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ダンジョンで魔物料理店を開いたけど客が来ないので、ダンジョン配信者になって宣伝しようと思う。  作者: 猫額とまり
第4章 未知の世界からのお客様

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第67話 衝撃の事実


:お、できたか

:相変わらず早いなぁ……煮込みって普通もっと時間掛かるもんだろ?

:ここの店長に常識を求めてはいけない

:くそ、見た目すらわからない! 俺らには見る資格すらないってのか!



「米と味噌汁は要るか?」

「ああうん、貰うよ」


 『魔神豚の煮込み』と白米、味噌汁が、もう一人の俺の眼前に並べられる。

 こっちも特別な素材は使っていない。地上にある素材を使った、普通の白米と味噌汁だ。

 今回の主役である煮込み、その主張を崩さないようにするのと、別世界線の俺でも馴染み深いであろう、日本食の味を極力再現したかったからだ。


「んじゃ――いただきます」


 そこに込められた俺の意思を感じ取ったのかどうかは分からないが。

 もう一人の俺は、静かに煮込みを口に頬張った。


「…………」

「…………」


 暫くの間、誰も言葉を発しなかった。

 勢いよく流れるコメントも、今は気にならない。

 俺は思っていたよりも、他の俺の感想を気にしているようだった。




美味(うめ)ぇな」


 やがて。

 パラレルワールドの俺は、そう一言だけ(こぼ)した。


「正直、ここまで料理ができるとは思ってなかったよ。精々中学生が調理実習で作ったような、素人感丸出しの料理が出てくるかと思った」

「……」

「いや、見くびってた。俺にこんな才能があったんだなって、マジで驚いてる。美味いよ、めちゃくちゃ」


 そこまで言い終えた後は、ぱくぱくと勢いよく残りを食べ始めた。

 同じ俺だ。例え言葉を交わらせなくとも、嘘を言っているかどうか、どんな感情を浮かべているのかくらいはわかる。

 きっと、向こうも同じだろう。


懐かしい(・・・・)……懐かしいな。ちゃんとした和食食ってるって感じがする。煮込みも味は淡白なのに、旨味っていうのか? 噛めば噛むほどそれが溢れ出て、胃袋を叩いてくる。脂っこいのも気にならない、不思議と癖になる味だよ。淡白なのに暴力的な味で、米と一緒にどんどん箸が進んじまう」

「……食レポ下手だな」

「うるせーほっとけ。初めてなんだよ、食事にこんな長文感想抱くの」


:くっそ辛辣で草

:自分に対して厳しすぎない??

:まあ人には得手不得手があるから

:俺らもコメントしたいけど真っ暗だから何もわかんねぇ

:声色から美味いって感情は伝わってくるよ


 ふと、コメントを見るとそんな感じの意見が多かった。

 ……モザイク掛けた写真とかなら大丈夫かな? 後で試してみるか。




「何ていうか、不思議な感覚だな……こんな未来もあったんだなって、もう一人の俺からまざまざと見せつけられるの。俺なんか全然料理できねーもん」

「多分、お前じゃ練習しても無理だよ。師匠がいたから俺もここまでこれたんだし」

「師匠? それって俺の知ってる師匠(・・)じゃないよな?」

「お前のは戦いの師匠だろ。もう一人、俺には料理を教えてくれた師匠がいんの」

「師匠が二人ってことか。……いい出会いだったんだな。確かにこんな技術、独力じゃ一生辿り着ける気しねーわ」


 ……。

 いい出会い、か。

 他でもない俺自身がそう言うなら、きっとそうなんだろう。


「俺はお前がどんな人生を歩んだのか、詳しくは知らないが」

「――――」

「簡単な道のりじゃなかったってのは、分かるよ。その果てに辿り着いた結果が、今のお前だっていうのも。……別にその未来(IF)を、否定したりはしねぇよ。とりあえずお前の料理は美味い。それだけで十分だろ」


 ――料理人としての人生を選んだことを、不安に思っていなかったと言えば嘘になる。

 初めてのお客さん、ホムラちゃんに美味しいと言ってもらえた時、その不安は取り除かれたと思っていたが……

 どうも、俺は自分が思っていたより心配性らしい。

 他の世界線の俺から見て、俺の選択がどう映るのかを確かめたかったのだ。


 だから別世界の俺が、俺の料理を食べたいと言った時、内心では少し嬉しかった。

 目的を()げられず逃げ出した俺が、受け入れられたような気がして。

 ……本人には絶対言わないが。


「……なんにせよ、満足してくれたなら何よりだよ。残さず食べろよ?」

「お? なんか態度軟化したかー? これはあれだ、デレ期到来ってやつか?」

「そうだ、その煮込み肉魔力を吸って蘇るから、ちゃんと胃袋で魔力管理しないと中から食い破られるぞ?」


 そんな冗談をぶっ込んでやると、目の前の俺は慌てて自分の腹を抱えだした。

 はいはい、お粗末さまでした。



:結局画面真っ黒なままだった……

:きっと凄い光景が映ってたんだろうけどなあ

:店長が二人いるせいで余計に内容がわかりませんでした

:店長声帯変えてくれ


「下層に来れるくらい強くなれば見ても大丈夫だぞ」


:無理ゲー

:黙れwww

:あの、下層に行けたらAランクなんですよ? 今Aランク何人か知ってます?

:行けたら俺らはこんな所でコメントなんかしてねぇんだわ


「……ん? なんかコメントおかしくね? ここダンジョンの下層だよな?」


 食べ終わったもう一人の俺が、壁のディスプレイに映るコメント欄を見て違和感を抱いたようだ。

 そういや、この世界線の特異性について説明してなかったな。


「なんかこの世界線、ダンジョン配信はあるくせに下層に行ける人は少ないらしい。ちょっと変なんだよ」

「……マジ? このダンジョン配信用のドローン、魔力で動いてるよな? それくらい技術が進んでるんだったら、魔力の兵器運用とかもできるはずだろ。なら下層くらい――あれ? じゃあもしかしてお前の店クソ立地?」


:草

:バレたw

:それはNGワードです

:出禁になるぞ



「言われなくても出禁にするから大丈夫だ」

「何が大丈夫なんだよ!? せっかく褒めてやったってのに!」


 ……そう。恐らくそれが正規ルート。

 魔力の兵器運用(・・・・・・・)。人類の技術特異点(シンギュラリティー)ともいえるその発明が、なぜかこの世界線では存在しない。

 魔力で稼動するドローンや家電はあるのに、だ。

 魔力を弾にする銃火器の一つ、探索者なら持っていても不思議ではないのに、この世界の探索者は剣とか弓とか杖とか、正直どれも古臭い武器(・・・・・)ばかりなのだ。


 まあスキルの発動条件だとか、俺みたいに一定の強さまで辿り着くとかえって原始的な武器の方が強いだとかの理由で、それらの武器は完全に廃れた訳ではないが……にしても、魔力兵器が存在すらしないというのは流石におかしい。

 俺の知らない所で存在しているのかもしれないが、少なくとも一般には出回っていない。

 故に、ダンジョン攻略が遅々として進まない。


 というか、この世界はどうにもダンジョン配信に(・・・・・・・・)都合が良すぎる(・・・・・・・)

 ダンジョン配信のようなガチの殺し合いというのは、倫理的な問題で娯楽になり辛い。

 法律や環境、倫理観の変化等で、ダンジョン配信文化が受け入れられた世界線もあるが……この世界線はちょっと違うように見える。

なんというか、暴力描写に関する(・・・・・・・・)忌避感が薄い(・・・・・・)。そんな印象を受けるのだ。

 先の魔力兵器が存在しない件も踏まえると、なんともちぐはぐでおかしな世界線だ。


 ……といったこちらの事情を、他の誰にも聞かれない様、時間操作を駆使してもう一人の俺に伝えた。

 正直、他の世界線……ここから遠い世界線に棲む俺の、意見も聞いておきたかったからだ。


(……大丈夫なのかよ? この世界線、厄ネタ(・・・)の臭いがプンプンするぜ。世界線にも色々な文化レベルがあるが、明らかに文化レベルを操作されてるだろ、コレ。他の世界線から察知されずにそんな芸当ができるの、相当ヤバい奴しか心当たりないけど)

(お前が心配するようなことじゃねーよ。こっちの俺はお前よりずっと強いし)

(暴力だけじゃどうにもならない事もあるだろ……それに俺が心配してるのはそっちじゃない。この世界線が消滅(・・・・・・・・)しちまわないか(・・・・・・・)って心配してるんだ)


 世界線の消滅。

 ダンジョンと同じように、数多の世界線は増殖と消失を繰り返している。

 いや、消失という表現は正しくないか。

 ただ先細りしすぎたり、遠くなりすぎて見えなくなってしまうのだ。

 誰からも認知されない世界線など、それは存在していないのと同義なのだから。


(こんな大規模な操作や改変、何が起こってもおかしくないぜ。お前、ここに居たらヤバいんじゃないのか?)

(余計なお世話だよ。居候先の問題くらい、こっちでどうにかするさ)


 とはいえやはり、他の俺に聞いてみてもこの世界線は大分危なっかしいというのは共通認識の様だ。

 シラユキちゃんの件もあるし、そろそろ何かしらの対処をしなきゃだな。

 ……気は進まないが、あいつ(・・・)に会って話す必要があるか。


「……ふーん、俺がそういうなら、それでいいけど」

「? 何か話してたんですか?」

「何でもないよ。ホムラちゃんは気にしなくて大丈夫」


 ホムラちゃんには申し訳ないが、この辺の事情もまだ話すわけにはいかない。

 現状、誰が敵だか分かんないからね。


「さて、もう用は済んだだろ? 満足したならさっさと帰れよ」

「え~冷てぇなあ、俺お客さんだぜ? もうちょっと優しく接してくれよ~」


 よし叩きだすかコイツ。


「おいおい冗談だって。言われなくてもそろそろ帰るって。家で嫁さんも待ってるしな」

「ああ。お前も自分の世界線での生活があるんだろ? こっちで駄弁ってないでさっさと……」




 は?


「あ、言ってなかったっけ? こっちの俺は結婚してるんだよ」

「「えっ」」


 ホムラちゃんとシラユキちゃんが、綺麗に声を重ならせた。



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