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ダンジョンで魔物料理店を開いたけど客が来ないので、ダンジョン配信者になって宣伝しようと思う。  作者: 猫額とまり
第1章 開店! 止まり木亭

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第22話 ホムラアカリのリスタート(上)


 トオルさんの実力は圧倒的だった。

 今までの私が思い描いた理想。それを軽々と吹き飛ばし、その先(・・・)の景色を見せてくれた。

 子供の頃聞いた冒険譚のように、焦がれるような憧憬(しょうけい)を抱いた。


 そして、トオルさんが前の店長さんから店を引き継いだと話してくれた時。

 私はトオルさんの表情に、確かな誇りと熱意が浮かんでいるのを見た。


 “この人は、私と同じだ"

 誰かの夢のバトンを引き継いで、自分の夢をとして追い続ける者。

 憧れだけじゃない。私はトオルさんに、仲間意識をも抱いたのだ。


「だから尋ねたかったんです、強さの理由を。私の夢、最高の探索者という目標に、トオルさんはきっと一番近いところにいると思ったので」


「――――」


 トオルさんは、私の身の上話を黙って聞いてくれていた。

 いつの間にか渇いていた口内に、コップに残っていた水を流し込む。


 ……。

 冷静になってみれば、何を言ってるんだろう私。

 憧れのスターに、「どうすればあなたみたいになれますか」と聞いているようなものだ。十七歳にもなってなにやってるんだろう。小さな子供でもあるまいし。

 感情に任せて口火を切ってしまったけど、流石に浮かれすぎだ。もう誰にも話していない、あんな自分の夢まで語ってしまって――




「なれるよ」



 トオルさんのその言葉は、やけに心に響いた。


「……え?」


「なれるよ。世界一の探索者。ホムラちゃんにはその才能がある。俺が保証する」


 トオルさんの漆黒の瞳が、まっすぐ私を見つめていた。

 その眼差しと表情には、冗談や嘘偽りは微塵も含まれていなくて――


「俺は、自分が世界一の探索者って考えたことはなかったけど……ホムラちゃんがそう言うなら、多分俺はこの世界線で、その立場に一番近い場所にいるのは確かなんだろうね」


「トオル、さん」


 ゆっくりと、はっきりとした口調で、トオルさんは言葉を紡ぐ。

 それは私という存在の奥深くに、優しく、暖かく染み込んでくる。




「俺はホムラちゃんの夢を否定しないよ。お世辞でも気遣いでも何でもない。逆川透の本心からの言葉だ。ホムラちゃんは最高の探索者になれる。……理想の場所に一番近い俺が保証する。これだけじゃ、ダメかな?」


「……ぁ」


 真剣な表情から一転、どこか困ったような笑顔。

 それを見た瞬間。一際強く、自分の心臓が跳ねるのを実感した。してしまった。


「ごめん、俺もアドバイスとかするの慣れてないから、ホムラちゃんの力になれたか分かんないけど……やっぱりもうちょっと良い案を考えるから、ちょっと待ってて」


「ぃ、ぃえっ、大丈夫です! 大変参考になりましたっ!!」


 上擦った声を出してしまったのは、私に余裕がなかったからだ。

 体が熱い。心臓が跳ね回る。心の焔が渦巻き煌めく。

 初めての感覚。燃え上がる感情。けれど私は、この衝動の正体を確信している。


 トオルさんは、私の幼稚な願いを、真剣に受け止めてくれた。私を否定したりはしなかった。

 両親を除けば、そんな人に出会ったのは初めてだった。

 トオルさんはありのままの私を、認めてくれたんだ。


 きっかけってこんなに単純なものなのかと、私のどこかで聞こえた気がした。

 だけどもう止まれない。一度燃え上がったら簡単には消えてくれないことを、私はこれまでの人生でよく理解しているつもりだ。


 私はきっとこの瞬間、トオルさんに――




(トオル視点)


「俺はホムラちゃんの夢を否定しないよ。お世辞でも気遣いでも何でもない。逆川透の本心からの言葉だ。ホムラちゃんは最高の探索者になれる。……理想の場所に一番近い俺が保証する。これだけじゃ、ダメかな?」


「……ぁ」



 うーむ。ホムラちゃんから真剣相談を受けたのはいいんだけど、思ったより良いアドバイスが浮かばなかった。

 残念ながらアドバイス一つでホムラちゃんを劇的に強くしてあげるような才能は、俺にはないのかもしれない。

 ……とはいえ、助言を求められて『俺が大丈夫って思ったから大丈夫』っていうのは、いくらなんでも投げやり過ぎるな。もう少し理論的なアドバイスを考えるとしよう。


「ごめん、俺もアドバイスとかするの慣れてないから、ホムラちゃんの力になれたか分かんないけど……やっぱりもうちょっと良い案を考えるから、ちょっと待ってて」


 俺がホムラちゃんに言った言葉は、決して嘘ではない。

 動画や側で見ていて垣間見えた、戦闘技術とセンス。類稀なる才能とスキル、そして時の流れ(・・・・)を知覚できる超感覚。

 未だ原石。しかし磨けば、下手すると俺に並ぶ程の逸材になるやもしれない。

 しかし俺は人を育てた経験はない。さてどうしたものか。



「ぃ、ぃえっ、大丈夫です! 大変参考になりましたっ!!」


「? なら良かったけど……顔赤いよ? 大丈夫?」


「だ、大丈夫です……本当に。……えへへ」


「……?」


 まぁ、本人が大丈夫って言うなら大丈夫かな……?

 もしかすると暖房の効きすぎかもしれない。念の為温度を下げておこう。


「それで、話を聞いていて思ったんだけど。ホムラちゃんは、どうも理想と現実のギャップに悩んでいるように見えるんだ」


「それは……その、はい……」


 ホムラちゃんの今の実力では、下層を攻略するのは難しいだろう。

 本人もそれを実感してるから、こうして俺に尋ねているのだ。ならば俺が教えるべきは、もっと実戦的なアドバイスだな。

 で、あれば。


「ホムラちゃんはさ、時の流れって意識したことある?」

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