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ダンジョンで魔物料理店を開いたけど客が来ないので、ダンジョン配信者になって宣伝しようと思う。  作者: 猫額とまり
第5章 店長、地上にお出かけする

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第140話 過去からの使者


 (三人称視点)


 ――魔王バエルは飢えていた。


 魔王種という存在は、人類の持つ負の側面、原罪としての属性が強く現れる事が多い。

 そしてバエルが宿した原罪は【暴食】。


 果てなき食欲。飽くなき暴食。

 いくら食べても、何を食べても、バエルが満たされることはない。

 莫大な情報量を蓄え、もう一つの宇宙とも呼べる体内世界を作り上げるに至っても、彼の欲望は満たされない。

 しかしその事実に彼が悲観する事はなかった。

 彼にとっての生きがいは、情報を喰らい続ける事。それ以外の事はどうでもいい。

 己が満たされるかどうかなど、彼にとっては大した問題ではなかった。




 ……ある時。バエルがいつものように情報を貪っていると、その中に気になるものがあった。

 なぜかダンジョンの中で、料理を提供している店があるのだという。

 そこを訪れた客は、いずれもその食事に満足しているようであった。


 彼はこの時、“美食”という概念を初めて理解した。

 魔王種の本能に従って、ただ目的もなく食事を繰り返す彼にとって、味の良し悪しなど関係がない。

 ましてや食べ物を美味しい(・・・・)と感じた事など、ただの一度もなかった。




 “この店の料理を、美食というものを味わってみたい”


 バエルの中に、新たな欲望が一つ生まれる。

 宛もなく暴食を繰り返していた彼に、明確な指針が生まれた瞬間であった。



「――で、お前らは客か? それとも敵か?」


 そして、バエルの体内空間にて。

 ホムラ、イヴ、アルの三人は、凶悪な気配を漂わせる少年(・・)の前に固まっていた。

 ヘビに睨まれたカエルとでも言うべきか。圧倒的な実力差を感じ取った三人は、その少年に対し何ら抵抗らしき行動も起こせなかった。


(この人は、トオルさんだ――)


 しかし。ホムラアカリは、思考だけは止めていなかった。

 不屈の精神が、探索者としての本能が、思考を停止させる事を許さなかった。

 この窮地を脱する為に、どんな情報も見逃すまいと、ホムラは思考を回転させ続ける。


(でも違う。若すぎる(・・・・)。私の知っているトオルさんじゃない。

また別の世界線のトオルさん? ……ううん、違う。直感だけど、そうじゃない。

この人は止まり木亭を営んでいる世界線の、トオルさんで間違いない――)


「……ボクたちに、敵対の意志はないよ」


 そして思考を巡らせていたのは、ホムラだけではなかった。

 イヴもまた同様に、両手をあげて降参の意を示しながら、ゆっくりと少年に話しかける。


「ちょっと気になって、この建物に近づいただけなんだ。何かを企んでいた訳じゃない。だからどうか、その刀を納めてくれないかな? ――ほら、アルちゃんも」

「うぇっ?」


 ただ一人、思考まで止まってしまっていたアルは、イヴに話しかけられてようやく動き出した。

 見様見真似で両手をあげて、敵意がない事を示す。


「わ、儂もこの通り、ただの無害な女の子じゃ〜、だから何もせんでくれぇ……」

「…………」


 普段の人間を見下す態度から一変。見事な媚び売りであった。

 しかしそれを眺める少年の視線は、冷たいままだ。




「……おいお前。思い出したぞ(・・・・・・)、確かイヴとかいうクソダンジョンコアじゃねぇか」

「う゛」

「そんでもってこっちはクソ魔王種か。害虫野郎が、クソ女と組んで何しにきた? また世界征服とかアホな事企んでるのか?

上等だ、前と違って連れ(・・)は居ねぇが、お前程度バラすのは造作もない――」


「ちょ、ストップストーーップ!! 暴力反対!! 今日のボクは悪さしにきた訳じゃないからっ!!」


 慌てて両手を振って無害アピールを始めるイヴ。

 ……かつてトオルとイヴは敵対関係にあったと、ホムラはその様子を見て思い出していた。


「信用性皆無だな。怪しい奴は駆除するに限る」

「ちょっと短絡的過ぎない!? もうちょっと周りをみようよ! ほら、この空間(・・・・)おかしいでしょ(・・・・・・・)!?」

「……ぁ?」


 イヴの必死の説得に、ようやく少年が注意を外に向ける。

 そして何かに合点がいったかのように、表情に納得の色を見せた。


「……。本物じゃねぇな。大方誰かの作った模造世界って所か? でもって俺とこの店は(・・・・・・)模造品(・・・)か」

「ちょっと理解が早すぎないかな」

「フン、ちょっと時空間操作に詳しけりゃわかる。どっかから手に入れた過去の情報を元に、俺とこの店を再現したのか」


 そして最短で真実に気づいた少年――過去の時間軸のトオル(・・・・・・・・・・)は、気に入らないとでも言いたげに鼻を鳴らした。


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