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ダンジョンで魔物料理店を開いたけど客が来ないので、ダンジョン配信者になって宣伝しようと思う。  作者: 猫額とまり
第4章 未知の世界からのお客様

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第62話 トオルvsマモン


「知っているぞ、サカガワトオル」


 先制攻撃を許してしまったにも関わらず、マモンは不敵な笑みを浮かべる。

 それは、勝利を確信した者の笑みであった。


「貴様のスキル、その正体を……そして、その弱点を! ククク、今の攻撃で私を倒せなかったのが良い証拠だ。そして貴様はもう、逃れられない」


 深層に棲まう者ならば、誰でも気づくだろう。

 いつの間にかトオルを囲むように、結界の檻が作られていることに。


「貴様のスキルは【召喚術】。別の世界線や異空間から、生物や物体を呼び出すスキルなのだろう? 今の隕石攻撃も、別の空間から呼び出した物だ」

「――――」


 その沈黙を、マモンは肯定として捉えた。

 まるでカラスの姿を粘土細工のように、無理やり人型(ひとがた)(こしら)えたかのような魔物。

 その鳥類のような頭部が、愉悦により歪な三日月を作りだす。


「だがその力は、空間を自在に操れなければ性能は低下する。何かを召喚する為には、空間を操り穴を開けなければならない……そしてこの深層はもはや私の手中。空間はおろか、時間さえも私の思うがままだ。貴様はもはや籠の中の鳥。ここに来た時点で、何もできずに殺されるだけの虫ケラ同然よ」




「ど、どーするんじゃ!? 貴様のスキル、全部マモンの奴にバレとるぞ!? しかも閉じ込められておるではないか!!」

「君が黙ってればスキルくらいどうとでも誤魔化せたんだけどなぁ」

「アルちゃん……」


 せっかく黙っていたのにアルに全部暴露されて、呆れた表情を浮かべるトオルとレヴィ。

 流石に誤魔化す気力も失せたのか、トオルは自身のスキルが【召喚術】である事を渋々認めた。


「そうだよ、俺のスキルは【召喚術】だ。()の推測も正しい。確かにこの空間では俺の行動は大きく制限されるだろう。……にしても、よくわかったね? 俺のスキルの正体が。まるで事前に知っていたような口ぶりだけど」


「ククク……あぁ、良く知っているとも」


 カラスの鳴き声にも似た甲高い笑い声が深層にこだまする。

 まるで何かを見せびらかすかのように、マモンは両手を広げて高らかに宣告した。


「簡単な理由だ……私も貴様と同じく、【召喚術】の使い手だからだ。数千年前、かつて貴様がこの深層を訪れた時、随分と暴れたらしいではないか。その際の痕跡、魔力の跡を調べれば、私と同じ使い手である事は容易に想像できたとも」

「ふーん」

「貴様を排除すれば、もはや私の覇道に立ち塞がる者は居ない……音楽家を気取るあのいけすかない魔王も、貴様の力を取り込めば敵ではない。そして私は、完成された存在(・・・・・・・)へと昇華する――」


 空間が(たわ)む。時間が(きし)む。

 マモンの持つ強大な力が、三人を押しつぶさんとしていた。


「――貴様はその為の最後の贄だ! 私の手に掛かる事を、光栄に思いながら死ね!!」

「――随分長い前口上だったな? この程度で俺に勝つ気でいるとか、お笑い種だぜ」


 トオルの魔力とマモンの魔力がぶつかり合い、時空間が激しくうねりを打つ。

 人知れない深層の奥深くで、この世界線の命運を賭けた戦いが始まった。



「召喚――アビスオウル」

「召喚。アビスデーモン」


 両者が同時に、【召喚術】のスキルを使用。

 見るだけで人間を発狂させる、極彩色の羽を持つ梟。

 人間の欲望を吸い上げる、膨れた腹を持つ山羊の悪魔。

 どちらも深層クラスに該当する魔物。それを数百単位の大群として呼び出し、互いにぶつけ合う。


「ッ!? まだこれ程の【召喚術】を行使できるのか!」

「君の方はそんな雑魚しか呼び出せないのか? 正直期待外れだよ」


 時空間の制御権はマモンにあるにも関わらず、トオルはその圧倒的な魔力で強引に【召喚術】を発動する。

 本来の出力と比べれば大幅に劣る。それでも尚個体での強さにおいては、トオルが呼び出したアビスデーモンの方が上だ。

 山羊の体から翼を生やし、飛来するアビスオウルを次々と撃ち落としていく。

 両者の間には、あっという間に屍山血河ができあがった。


「驚いたよ……正直貴様の実力を、過小評価していた。だが、私の勝利は揺るがない」


 マモンは余裕の態度を崩す事なく、次の召喚へと移った。

 呼び出されたのは巨大隕石。先ほどのトオルの召喚術、【隕石招来(メテオコール)】を上回る大きさと速度だ。


「【時間掌握(タイムルーラー)】」


 対してトオルは、隕石ごと時間を掌握して停止させようと目論む。

 時の流れが凍りつく。しかしその静止はほんの僅かな間であった。


「時間を操れるのが、貴様だけだとは思うなよ――」


 マモンも同じく、時間操作によって対抗してきたのだ。

 ホムラが時間操作の技術を模倣できたように、ある程度力を持つ魔物であれば、時間を操れる存在はいくらでもいる。

 深層クラスともなれば、尚更である。


 結果、両者の時間操作がぶつかり合い、時間停止は一瞬のみの結果に終わる。

 隕石は何事もなくトオル目掛けて衝突する。……その寸前で、


「【次元一閃】」


 次元を(わか)つトオルの斬撃が、隕石を真っ二つに両断した。

 その手には亜空間から召喚された、一振りの刀が握られている。


「時間操作に【召喚術】、そして剣術……全て私の、想定通りだとも」


 そしてトオルの四方を埋め尽くすように、マグマの海が出現していた。

 マモンが呼び寄せたその溶岩は、回避の隙すら与えず三人を飲み込む。


「うっぎゃああああ!!?? 死ぬ死ぬ死ぬ! 助けてぇええ!?」

「アルちゃん落ち着いて! 時間を歪めてバリアを作るの! 一人じゃ無理でも、私たち二人が協力すれば作れるはず!」

「そもそもなんで儂等がこんな目に遭うんじゃ! 儂等は道案内を強制されただけなのじゃ〜! おいマモン! そこの人間は好きにしていいから、儂等のことは見逃してくれんか!?」

「雑魚風情が、虫のような戯言をほざくな。我ら魔王種は生まれ落ちたその瞬間から敵同士。馴れ合うことしかできない雑魚など、纏めて始末してやる」


 マモンは巻き込まれた二人を見逃すつもりはなかった。

 そしてトドメとばかりに時間が操られ、再び隕石が超高速でぶつけられる。

 地球を貫くほどの威力を保ったその一撃は、深層の床をぶち抜き、更に下へと続く大穴を開けた。


「フン……この程度か?」

「まさか」


 溶岩の海が裂け、中から無傷のトオルが姿を現す。

 トオルはアルやレヴィと違い、焦ることなく冷静さを保っていた。


「君、さっきからやってる事がしょぼいよ。深層を支配したって言ってもこの程度なの?」

「――――」

「もっと派手なのをぶっ込んでこいよ。あるんだろ? 俺への対抗策。じゃなきゃ、こんな挑発まがいの事しないもんなあ」


 見え透いた挑発。

 マモンにもそれは理解できていた。


「クク……いいだろう」


 だが、マモンはあえてその挑発に乗ることにした。

 技の応酬にも飽きてきた所だったのだ。


「貴様は知っているか……? 深層の更に奥、ダンジョンの最深部の存在を。世界の()て、世界の最果てを!!」


 マモンの背後から、全身が総毛立つようなおぞましい気配が放たれる。

 空間を割り、恐ろしい存在が顕現(けんげん)しようとしている。


「そこに住まう存在の強さは、深層の雑魚共とは比べものにもならない……! しかし私は、その超存在を呼び出すことに成功したのだ!」

「深層の、更に奥……?」


 レヴィが愕然とした表情で呟く。

 隣のアルと共に既にボロボロで、そのおぞましい気配にガクガクを歯の根を鳴らして震えていた。


「う、噂話程度に聞いておったが、実在したのか……? あんな怪物、本当にこの世界に存在していいものなのか……!?」

「ククク、貴様ら新参の魔王は知らないのも無理はない。その領域に辿り着いた怪物は、もはや我らの常識で推し量れるものではない。理解のできない存在とは、得てして恐怖の対象となるものだ。そして私は一部とはいえ、それをも呼び出し行使できる存在だ!!」


 ――現れたのは、巨大な()だった。

 深層どころか、地球……いや、宇宙そのものを掴み取れてしまう。

 そう錯覚させるほどの、巨大で恐ろしい存在。


「見よ! この神々しくも恐ろしい存在を! この力があれば、こんな脆弱な世界線など容易く支配できる――」


「ゴタゴタうるさいよ。さっさと切り札を出せ、鳥野郎」


 鳥野郎こと、マモンには一切(・・・・・・・)興味を見せない(・・・・・・・)様子で、トオルが挑発を重ねた。

 マモンの笑みが、僅かに歪む。


「いいだろう……! ならば知るがいい!! 貴様らの理解の及ばぬ、超常の存在を!!」




 その巨大な腕が、振り下ろされる。



 まるでハエでも叩き潰すかのように。一切の認識を許さず、防御も回避も行わせず。



 何も抵抗することができずに、あっけなく叩き潰された。




「ガッ……ハ……!?」


 ――マモン自身が(・・・・・・)



「まあ、そんな手だろうとは思ってたよ」


 退屈そうな表情で、トオルが呟く。


「俺に対抗できる可能性がある切り札なんて限られる。お前が召喚術を使うって聞いた時点で、深層の奥から何か引っ張り出してくることは予想が付いた。だから、俺はその制御を(・・・・・・・)乗っ取ることにした(・・・・・・・・・)


 虫の息のマモンの首根っこを掴み上げるトオル。

 後ろのアルとレヴィは、何が起こったのかまだ理解が追い付いていないようで、石像のように固まっていた。


「無理矢理上位の存在を呼び出したら、制御が甘くなるに決まってる。俺の安い挑発に乗ってくれてありがとう」



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