第15話 『ディープミノタウロスのステーキ』
(一人称視点)
「――こんな感じで、シャドウマスターはさっきのヤドカリと違って、特にハメ技とかないのでゴリ押しします。肝心の部分が映ってなかったけど、参考になったかな?」
:いやならないが?
:そんな真似できるの世界中見渡してもお前だけだよ
:コイツやべー、やべぇよ
:この人本物だろ
:偽物とかいってすみませんでした……
:ホムラちゃんに悪口言ってた奴ら息してるー?
:XXのトレンド世界一位だってよ
:視聴者数五十万www
:ダンジョン配信者でこんなに人集めた配信あったか?
:ないよ、世界新記録。下層ソロ攻略の実績も含めてね
…………。
うん盛り上がってるな! 肝心な場面は映らなかったが目的は果たせたのでヨシ!!
「……グ、怪物め……」
おっと、まだボスが死んでなかったか。流石にタフだな。
とはいえ致命傷は与えたし、もう動ける体力も残ってない筈。放置しても問題ないだろう。
「なぜだ、なぜ貴様の様な化け物が下層に上がってくる……今更この場所に何の用があるというのだ?」
「んー……隠居して田舎に引っ越してきた、みたいな?」
隠すことでもないので、冥土の土産に答えてあげた。
まあ次会うときは、どうせ覚えてないだろうけれど。
「何が、隠居だクソっ、いい迷惑、だ……」
その言葉を最後にシャドウマスターは、大量の宝箱と引き換えに塵となって消滅した。
そのタイミングを見計らって、ホムラちゃんが駆け寄ってきた。
「トオルさん……! す、凄かったです! その、仮にも配信者である私がこんな曖昧な表現をしてしまうのは、ダメかと思いますが……とにかく凄すぎて感動しちゃいました!」
もう興奮を抑えきれないという様子で、ピョンピョンと飛び跳ねるので可愛い。
黄金の瞳をキラキラと輝かせて、まるでおもちゃを目にした無邪気な子供だ。
「特に最後の攻防、何があったのかは分かりませんけど、トオルさんが何かしたというのは何となく分かります!」
……おお。
時間停止の際に生じる、ごく僅かな違和感をホムラちゃんは感じ取れたらしい。
うん、やっぱりこの子才能あるな。
「さっきのはちょっと周囲の時間を止めたんだ。ダンジョン内の時の流れって意外と適当だからね。コツを掴めばホムラちゃんもできると思うよ」
「えっ……後で詳しく聞いてもいいですか?」
「もちろん」
さて、ホムラちゃんの気持ちも分かるが、先に今日のメインイベントを済ませてしまおうか。
探索で体を動かした後はお待ちかね、ダンジョン素材を使った料理タイムだ!
◆
「え〜……色々ありましたが、私たちは無事、トオルさんが営む食事店『止まり木亭』に到着致しました! ですので……」
「ここからはお料理タイムです。いえ〜い、どんぱふ〜」
:ようやくか
:本編
:そういや元々料理配信なんだった……
:店主いつの間にか料理着に着替えてる
:どんな料理を出すつもりなんだろう
:もう色々あり過ぎて既にお腹いっぱいなんですが……
:もう普通にダンジョン攻略配信でよくないか? そっちのが需要あると思うんですけど
「うるさいやい。俺は自分の店の宣伝をしたいのであって、ダンジョン攻略配信でバズりたい訳じゃないの」
ダンジョン攻略はあくまで手段。
いくらバズっても店の客が増えなければ意味がないのだ。
「私も、ちょっと今日は色々あり過ぎたので……お料理を頂きたいなー、と」
「フォローありがとうホムラちゃん。記念すべき最初のお客様だし、今日は腕によりをかけてご馳走しちゃいます」
念願のお客様の期待を裏切るわけにはいかない。
彼女とはこれっきりではなく、今後も店とお客様としての関係を築いていきたいものだ。
「さて、肝心のお料理なのですが……実は私、まだメニューを聞いてなくて。どんなお料理なんでしょう」
「うん。色々考えたんだけど……やっぱりコレを使うのが一番良いかなって」
亜空間から取り出したのは、時間停止で鮮度が保たれた霜降り肉。
「例のディープミノタウロス特異個体。これの肉でステーキにしようと思います」
:うおお!?
:きたあああ
:やはりきたか
:ホムラちゃんと店主さんが会う切っ掛けになったモンスター!
:ステーキだと!? 絶対美味いやつやん!
:綺麗に霜降ってるなぁ
:特異個体って普通の魔物肉と何か違うの?
「お、良い質問。魔物の食材の美味しさって、その個体が持ってた情報量に比例するんだよね。多ければ多いほど美味しくなる。ここでの情報量っていうのは、生存時間とか、記憶とか、戦闘の経験とかの事。で、特異個体はその情報量がずば抜けて高い。つまり普通の魔物肉より美味しい」
「じょ、情報量……? 個体の持つ経験値がドロップ品の質に影響するって事ですか? そんな話初めて聞きました……」
あれ、そうなの……?
こっちじゃダンジョンの研究はあまり活発じゃないのか? まぁ隠すことでもないし喋っても良いよね。
「ホムラちゃんも経験ない? 生まれたての雑魚魔物倒してもドロップがしょぼかったりだとか、逆に強敵を倒した時ドロップがいつもより豪華だったりだとか」
「……。言われてみれば、あるような。でも偶然だと思ってました」
「苦労した分見合った報酬を、ダンジョンは用意してくれてるって事だよ。努力の成果が分かりやすく形になるから、ダンジョン探索は楽しいんだよね」
:そんな話聞いた事ないぞ!?
:誰かダンジョン詳しい人説明してくれ!!
:でも確かに、同じ種類の魔物でも強さに個体差があるんだよね。これが情報量の違いって事?
:ゲームで言う経験値ってことか。魔物にもレベルみたいなのあるんかな
:あーゲーム例えにすると分かり易いかも。確かに敵のレベルが高いほど報酬の質も高いよね
:海外のダンジョン考察ガチ勢が絶叫してる……
:ホムラちゃんの言ってた事、俺も経験あるわ。あれただの偶然じゃなかったんだな
:特異個体がずば抜けて強いのも情報量の違いだったのか
:こんな動画で流していい内容なのか? コレw
:もうこれ何の配信動画かわかんねぇな
おっと、ついお喋りで脱線してしまった。
こんなに沢山の人と話すのは久しぶりだから、話すのが楽しくなってしまう。
「話が逸れたね。じゃあここからは調理に移っていこう。まずは牛肉に切り込みを入れます」