第38話 氷華剪定
ダンジョンは、ある日突然出現する。
地球上の何処か……人口が密集していれば、出現率は高くなるが。
ともかくいきなり現れる。大量の魔素を地上に撒き散らしながら。
また、その逆もある。
何の前触れもなく、ダンジョンは消滅する。
崩壊する原因はいくつかあるが、最も多い原因は剪定だろう。
小さな果実を剪定するように、小さく人気のないダンジョンは消えていく。
ダンジョンの目的はより多くの人間を誘い、情報を収集する事だ。その役割を果たせないダンジョンが切り落とされるのは、当然と言えるだろう。
そして……ダンジョンが消滅する時。
ダンジョンは、当時内部に居た人間の事を、配慮してくれない。
中に居る人間とモンスター丸ごと、一切合切を巻き込んで消滅する。
では、巻き込まれた人間はその後どうなるのか?
答えは、別の世界線に飛ばされる。
元いた世界から消滅し――強制的に、違う世界へと弾き出されるのだ。
◆
「――――、嘘。そんな、事って……」
……俺の説明を聞き終えたシラユキちゃんは、呆然としていた。
湯気を放っていたココアミルクは、とっくの昔に冷めていた。
「信じられないかもしれないけど、事実だ。……実際、この世界には『祇園寺ダンジョン』という場所は存在しない。多分シラユキちゃんの元居た世界線にしか、存在しなかったんだろうね。それくらい小さなダンジョン。……だからこそ崩落した。そして、たまたまこの渋谷ダンジョンに流れ着いた」
……彼女はまだ、運が良かった方だろう。
大抵の場合、ダンジョンの崩落に巻き込まれた時点で死ぬ。
彼女が生き残ったのは、自身を氷で防護したからだ。だから肉体に損傷を受けず、氷ごと別世界に転移させられた。
そして運良く渋谷ダンジョンの中層に転移させられ、河川に落下。
滝壺まで流され、魔物に囲まれていた所を俺に発見されたのだ。
「実はシラユキちゃんを見つける直前、俺は時空間の捩れを感知していた。あれは、誰かが世界線を移動してきた時に起こる現象だ。……だからハッキリ言える。君は別世界の人間だ。俺が水底のシラユキちゃんをすぐ見つけられたのが、その証拠だ」
「ッッ!」
シラユキちゃんは席から立ち上がって、何かを叫ぼうとした……ように見えた。
けれど彼女は口を噤んで、ゆっくりと座った。
彼女の中では、様々な感情や考えが渦巻いているのだろう。それくらいは俺にもわかる。
今の俺にできるのは、はっきりと現実を伝える事だけだ。
それしかできない。
「…………。サカガワ、さん。一つだけ、聞かせて……」
「答えるよ。何でも」
彼女は、魂を絞り出したかのような声で、ゆっくりと尋ねる。
氷のように透き通った美しい声が、震えていた。
「私は、帰れるの……? 元居た世界に……私の場所に、帰る方法はあるの……?」
今にも叫び出しそうな表情だった。
だけど俺は、敢えてはっきりと現実を突きつけた。
「ない。残念だけれど、君は二度と元の世界には戻れない」
◆
(三人称視点)
――同時刻。
渋谷ダンジョン中層5階。中層最終ボスの間にて。
「これ、いくらなんでもおかしいですよっ……! なんでボス部屋に下層の魔物が!?」
「神様というのは、よほど僕たちの事が好きらしい。下層の直前で、こんな素敵な試練を用意してくれるとは」
そう軽口を叩いて見せる世界最強の探索者、アルベルトの前には。
中層のラスボス、ダブルヘッドドラゴン。
そして、本来ならば下層に生息する中ボス……カイザーコカトリスが立ち塞がっていた。




