第60話 お泊り会しません?
「勢力争いに敗れた……それで、たまたま行き来できるようになってた下層に上がってきたって事か」
「は、はい……これまで何百年間もの間、誰も果たせなかった深層の統一。その野望を、その魔王種が成し遂げようとしているんです」
なるほど、そりゃ確かに異変だな?
深層というのは魔王種とユニークモンスターの巣窟だ。そいつらが常に苛烈な縄張り争いをしてるせいで、なかなか支配者が……ボスモンスターが誰になるのか決まらない。
無論、今までこういった例が全くなかった訳ではないだろう。
だが、このタイミングでの勢力拡大。偶然と片付けるには、少々出来過ぎている。
「そいつの名前は? なんで急に勢力を広げ始めたんだ」
「“マモン”という名前です。これまでは私たちと同じ、弱小魔王の一人だったんですが……ある日を境に、突然中身が入れ替わったみたいに性格が変わって、冷酷で、しかも凄く強くなっていたんです。原因は、分かりませんが……」
「――――」
ふと、一つの可能性が脳内を掠める。
俺はシラユキちゃんが転移してきた時、他に余計なものがこっちに転移してきていないか、パトロールを行った。
だが、深層についてはパトロールをしていない。
深層は下層より広大だし、時間のズレを含めてどれ程の時間が掛かるか分からなかったからだ。
下層と深層を繋ぐ出入り口を結界で封鎖しておけば問題ないとも思っていた。
だが犯人は、何らかの手段でその結界を無視して、俺に喧嘩を売ってきた。
さっきわざと開放した結界はすでに閉じてある。ニワトリの大量出現はその後の話だ。
……今回と同じようなことが、またいつか行われるかもしれない。
つまり、俺は四六時中魔物に襲われる可能性があるということ。
それってつまり、営業妨害だよな?
「よし殺そ」
「ぴえっ」
おっと、殺気が漏れちゃった。レヴィという魔王が怯えてしまっている。
こいつらは深層の道案内に連れて行こう。深層は地形もコロコロ変わるから、現地を知る案内役が欲しい所だ。
「そのマモンとかいう魔王種を、暫定襲撃犯と考えて対処します。……深層で縄張り争いするなら勝手にどうぞ、ってスタンスだったが、こっちに喧嘩売ってくるなら話は別だ」
そうと決まれば即行動。
魔王種二人を時が止まった亜空間に放り込もうとして……シラユキちゃんの制止を受けた。
「ちょっと、店長……もしかして、今から深層に向かうの?」
「ん。うちの店の営業妨害した奴を潰してくる。魔物なら尚更容赦は必要ないし」
「……それは、そうかもしれないけど。ちょっと気になってることがあるの」
「?」
「なんでこのタイミングで、店長の怒りを買うような真似をしたのかってこと。……そこの女の子の話が本当なら、縄張り争い? みたいなのに専念してるんでしょ? そんな状況でなんで店長にちょっかいを掛ける必要があるのよ」
……うーん。それは確かに。
シラユキちゃんの冷静な意見を聞いて、昇っていた血が降りていくのを感じる。
久々にムカついたせいで、ちょっと冷静ではなかったかもしれない。
「……確かに気になるね。けどここで考えて結論が出そうにもないし、直接相手に聞いてみるしかないか?」
「それも手段の一つだけど、帰りはいつになるの? 私もそうだけど、ホムラさんとの食事の約束もあるんでしょう?」
「…………うーむ」
確かに。仰る通りです。反省。
深層に行くのは簡単だが、その間二人やお店のことを放りっぱなしになってしまう。
とはいえ、深層にいるらしい襲撃犯を野放しにはできない。
……仕方ない。
切り札を使う。あれはデメリットがめちゃくちゃデカいから、極力使いたくはなかったんだが。
「やっぱ深層行きはナシで。このままお店は通常営業を行います」
「そ、それはそれで大丈夫なの……?」
「大丈夫。この状況を解決できる切り札がある。ちょっと後処理が大変にはなるが」
やっぱりこういう時、第三者の冷静な意見って必要だなぁ……
俺一人だったらあのまま深層に突撃して、隕石の雨で深層をめちゃくちゃにしてたかもしれん。
「ごめんホムラちゃん。鶏肉料理、一日だけ待ってもらえる? 明日には予定通りコラボ配信するから」
「わ、わかりました。緊急事態ですし、仕方ありませんね……」
ホムラちゃんには悪いことをしてしまった。
明日は必ず、美味しいチキン南蛮をご馳走しよう。SNSで宣伝もしておかなきゃな。
「さて、そこの魔王種二人」
「む、むう」「ひえぁっ」
「……とりあえず今後の処遇は保留にするよ。後で仕事も頼みたいし、大人しく従うなら命は取らないでおく」
ぶっちゃけ食材を落とす魔王種なら、明日のコラボ配信で使おうと思ってたけど。
そうでないなら興味はない。生きてても死んでてもどっちでも良い。
「ぐっ……儂がこんな、人間にいいように扱われるとは……」
「ア、アルちゃん今は言う通りにして!」
「……やっぱり、私には店長が幼女二人を脅迫してるように見える」
「シラユキさん、魔物の中にはああやって擬態して、人間の油断を誘うタイプもいるんです。見た目で判断すると痛い目に遭っちゃいますよ」
ホムラちゃんの言う通りである。
サキュバスだとかミミックだとか、この手の擬態モンスターは幾らでもいる。
見た目が人間だからといって、仲良くやれるとは思わない事だ。特に俺の場合、そういう奴が身近に居るし。
「ありがとうシラユキちゃん。お陰で方針も決まったし、今日のところは一旦解散――」
「トオルさん、この後少しお時間よろしいですか?」
おや、どうしたんだろうホムラちゃん。
「実は、探索者協会から状況の説明を求められてまして……トオルさんが側にいた方が、話がスムーズに進むかな、と思いまして」
「……ああ、なるほど。さっきの事件、思いっきり配信されてたもんね」
ボスモンスターが大量出現するという、おそらく前代未聞の事態。
探索者協会としても、原因の特定と対処が必要なのだろう。
となると、深層の存在を隠し通すのは難しいな。素直に知ってること喋っちゃうか。
「いいよ。地上に向かう? それとも通信か何かで?」
「さ、流石に地上まで来てもらうのは恐れ多いので……テレビ通話で連絡しようかと。……そ、それに」
「ん?」
「個人的に、相談したい内容も、ありますので……」
なるほど……?
何の相談かはわかんないけど、それなら店内に居てもらう方が都合が良いかもしれんね。
「わかった。なら提案なんだけど、今晩ウチに泊まってく? 色々ゴタゴタしたせいで、すっかり日も暮れちゃってるし」
「…………へっ!?? おおおお泊まりですか!!??」
「うん。襲撃犯の手法が不明な以上、地上も絶対安心とは言えないし……俺の店が一番安全かなって。それにシラユキちゃんも同年代の女の子が居たら安心すると思うし」
ぶっちゃけ後半の理由のほうが大きいけどね。
流石に地上まで干渉できるとなると、深層クラスの魔物だなんて範疇に収まらないし。
シラユキちゃんもまだこの世界には慣れてないはず。ちょっとでも会話ができる人、あわよくば友人にでもなってもらえれば、安心すると思うのだ。
「シラユキさんと……? ん? あれ? シラユキさんも今日泊まりなんですか?」
「……その、私は住み込みで働いてるの。だから毎日お泊まりみたいなもの」
「えっえっえええぇぇぇ!?」
ホムラちゃんが顔を真っ赤にして絶叫する。一体どうしたというのか。
「……なんかアイツら、儂らを放置してイチャつき始めたんじゃが」
「今は下手に刺激しちゃダメ……! 耐えればきっと、チャンスは来るはず……!」




