表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンで魔物料理店を開いたけど客が来ないので、ダンジョン配信者になって宣伝しようと思う。  作者: 猫額とまり
第4章 未知の世界からのお客様

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/145

第73話 シラユキヒョウカ


「こりゃ、ダンジョンコアか? ……ああ、そういう事か」


 シラユキの登場に固まっていたトオルは、マモンの叫び声で我に帰ると、まるで現実逃避でもするかのようにダンジョンコアに目を向けた。

 それだけで、目の前の魔王種が一体何をしたのか、何を企んだのか。おおよその内容を察したようだった。


「魔王種ってのはどいつもこいつも……ちょっと力を手に入れたら、すぐに調子に乗る。もう個人の性格というより、種族の特性として考えるべきじゃ――」

「――店長。それ、渡して」


 しかしまたしても、トオルはシラユキの言葉によって現実に引き戻された。

 底冷えするような冷たい声色。まるで仇敵を睨みつけるようにして、シラユキは視線をダンジョンコアにやっていた。


「……え? どしたのシラユキちゃん。そんな怖い顔して」

「それ、ダンジョンコアなんでしょう? それも、私が崩落に巻き(・・・・・・・)込まれたダンジョンの(・・・・・・・・・・)

「――――」

「渡して」


 その言葉でようやく、トオルはシラユキの精神状態が危うい状況である事を悟る。

 これが渋谷ダンジョン以外のダンジョンコア、つまり別世界から流れ着いてきた物であるという事までは、トオルも把握できていた。

 しかし、それとシラユキとの関連性。そしてそれを見たシラユキがどんな反応をするか、というところまでは、頭が回っていなかったのだ。


「もしかしてこれ、シラユキちゃんと何か関係が」

「――ええ、あるわ。大ありよ。それは前の世界で、私がずっと探し求めていたモノ……私の故郷と家族を奪った仇敵(きゅうてき)なのよ!!」





(シラユキ視点)


「私、料理人になるのは諦める」


 中学生になりたての頃、私は両親にそう伝えた。

 スキルの暴走による、無差別に周囲を凍結させてしまう体質。

 成長に伴って暴走の頻度は減ったが、もう近所の人には私の体質がバレてしまっている。

 そんな危険人物が厨房に立つ店なんて、お客さんが怖がってしまうだろう。


 ……それが現実。夢は夢であって、誰もが叶えられる訳じゃない。

 私だけじゃない、夢を諦めてしまう人は、他にも沢山いる。

 だから、この決断は何も間違っていない。

 子供(・・)のように夢を見る時間は終わったのだ。だから私は、現実を見据えた大人(・・)にならなければいけない。


「経営の勉強をしようと思うんだ。そうすれば、裏方としてこの店を支えられるかもしれないから」


 私が本当にやりたい事は、この店を栄えさせる事。

 別に私自身が、店を継ぐ必要はない。料理じゃなくても店を支える方法は幾らでもあるし、経営面でのサポートもその内の一つだ。

 だから、私の選択はきっと間違っていない。現実的に、自分のできる範囲でやりたい事をこなすだけだ。



 それから私は、必死に経営学の勉強をした。

 小学校は体質のせいで不登校気味だったので、遅れた分を取り戻すために一日中机に(かじ)り付いた。

 その甲斐あってか無事に高校、大学受験にも合格して、大学で本格的な経営学を学ぶことになった。

 大学は私の故郷、京都から離れた場所にあり、私は下宿して通う事になった。


「じゃあお父さん、お母さん、行ってきます。帰ってきたら、また美味しい料理を食べさせてね?」


 そんな軽口混じりの挨拶を交わして、私は一人実家を離れた。

 しばしの別れだ。次に来る時は、今度こそ私も両親の、そしてこの店の力になりたい。

 そんな決意を胸に秘めて、私は上京した。




 両親と会話は、これが最後になった。






『速報です。京都市の祇園寺周辺で、ダンジョンが発生しました。周辺では高濃度の魔力が噴き出し、魔力中毒による死傷者が多数出ているとの情報が入っています。危険ですのでダンジョン周辺には近づかないように――』


 テレビに映るそのニュースを、私は呆然と眺めていた。

 画面には、私のよく知る故郷の街並みが映っていた。

 視認できる程の高濃度の魔力。それがガスのようにダンジョンから噴き出し、一般人を寄せ付けない死の空間に変貌させていた。


 ――両親の店が、魔力の渦に飲み込まれていた。




 あの時、叫び出さなかった自分を褒めてやりたいくらいだった。

 同時に、あの光景を見ても冷静さを保っている自分がいる事に気づいて、冷徹な人間だと自嘲もした。


 そんなくだらない感傷は、故郷が近づくにつれて不安で上書きされていった。


 大丈夫。まだ両親が巻き込まれたと決まった訳じゃない。

 連絡がつかないのも、何か事情があっての事だ。

 お店の事は残念だったけれど、両親が無事ならまだやり直せる。


 まだ、何も恩返しできてないの。

 こんな体質の私を、大人の振りをする(ひね)くれた子供だった私を、見捨てないでくれた両親。

 お店の味が、家庭の味が、今になって何度も思い出す。

 あの料理をまた食べたい。私にとっては世界一の料理。両親が作ってくれた料理は、どれも優しい味がした。

 帰ってきたら食べさせてねって、約束したじゃない。


 私、大学でいっぱい勉強したんだよ。

 経営学だって、大学でトップの成績を出せるようになったの。

 教授にも褒められて、将来はうちのゼミに来ないかって誘われたりもした。

 だから、もうすぐ私も力になれる。お父さんとお母さんと一緒に、お店を支えられるんだ。

 もう少し、もう少しだけ待ってほしいの。


 だから。

 だからお願い。無事でいて。








 両親は意識不明の重体で発見された。





「残念ながら……現代医学では、ご両親を治すことは難しいと言わざるを得ません」

「――――」

「上級回復ポーションでもあれば別でしょうが……時価数十億とも言われる代物を用意することはできません。ましてや、二人分ともなれば」

「――――」

「シラユキヒョウカさん。あなたの選択は二つです。安くはない費用を払い続けて、いつかご両親が目を覚ます奇跡を待つか。もしくは、ご両親の生命維持装置を取り外すか」

「――――」




 人生は、いつだって選択の連続だ。

 十九年しか生きていない私でも、それくらいの道理は理解できている。

 その中でもこの選択は、格別だった。

 きっと今後一生、これ以上のものは無いだろう。


 両親は、最後まで避難誘導に尽力していたそうだ。

 自分の身を顧みず、他の人を安全な場所まで誘導し続け、そして力尽きた。


 祇園寺(ぎおんじ)ダンジョンが出現して半年。

 魔力災害は収束したが、両親は一向に意識を取り戻さないでいる。


「あなたの人生にとって、重大な選択です。この場で選べとは言いません。

ですが、一つアドバイスをさせて頂くならば。

……どうか冷静に、現実的な判断を。あなたの人生は、あなたのものです。

今のあなたが一番優先するべきことは何なのか。それをよく考えてみてください」


医者のその言葉が、半年前から凍りついてしまった私の心に、ゆっくりと浸透する。

私は今、何をやりたいのか。

大人になって、現実的に考えて、何を優先すべきか。何をするべきなのか。


「私は」


 自然と、言葉が出ていた。

 それは医者に伝えるためではない。自分自身への宣言だ。


「私は、探索者になります。

私が一番やりたいことは、両親を、そして故郷とお店を取り戻すこと。

だから私は、探索者になってお金を稼いで、回復薬を買い取ります。

そして祇園寺ダンジョンを攻略して、ダンジョンコアを見つけ出して破壊します」




 ……無理だよ、そんなの。

 だって私は、諦めることしか知らないんだから。


 そのくせいつまで経っても、夢の残滓(ざんし)に縋り付く。

 いつまで経っても、私は大人になれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ