第48話 手巻き寿司パーティー死亡事件
「ホムラちゃん、何やってるの?」
「ぅひぇっ」
声をかけられたホムラちゃんは、怯える小動物のようにビクッと震えた。
うーん、さっきの鬼神みたいな戦いっぷりからは想像できない姿だ。
「と、トオルさん……」
「もしかして手巻き寿司嫌いだった? なんか別の物作ろうか? たこ焼きとか」
「い、いえっ! 決してご飯が不味かった訳じゃないんです! ただ……」
料理がダメだった訳ではないらしい。ではなぜこんな隅っこでしょぼくれているのだろうか。
「その……私、前の別れ際に言ったじゃないですか。“この店に自力で来れるくらいに強くなる"って」
「言ってたね」
「あれからいっぱい修行したんです。下層に籠って、トオルさんのアドバイスを参考にして、魔物を倒して……けど、カイザーコカトリスには敵いませんでした」
まぁニワトリの癖にそこそこ強いからね、アイツ。
おまけに徘徊してるから、食べたい時に限って見つからない。面倒臭い奴だ。
「アルベルトさんが居なかったら、きっと勝てなかったと思います。しかも、クライ先輩から聞きました。私、あの後仮死状態になっちゃって、危ないところをトオルさんに助けてもらったって」
「…………」
割とガッツリ死んでたけど……まあ、その辺りはクライさんが誤魔化したんだろう。
実は一回死んでました! とか言われたら割とショッキングだろうし。
「その、クライ先輩やアルベルトさんには悪いかもしれませんが……本当は私、次に店に来るときは、自力で辿り着きたかったんです。それが不甲斐ない結果になってしまって、ちょっと自分が情けなくなっちゃって」
……あー、なんとなくわかった。
ホムラちゃんは俺との約束を守るために、独力でうちの店に来たかったのか。
彼女にとってのそのハードルが、“カイザーコカトリスのソロ討伐”だったんだろう。
ただ、その約束を反故にしてしまった。その原因が自分の力不足にあると考えてしまっている。
「しかも……うぅ、トオルさんにまた助けられちゃうなんて。当初のことは、うろ覚えなんですが……私、変な顔とかしてませんでしたか?」
「シテナイヨ」
……なんかこっちの方が実感籠ってない?
もしかして実力不足より、俺に助けられた事の方が気に病んでる?
「まあその、うん。そんなに卑下する必要はないと思うよ? ホムラちゃん。カイザーコカトリスを倒せたのなら、下層もう半分攻略できたようなもんだし。別に俺も、ホムラちゃんがアレをソロ討伐するのを求めてる訳じゃない」
……ともかく、俺が今確実に言える事は、ホムラちゃんは間違いなく強くなってるって事だ。
多分現時点では、そこの変人金髪男よりも実力は上だろう。
「そもそも前回の約束だって、別に“次の来店までに"って期間を定めた訳じゃないし。俺は気にしてないよ。ホムラちゃんが自分で定めた目標っていうのなら、俺も無理に否定はしないけど……」
「トオルさん……」
……というかいきなり皇帝のソロ討伐をハードルにするのはぶっ飛びすぎでは?
下層に籠って修行もそうだし、この子マジで猪突猛進すぎる。正直そこまでやるとは思ってなかった。
「まぁ、生き残ったなら今後いくらでもチャンスはあるし、どれだけ失敗してもいいよ。ダンジョンじゃ生き残れば勝ちだからね。それに時間操作も習得できたでしょ? もう近いうちに、ソロでここまで来れるようにはなると思うよ」
「……」
黄金の瞳が、何かを考えこむようにに伏せられる。
……しばらくして。こちらに向けられた眼差しには、いつもの輝きが戻っていた。
「ごめんなさい、トオルさん……私、また弱気になってたみたいです。ちょっと、焦りすぎだったかもしれません」
「焦らなくてもいいんだよ。ゆっくり自分のペースで強くなれればそれでおっけー。俺はいつでもここで待ってるからね。……タコ手巻きでも食べて落ち着いて」
「あ、ありがとうございます。……今度はトオルさんに、情けない姿を見られないように、頑張ります!」
……なんか微妙にすれ違ってるような気がするけど、元気になったならそれでヨシ!
俺が巻いたタコ魔王の手巻き寿司を、ホムラちゃんがもそもそと食べ始めた。
「……! 不思議な食感です。真っ黒なこれ、一見タコに見えますが、あの独特の磯の香りがしません。固すぎず柔らかすぎずの独特の食感で、お寿司のアクセントになりつつも、邪魔はしない絶妙なバランスです!」
ホムラちゃんの食レポが始まった。やっぱりこっちの才能もあるなこの子。
「それに、酢飯とこの暫定タコの相性は抜群ですね! 程よい酸味がじんわり染みて、一緒に入った野菜の味を引き立ててます。ちょっとタコなのかどうかはよくわかりませんが、とにかく凄く美味しいです!!」
「良かった。まだまだ具材はあるから、好きなだけ食べていってね」
「はいっ、気持ちを切り替えて、今回もご馳走になります!」
あっというまに魔王手巻きを食べ終えたホムラちゃんは、そのまま寿司巻き会場へと向かっていった。
向こうから、賑やかそうな会話が聞こえてくる。
「Delicious!! サーモンも美味いが、マグロも美味しい!! これがダンジョンの食材を使った料理だというのかい!? 今までに経験した事がない感覚が襲ってくる!! ダンジョンにはまだ僕の知らない事が沢山あるようだ……!」
「アルベルトさん、このタコも美味しいですよ? トオルさんの一押しみたいです」
「おお、ミス・ホムラ。素敵な情報をありがとう。彼の一押しと聞いたならば、食べないわけにはいかないな。例えデビルフィッシュであったとしても!」
「ホムラちゃん、これテイクアウトできるらしいよ! 気に入った具材があったら取っておこうか?」
「クライ先輩、ありがとうございます! けれど私、この後下層でまた修行するので、お気持ちだけで大丈夫です!」
「えっ」
「……その、ホムラさん、でしたっけ。あのタコっぽいの、食べたんですか?」
「はい、美味しかったですよ! ……シラユキさん、でしたっけ」
「ええ。……私もトオルさんから勧められたのだけれど、ちょっと勇気が出なくて……普通のタコの味だった?」
「ちょっとタコとは違った風味でしたが……美味しいのは間違いないですよ! それにトオルさんの料理は、どれも一級品ですから!」
「……じゃ、じゃあ、私も一つ――」
「ぎゃー!? アルベルト氏が倒れたー!?」
「Jesus……|OMG《推しの料理が美味すぎて死ぬ》……」
「なんだなんだ!? まさか情報量に耐え切れなかった……? 魔王種とはいえ、致死量じゃなかったと思うけどな?」
「……………………」
「あ、あの……毒とかは入ってませんよ! 多分! 個人差はあるとは思いますけど……!」




