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ダンジョンで魔物料理店を開いたけど客が来ないので、ダンジョン配信者になって宣伝しようと思う。  作者: 猫額とまり
第3章 海外から最強探索者がやって来るようです

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第50話 大変な時こそ美味しいものを


(一人称視点)


「いや〜、あっという間になくなっちゃったね……」


 あれだけあった手巻き寿司の具材は、もう殆どなくなっていた。

 みんな探索者なだけあってよく食べるなあ……

 食べてくれるのは嬉しいが、残念ながら宴も終わりが近づいてきた。


「…………」


 そんなパーティー会場を、遠巻きに眺める少女が一人。


「楽しんでる? シラユキちゃん」

「……トオル、さん」


 緑茶の入った湯呑みを片手に佇むシラユキちゃんは、不思議なことになかなか絵になっていた。


「おかげさまで、楽しませてもらってるわ。あの人たちも初対面の私に気さくに接してくれたし、パーティーの賑やかな雰囲気も、嫌いじゃない」

「そっか。そりゃ良かった」


 さっきまでの暗い雰囲気は、だいぶ(やわ)らいでいるように見えた。

 気分転換になったのなら何よりである。


「……。ありがとう、トオルさん」

「んっ?」


 シラユキちゃんに突然お礼を言われた。

 俺は続く言葉を待つ。


「お礼、ちゃんと言ってなかったなって。死にかけてた所を助けてもらったのと、私を保護してくれた事」

「気にしなくても良いよ? 俺が好きでやった事だし」

「……ふふっ。変な所で謙虚なのね?」


 俺の返事がどこかおかしかったのか、シラユキちゃんは表情を緩めた。

 ……あれ? シラユキちゃんの笑う所、何気に初めて見た気がするな。


「お礼の理由はそれだけじゃないわ。このパーティーを開いてくれた事もそう。……気を紛らわそうとしてくれたんでしょ?」

「……ん、まぁ」


 悩んでも解決しない問題に直面した時は、パーっと騒いで気を紛らわすのも有効な手段だと、俺は思う。

 俺はそれを用意しただけに過ぎない。俺ではシラユキちゃんの問題を解決できなかったからな。


「だから、それも含めてのお礼。……見ず知らずの私にここまでしてくれて、本当にありがとう」

「……おう」


 ……やべ、ちょっと笑顔が眩し過ぎて直視できなかった。

 普段表情の変化が薄いというか、クールな印象があるもんだから、笑った時のギャップが凄い。

 思わずぶっきらぼうな返事をしてしまった。

 誤魔化すように、俺は口を動かす。


「まーその、なんだ。世界線が違ったって言っても、多分シラユキちゃんの元いた世界線とこの世界線は、それほど距離は離れてない(・・・・・・・・)と思う。だから元の世界との共通点はそれなりにあるだろうし、案外何とかなると思うよ?」

「距離……? よくわからないけれど、でも確かに私の居た世界とは、今の所大きな違いは無いような気がするわね。あの人達も、私の事を普通の人間として接しているように見えた」


 視線の先には、ホムラちゃん、クライさん、アルベルト、【Dreamers(ドリーマーズ)】の面々の姿が。

 生物学的には、シラユキちゃんも俺もホムラちゃん達も、同じくホモサピエンスに分類されるだろう。

 世界線が違ってもその距離が近ければ、大抵の場合はっきりした違いなんて分からないもんだ。

 ……遠い世界線に行くと、もはや異世界の住人みたいなのが地球を占めていたりするけど。


「俺みたいな部外者も、こうしてお店を開いてなんとかやっていけてるし……気さくに接してくれるお客さんも、リスナー達……ファンみたいな人も増えた。だからこっちの世界も悪い事ばかりじゃないって、それを何となく伝えたかったんだ」

「僕の話をしたかい? Of course(もちろんだとも)!! 僕はミスター・トオルの大ファンさ、何せファンクラブの会長も努めて――」

「ちょっと黙っててくれる??」


「……何とかなる、か」


 シラユキちゃんは俺の言葉をゆっくり飲み込むように、そっと反芻(はんすう)した。


「不思議。さっきまで明るい未来なんて想像もできなかったのに、誰かからそう言われただけで、前向きな気持ちになってる自分がいるの」

「どの世界も人間なんてそんなもんだよ。自分の言葉と他者の言葉じゃ、重みが違う」

「そうね。……この世界線に来た時は、どうして私がこんな目にって、正直悲観してたわ。けれど、そんな私に、声をかけてくれる人――味方になってくれるお人好しな人が、傍に居た」


 雪のように白いシラユキちゃんの頬に、薄く朱が差したような気がした。


「改めて、お礼を言わせて。――ありがとう。苦しい時に傍に居てくれて、本当に嬉しかった」

「……。どういたしまして」


 ……今度は俺も、ちゃんと返事ができた。と思う。

 さっきからなんか調子狂うな……彼女にちょっと感情移入し過ぎかもしれない。






「ところで、さっきから気になってる事があるんだけど」

「?」


 シラユキちゃんが自分なりに現状を受け入れることができた、その後の話。




「シラユキちゃん、手巻き寿司食べた?」

「……う」


 そう、シラユキちゃんが手巻き寿司を食べている様子が、俺の見る限りなかったのである。

 いや、正確には一口、二口だけ食べて、テイクアウト用の容器に入れるという謎の行動を繰り返していたのだ。



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