表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンで魔物料理店を開いたけど客が来ないので、ダンジョン配信者になって宣伝しようと思う。  作者: 猫額とまり
第4章 未知の世界からのお客様

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/145

第72話 報仇雪恨(ほうきゅうせっこん)

(三人称視点)


「〜♪」


 誰も居なくなった止まり木亭にて。

 シラユキは、鼻歌を歌いながら皿洗いに勤しんでいた。


「初めてのお客さんから、もう一人の店長まで……濃いメンツばかりだったわね。この店はいつもこんな感じなのかしら」


 配信が終わった後、ホムラは休憩と言って一旦外に、トオルは何やらやる事があると言って、どこかへ消えてしまった。

 こうして残されたシラユキは皿洗いをしている訳だが、彼女は意外とこの仕事を気に入っていた。


 ダンジョン内にも関わらずなぜか暖かい水が蛇口から流れ、冷たいシラユキの手を包み込む。

 その暖かな感覚に目を細めながら、シラユキはふと思い返す。


(……こうして皿洗いしてると、実家を思い出すな)


 シラユキの実家は、料理店を営んでいた。

 家族経営の小さなお店だったが、シラユキはその店のことが大好きだった。

 店の料理が一番美味しいと本気で思っていたし、その両親の娘であることを誇りにも思っていた。

 いつか自分も店を引き継ぐのだと思い込み、小さな頃から料理の勉強をしたり、誕生日プレゼントには店の手伝いをさせて欲しいと、わざわざ親にせがむほどであった。

 彼女の身に、スキルが発現するまでは。


(……昔は皿洗い一つも、満足にできなかった。台所を凍らせちゃって、水道管が破裂して大騒ぎになったこともあったな)


 強大すぎるスキルを制御できず、ふとした拍子に冷気が漏れ出してしまう体質。

 四六時中、いつスキルが暴走するのか気が気でなくなり、学校にも行けなくなった。ろくに眠れない日が続いた事もあった。

 年を経ると共に、次第に暴走の頻度は減っていったが……冷めてしまった(・・・・・・・)彼女の心は、戻ることはなかった。


 彼女は、料理人になるという夢を諦めたのだ。


(……私は大人になった(・・・・・・)。だから現実を見て、一度は諦めたはずの夢なのに……どういう訳か私は、再び厨房に立っている。人生っていうのは、分からないものね)


 彼女の首には、控えめな装飾のネックレスが掛けられている。

 厨房に立つ前、トオルに渡されたものだ。なんでもスキルの暴走を防ぎ、さらに持ち主を守るバリア機能まで付いたマジックアイテムらしい。


 ……前の世界線でも、そんなアイテムの噂すら聞いた事がなかった。恐らく、相当な貴重品。シラユキでは一生手に入らないレベルの代物。

 これを身に付けてから、スキルの暴走の兆候はない。

 こうして再び厨房に立つことが出来たシラユキは、トオルに深い感謝の念を抱かずにいられなかった。


(……ちょっと雑念が多くなってきたな。店長に恩を返す為にも、今は仕事に集中しなきゃ)


 鼻歌が止み、代わりに水音と磁器の擦れあう音が響く。

 シンクが空っぽになるまで、そう時間はかからなかった。


「よし、お仕事終わり。……にしても、店長はどこにいったのかしら」


 行き先も告げず姿を(くら)ましたトオル。

 それなりに時間が経過したが、戻ってくる気配は一向になかった。


 少し探してみようか、とシラユキが考えたその時。


「――?」


 ふと、誰かに声を掛けられた(・・・・・・・・・・)ような気がした(・・・・・・・)

 首を振って声の主を探すが、やはり店内には誰も居ない。

 しかしガラスが擦れ合うようなその()は、再びシラユキの耳に滑り込んでくる。

 幻聴ではない。


「呼んでる……?」


 シラユキ自身にも意味がわからない言葉を呟き、声のした方角へふらふらと歩き出す。

 ――二階へ伸びる階段の手前。凝視しなければ分からない程の、空間の小さな(ひず)みがあった。


「ここから、声が――」


 何かに誘われるように、シラユキはその歪みに手を伸ばす。

 ――直後。シラユキの視界は暗転し、次の瞬間にはトオルが目の前に居た。



 シラユキは一通り店の構造は把握したつもりだったが、この暗室には覚えが無かった。

 薄暗くてよく見えないが、何か大きなものがあちこちにぶら下がっているように見える。


 不気味な部屋だと思いつつも、トオルを見つけた事で少しシラユキの頬が緩む。

 そして先ほどの()の正体を探るべく、トオルに尋ねる。


「店長、何か騒がしいけど大丈夫?」

「ああシラユキちゃん。気にしないで大丈夫ー、今日の晩御飯は豪華な鶏肉料理になると思うから、期待して待ってて――」


 そこでトオルの言葉は詰まった。

 シラユキの姿を見て、なぜか驚愕するように固まっていた。


「? どうしたの店長、そんな顔して」

「いや、シラユキちゃん、その、どうやってここに?」


 トオルの発言の意図が分からずシラユキが首を傾げていると、突如甲高い叫び声が聞こえてきた。


「わ、わかった!! 何でも話す! コレ(・・)も差し出すからっ! だから、だから殺さないでくれ!! 頼む、いやお願いしますっ!!」


 叫び声の主は(からす)のような頭をした魔王種、マモンだった。

 半ば発狂したような様子でマモンは、その懐から黒い宝玉を取り出した。


「――あ」


 シラユキは、それに目を奪われた。

 子供の顔程もある大きさの、まるで黒真珠のように怪しく光を反射する球体。

 しかし明らかにそれは、尋常ではない気配を漂わせている。


 別世界から流れ着いたダンジョンコア。

 実際に目にするのは初めて、にもかかわらず、シラユキはその正体(・・)を悟った。


「あなたが、私を呼んだの」


 そしてシラユキは――その冷たい眼差(まなざ)しに、凍えるような憎悪の感情を宿した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ