第28話 お客さんを招待してみた(三人称視点)
(三人称視点)
「絶対俺死ぬ」
Cランク探索者、湯田幸矢はスマホの画面を見つめながら、そんな弱音を零した。
『厳正なる抽選の結果、あなたは『止まり木亭』直接送迎キャンペーンに当選しました』
そんなメールを確認したのがつい先程の事だ。
今や世界中の話題になっている、渋谷ダンジョン下層にある魔物料理店。
そこに店長自らが直接送迎を行なってくれるという、抽選会が初めて実施された。
日本中から応募が殺到する中、極平凡な探索者でしかないユダが凄まじい倍率を潜り抜け、僅か二名の当選枠に当たってしまったのだ。
「今世紀の運全部使い果たしただろコレ……絶対隕石に当たって俺死ぬわ
」
……他者より少し悲観的な性格であるユダは、そんな意味のない泣き言を呟いていたが、現実を受け入れるしかなかった。
切り替えの早さは、やはり腐っても探索者である。
「……服とか、何着ていけばいいんだろ? 迷宮だから探索装備でもいいのか? でもカメラに映るんだよな……スーツとか着た方がいいのかな?」
普段探索者として活動しているユダは、一度魔物の肉を食べた事がある。
しかしその時は上手く調理ができず、腹を下してしまった。地上の食材と異なる性質を持つダンジョン食材は、高度な調理技術が要求される事を身をもって実感したのだ。
そしてそれを容易く行なってのける逆川透の技術に、興味が湧いた。抽選に応募した動機としてはそんな所である。
「ダメだ、陰キャの俺には荷が重い……なんで応募しちゃったんだ俺。辞退とか出来るのかな……?」
……そんな苦悩を抱えつつも時は過ぎ去り。
あっという間に、来店当日となった。
◆
「け、結局来てしまった……」
その日、探索装備に身を包んだユダは、待ち合わせ場所である渋谷ダンジョン下層1階に居た。
地上と繋がる下層1階は、危険な魔物もおらず人気も多い。そして今日は特に人が多いと、ユダは薄々勘付いていた。
今日が『止まり木亭』の生配信が行われる日だというのは、SNS上で告知されている。しかし誰が当選したのかは、配信が始まるまで発表を禁じられている。
ユダの他にもう一人当選者が来ているはずだが、ユダ自身もそれが誰なのか知らされていなかった。なので元々人の視線が苦手なユダは、今日は特に他者からの視線に敏感になっていた。
(さっきからジロジロ、俺の事見られてる気がする……この後カメラに映るんだよな? こんな調子じゃ絶対耐えられない……やっぱ今からでもキャンセル……いやでもこんな幸運もう一生ないかもしれないし……)
――そんな顔を青くしながら葛藤しているユダに、近づく人影が。
「……あのぉ〜、そこの前髪が長い人」
「ヒッ!? な、何ですか!?」
いきなり声を掛けられ素っ頓狂な声を出してしまうユダ。
そこには赤いメッシュをさした金髪に、フリルが沢山ついたアイドル衣装のようなものを身に纏った、可憐な女性の姿があった。
「あ、驚かせちゃったかな? ゴメンね! ずっとこの場所に居るみたいだから、てっきり待ち合わせしてるのかと思って」
「ア、え、待ち合わせ……?」
「例の料理店のお出迎え、だよ。……心当たりあるって顔してるね、こりゃいきなり当たり引いちゃったかな?」
じっとユダの顔を覗き込んだ女性は、そう言ってカラカラと笑ってみせた。
その特徴的な笑い声と表情に、ユダは見覚えがあった。
「……クライミカさん?」
「お! ウチの事知っててくれたんだ、嬉しいね〜、もしかしてウチのリスナーだったりして?」
ユダの両手を無理やり握って握手するその女性の名は、狗雷美香。
国内に十一人しかいないAランク探索者の一人にして、ホムラアカリに並ぶ超人気配信者である。
「いや、まぁ……はい」
情報収集も兼ねて、ユダも普段からDチューブはよく見ている。
その中でクライの動画を見ることはたまにあったが、別にリスナーという訳ではなかった。彼女の放つ“陽”の雰囲気は、陰キャの彼には刺激が強過ぎたのだ。
とはいえ正面切って本人にそんな事は言えないので、ユダは適当に言葉を濁した。
(うわぁ……この人がもう一人の当選者? めっちゃ有名人じゃん。陽の気が眩しくて話し辛い……あ、お腹痛くなってきた)
「いや〜、実はウチも抽選当たっちゃったんだよね! 凄い倍率だろうなと思ってダメ元で応募してみたんだけど、まさか本当に当たっちゃうとは! あ、君も探索者だよね? 名前なんて言うの?」
「……ユダユキヤです」
「そっかそっか、ユキヤ君か! 今日はよろしくねっ!」
「無名の探索者である自分が有名人に挟まれて生配信とか何の拷問ですか?」 という泣き言を、ユダは飲み込むしかなかった。
(俺みたいな陰キャには場違い過ぎる……帰りたい)
「――あ、いたいた」
そして和気藹々(?)とした空気の中に、突然現れた人物。
その人物こそ、今回の企画の主催者であり、今や探索者界隈の台風の目と言える存在であった。
「ユダユキヤさんと、クライミカさんですよね? ――初めまして。『止まり木亭』店主の逆川透です。只今お迎えに参りました」
こうしてユダが帰る機会は、とうとう無くなってしまった。




