第18話 下層でお店を開いた理由
「下層で店やってる理由かぁ、色々あるんだけどねー」
:あーそれ俺も気になってた
:ずっと気になって実は集中して配信見れてなかった
:料理の腕はあるみたいだし、普通に地上で売り出せば問題ないと思うんだけど
……まあ特に隠すことでもないし、話しても大丈夫か。
「この『止まり木亭』、元々は俺の店じゃないんだよね」
「……え、そうなんですか?」
「うん。今はもう居ないけれど、別の人……店長がこの場所で、ダンジョン料理の店を営んでたんだ」
とっくに見慣れた店内を見回す。
俺の料理人としての人生がスタートした場所だ。当時の人々は誰もいなくなったが、思い出はまだ俺の中に残り続けている。
「当時の店長曰く、わざわざダンジョンに店を構えたのは、“探索者達にとってのオアシスを作りたい”っていう信念があったみたい。いわばダンジョン内での休憩所、止まり木を作りたかったんだろうね。……で、俺はそこで働く店員だった」
:店員……?
:あー話が見えてきたかも
:元々トオルが建てた店じゃないのか
:この人間が店員やってる姿がちょっと想像できない
「で、色々あって当時の店長が、店を辞める事になってね。それで店員だった俺がこの店を継ぎたいって言ったんだ。そしたら『この店はお前に預けるから、その間自分で店をやってみせろ』って話になってね。それで当時の信念そのままに、店を預かる事になった」
「……トオルさんはこの店の二代目店長、ということですか?」
「そうなるね。まあ店の名前も当時とは違うし、味も多少変わってるだろうから、二代目店長なのか全く別の店と見るべきか、ちょっと微妙なところではあるけど」
……俺にとっては大事な思い出の眠る場所でもあるからな。あのまま店が消滅するのを黙って見てはいられなかった。
これは流石にちょっと恥ずかしいから、表には出せんけれども。
:あぁ、前の店長からお店を引き継いだんだね。元々この場所に店はあったんだ
:……うん、探索者の立場としては、確かにゆっくり寛げる店があれば助かるっちゃ助かるけども。だからってこんな危険地帯に店構えるか……?
:地上じゃなくて、ダンジョンの中でないと意味がなかったのか
:でもオアシスを作りたいって目的なら、別に繁盛しなくても問題ないのでは?
:というかもっと地上に近い場所に店を構えればいいのでは?
「ん? なんで上層とかに引っ越さないのかって? そりゃまぁ……一応、この店を預かってる立場だし。勝手に引っ越して場所を変えるのは気が引けたのと、他に良い立地が見つからなかった事と……俺にとってはなるべく深い場所の方が、都合が良かったから」
「深い場所の方が、都合が良い……?」
「ごめん、そこは俺の個人的な都合が絡む部分だから、詳しくは話せないんだ。ただ浅い層に店を構える方が客が増えるってことは、分かってたつもり。色々バランスを考えて、結局一番良い場所が下層7階だったって事」
:一応立地については考えてはいたんだ……
:初めて主さんのプライベートな部分が垣間見えた気がする
:その諸事情はすごく気になるところだけど、本人が隠したがってるしあんま詮索するべきではないか
:その結果が下層7階なのはちょっとアレだけど。まず客が来れる場所じゃないから
「そこがちょっとわかんないんだよね……前の店長の時は、この場所でもそこそこ繁盛してたんだけどなぁ。店長が居なくなったとはいえ、ここまで客足が減るもんなのか?」
店の名前は変わったとはいえ、流石に閑古鳥が鳴く様ではあの人に顔向けできない。あと俺も寂しい。
それでなんとかお客さんを確保しようと考えた結果が、配信者としての活動だ。
「い、以前は繁盛していたんですか? そのお客さんって人間の方ですか??」
「普通の探索者の人達だったよ? 下層のボス、シャドウマスターに挑む前の景気付けだ、って言って来てくれるお客さんが多かったよ」
「……んんっ???」
あれ、ホムラちゃんが怪訝な顔をしている。なんだろう。
:なんかズレてるな
:話が噛み合ってない
:それだけ人が来てるなら噂くらいは出回りそうだけど
:お前まだなんか言ってないことあるんとちゃうか?




