応えたいと思う。


「シラユキちゃん。俺も同じなんだ」


 シラユキちゃんは、俺に自らの過去を話してくれた。

 ならば俺も、同じように答えるべきだろう。


「俺も、全てを諦めた事がある。夢も故郷もかなぐり捨てて、当てもなく突っ走っていた事が」



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