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ダンジョンで魔物料理店を開いたけど客が来ないので、ダンジョン配信者になって宣伝しようと思う。  作者: 猫額とまり
第4章 未知の世界からのお客様

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第54話 お前口呼吸なの?


「ハァ……ハァ……」

「貴様ら! 好き勝手我の身体を使いおって!! さっさとこの拘束を解かんか!」


 肩で息をするシラユキちゃん。

 あれからしばらくの間、シャドウマスター相手に色々な実技を試してもらった。

冬術師(とうじゅつし)】という、氷を操れるスキルの能力、精度、威力。そしてシラユキちゃんの性能(スペック)を合わせた、総合的な評価。


「うん……ありがとうシラユキちゃん。もう大丈夫だよ」

「こ、こんなにスキルを使ったのは久しぶりで、疲れた……」

「無視するな! 我の言う事が聞こえんのか人間共!!」


 水入りペットボトルを転移させると、シラユキちゃんは一瞬驚いた様子を見せたが、もう慣れたのかそれを受け取って勢いよく飲み始めた。


「……ふぅ、ありがと。それで、どうだった? 私の評価は」

「うーむ……」

「いい加減にしろ虫ケラ共! さっさと言う事を聞かんと、恐ろしい目に――」

「ちょっと黙ってて」

「ムガッ!?」


  うるさいの(シャドウマスター)を黙らせるために口っぽい部分を固定する。

 結論なら既に出ている。ただそれを、どうやってシラユキちゃんに伝えようか。

なるべくオブラートな伝え方で……


「……甘口と辛口、どっちの評価が良い?」

「もうその言葉だけでおおよそ察したわ……」


 この伝え方はダメだったらしい。


「別に良いわよ……自分の実力くらい、自分が一番分かってるつもり。もう一思いに、辛口評価でトドメさして」

「……そういう事なら、わかった」


 では遠慮なく、忌憚(きたん)のない意見を述べさせてもらおう。




「探索者適性ゼロ。というか運動神経が壊滅的。もう訓練でどうにかできるレベルを超えてる。どうしようもないです」


「うぐっ」

「スキルが強力なのは認めます。ただ自覚してる通り、全く扱い切れてません。使用者本人のスペックが全く追いついてない。三輪車に戦闘機のエンジン積んでる感じ」

「三輪車って、そこまで言う……?」

「言います。探索者っていう命を懸ける仕事をしてる人に、俺は適当な事は言いません。『努力すれば誰でも強くなれる』とかは言いません。探索者は才能の世界です。努力だけで強くなるのには限界があります」


 他人より経験がある分、俺にはわかる。

 探索者として大成するには努力も必須だが、それ以上にスキルと才能が物を言う。

 命を懸ける人達に、適当な事は言いたくない。残念だがダンジョンとは、努力だけでどうにかなるような甘っちょろい物ではない。


「シラユキちゃんに変な期待は持たせたくないからね、はっきり言うよ? シラユキちゃんがこの先探索者として生きる道を選んだとして、一生懸命努力したとしよう。二十年くらい掛ければ、多分この世界線でCランクくらいには上がれる」

「Cランク……私の世界じゃ中級者って呼ばれるくらいの強さだったけれど」

「その認識で違いはないけど、この世界線のレベルはぶっちゃけかなり低い。シラユキちゃんの世界のCランクよりこっちのCランクの方が間違いなく弱い。

……で、シラユキちゃんの限界はそこまで。あとは年齢に伴って体力も落ち、ずるずるとCランクの座にしがみつく。そしていつか引き際を誤って、魔物に喰われて死ぬ」


 自分の凄惨な最期を想像してしまったのか、シラユキちゃんは顔を真っ青にしていた。


「例えが生々しい……もしかして、未来を見る力でもあるの?」

「俺に未来は見れないよ。ただの経験則。色んな世界を渡って、色んな人を見てきたからねー」


 だからこそ、同じような失敗をシラユキちゃんにはして欲しくないのだ。


「と言う訳で総評。戦闘技術を磨くより他の部分を磨いたほうが、シラユキちゃんには合っています」

「…………うん。まあ、分かってたつもりよ」


 はあ、とため息を一つ。

 なかなかショッキングな事実だろうが、あまりダメージを受けた様子はない。

 ……直前にもっとショッキングな出来事もあったせいか。悪い意味で感覚が麻痺しているのかも。


「仕方ないわ。もう帰れない以上、これ以上私が強くなる意味なんてないもの……うん、仕方ない」


 自分に言い聞かせるように、何度もシラユキちゃんはその言葉を繰り返していた。

 ……俺は敢えて、彼女が探索者になった理由を聞いていない。転移の事実を知った時の表情を見るに、あまり愉快な話ではない事は、なんとなく察しがついたからだ。


「……うん。大丈夫。ありがとう、バッサリ切り捨ててくれて。これで私も諦めがついた」

「――。そっか」


 今の俺にできることは、これ以上は何もないか。

 彼女に必要なのは、現実を受け入れるための余裕と時間。

 こればっかりは、俺が時間を操作してもどうにもならないからな。


「さて、実技試験の方は終わったし……あとは実際に働いてみようか」

「……実際に?」

「実はこの後、お客さんがくる予定なんだよね。シラユキちゃんには、その応対を手伝ってもらおうと思います」


 今回は事前予約のお客様だ。

 まあ予約して実際に来れる人なんて、ほんの一握りしか居ないんだけど。


「魔物食材の調理は俺がするから、シラユキちゃんは配膳とかその他の仕事を頼もうと思います」

「む……わ、分かった。なんとかやってみるわ」




 ……さて。

 わざわざ邪魔な番犬(シャドウマスター)をどけてやったんだ。

 何匹か引っ掛かってくれると良いんだが。





「あの、それよりそれ……彼? のこと、放っておいて良いの?」


 シラユキちゃんの指さす先には、ピクリとも動かなくなったシャドウマスターの姿が。

 ……あ。呼吸の事考えてなかった。


「し、死んでる……」


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