第20話 『カイザーコカトリスの卵を使ったプリン お詫びを添えて』
「〜〜ッ!! すっごく美味しいです、このプリン!」
目を輝かせたホムラちゃんが、足をバタつかせながら感想を聞かせてくれる。
「味も濃厚で、とろっとした食感とクリームがまた絶妙の組み合わせ! いくらでも食べれちゃいそうです!」
「お気に召してくれたなら何より。これでお詫び代わりになれば良いんだけど」
このプリン、ホムラちゃんが注文した訳ではない。俺からの詫びの品である。
ちょっと動揺しちゃったとはいえ、コラボ配信を無理やり終了させちゃったからな……ホムラちゃんにはとんだ迷惑をかけてしまった。
「いえ、私は元から気にしてなかったんですけど、ついデザートを食べてみたくて……ちなみにこれも魔物の食材を?」
「カイザーコカトリスっていうデカい鶏がいてね。そいつから採れる卵を使ってるよ」
今日の配信では遭遇しなかったが、鶏なだけあって食材をたくさんドロップしてくれる良い魔物だ。
また近いうち、こいつの料理を作って配信してみようと思う。
「今日はありがとう、ホムラちゃん。お陰でこの店の今後の課題も見つかったし、何とかやっていけそうだよ」
「いえ、こちらこそ! 今日は色々と、貴重な体験になりました……本当に」
実際、ホムラちゃんとのコラボがなければ、この世界線が今までとは別物、という事実に気づくのが遅れていただろう。
ちょっと店や食材の事にかまけすぎて、情報収集を怠っていたかもしれない。
……世界線というのは無数に存在するが、実際はどれもほぼ同じような世界だ。
世界で起きる出来事というものはおおよそ決まっていて、多少のずれはあってもその流れに影響を及ぼす事はない。
川に小石を投げ込んだって、流れそのものが変わったりはしないのだ。
しかしこの世界線は、俺が見てきた世界線とは訳が違うらしい。
完全に別の川にジャンプしてしまったか、それとも誰かが意図的に流れを堰き止めているか。
……なんとなく後者な気がするが、今すぐどうこうできる問題ではないだろう。これについては一旦棚上げするしかない。
「トオルさん」
思索に耽っていると、いつの間にかプリンを食べ終えたホムラちゃんが、神妙な顔で声をかけてきた。
「? どしたの? もう帰るなら地上まで送っていくけど」
「いえ、そうではなく。私、トオルさんにまだ尋ねたいことがあるんです」
「俺に答えられることなら、いくらでも」
あー、さっきの質問コーナー、途中で終わらせちゃったもんな。
ホムラちゃんも色々と聞きたいことがあったのだろう。これは断るわけにはいかないな。
「その、トオルさんは、すっごく強いですよね」
「まあ、人並み以上には強い自覚はあるよ」
「どうやって、そこまでの強さを手に入れたんですか?」
……ふむ。
「んー、特に変わった事は何も? 他の探索者みたいに死ぬ気でダンジョンに潜って、何度も何度も死にかけて、その度に命を拾って立ち上がって……その繰り返しかな」
「……並行世界の人達は、この世界の人達よりずっと強かったと聞きました。私では、トオルさんみたいになれないのでしょうか」
どうやら結構真剣な話みたいだ。
声のトーンから、思い悩んだ様子が伝わってくる。
「確かに平均値を比べるなら、この世界線はずっと下の方だね。けど、ホムラちゃんはもうAランクなんでしょ? この世界線に限っては、十分な力を持ってると思うけど」
「足りないんです。私の思い描く理想の強さには。私にとってAランクという称号は、通過点でしかありません」
やっぱりか。
彼女は……ホムラちゃんは、己の強さをどこまでも追い求める、求道者の様な本質を持っている。
俺が戦っている間、彼女から熱の籠った視線をずっと向けられているのを感じていた。あれは、俺の力を観察していたのだろう。
ダンジョンの涯てを目指して、飽くなき力を求める者。そういった人種を、俺はこれまで幾度も見てきた。
「……そこまで強さを追い求める理由、聞いても良いかな」
ちょっと踏み込んだ質問してみる。
彼女がなぜ、探索者となり力を追い求めるようになったのか。
ホムラちゃんは最初、躊躇するようなそぶりを見せたが、やがて意を結したのだろう。静かな声で、ゆっくりと話し始めた。
「どうか、笑わないでくださいね。……私の夢は、世界で一番の探索者になることなんです」




