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第11話 私の目標


「こ、こんなあっさり……」


「まあヤドカリが例外みたいなもんだよ。他の魔物は便利なハメ技とか殆どないし、やっぱり素直に鍛えるのが一番だね」


 ホムラちゃんもリスナー達も驚愕してくれている模様。

 正直予想以上の反応だ。俺が思ったよりも、下層の魔物の倒し方というのは世間に出回っていないのかもしれない。

 ……んん? なんかさっきから俺の認識がズレてるのか?


:海外でも凄い話題になってるぞ

XX(ペケペケ)でもトレンド入りしてるw

:まあミスリルが容易に入手できるようになるかもしれない、特大ニュースだもんな

:海外のAランク探索者が今度試してみるって騒いでるよ

:それってアルベルト・ウィリアムズだろ? つまり本物って彼が認めたって事か?

:アルベルトって英国のトップ探索者だよな

:てか同時視聴者数凄いぞ


「うわほんとだ」


 リスナーに言われて見てみれば、同時視聴者数は十五万人を超えていた。

 ちらほら海外のものらしきコメントも見える。何書いてるのかわかんないけど。


「よーし、みんな満足してくれてるみたいだし、このまま下層進んじゃおうか」


「そ、そうですね! ……にしても、こんな戦い方よく知ってましたね……?」


「最初は俺も苦戦したよー、自力で見つけるまでは何回死にかけた事か……おや」


 ホムラちゃんとの掛け合いもそこそこに、新たな魔物の気配。

 下層は結構魔物多いからね。すぐに次の魔物と連戦になったりする。


「ってまたヤドカリかぁ」


 どうやらお仲間が近くにいたらしい。

 今度は団体様でのご登場だ。


「さっきの方法は対複数の時は使えないし、ここはゴリ押しするか」


 一斉に強酸ジェットを放つヤドカリ達を、いちいち相手にするのは面倒なのだ。

 右手の手刀だけを空間転移させ、殻をすり抜けて本体を直接叩く。もちろん全員同時にだ。

 当然ヤドカリは全滅し、俺は宝箱の中のヤドカリ肉をせっせと亜空間の食材保存庫に詰め込む。保存庫の中は時間も止まっているので、これで肉を腐らせてしまう心配はない。


:え!?

:イカれてる

:同時にヤドカリが死んだ

:何やってるのかわかんねぇよwww

:とにかく凄いという事は分かる

:さらっと出したけどそれ別空間にアイテム保存してるの!?

:え、それ凄すぎる。ドロップ品の運搬とか考えなくて済むって事でしょ

:同じ機能のマジックバッグって道具があるけど、確か超超高級品だったよな


「――こんな感じで、本体を直接ぶっ叩く術を身につけるのが一番早いです」


「ちょっとこれは参考にならないです」

       


(三人称視点)




(凄い)


 ホムラは目の前の光景を見て、ただただ驚愕するばかりであった。


「――あれはケイブドラゴンですね。さっきのダブルヘッドドラゴンよりちょっと強いくらいかな? 特徴は群れる事くらいか。ちなみにコイツの肉は固くて臭い」


 変な食レポを挟みつつも、凶悪な下層の魔物をばったばったと薙ぎ倒していくトオル。

 ホムラ自身下層に潜った経験があるので、下層の魔物の強さはよく知っている。

探索者として最高峰であるAランク、それが複数人掛かりでようやく相手になるレベル。

 それを何の冗談か、一人で一方的に倒してしまえる存在。


(トオルさんの正体って一体……それにどうすれば、こんな常識はずれの強さを?)


「お、今度はディープミノタウロスですね。下層じゃよく見かける魔物です」


 強靭な肉体を持つミノタウロスを、彼は手刀と蹴りだけで倒してしまう。

 ホムラは彼の異常な強さを認識していたつもりだった。しかし実際に観察してみると、その実力は想像を遥かに超えていたのだ。


(謎の空間操作、フィジカル、体術、視線の動きから筋肉の使い方、反応速度……ふざけているように見えるけど、この人の能力値はどれをとっても桁外れ。汗一つかいてない。今まで見た探索者の中で間違いなく、この人は一番強い)


 配信者としてでなく、探索者としての視点。

 リスナーが気づかないほど細かな能力と技術を、ホムラは感じ取っていた。


:また瞬殺だ

:マジでリクエスト通り肉弾戦をやるとは

:素手で殴り殺したwww

:ミノタウロスってフィジカル最強クラスのモンスターだろ、それの強化種を肉弾戦で倒すってwww

:もう人間じゃないでしょこいつ

:人間の皮被った魔物なのでは?

:どう見ても人外です本当にありがとうございました


「失礼な、俺は(れっき)とした人間ですよー」


「あ、あはは……」


 もう今日だけで何度自分の中の常識が塗り替えられたか、ホムラには分からなかった。

 衝撃のあまりロクなリアクションも取れず、配信者としての務めもこなせているとは言い難い。ホムラは引き攣った笑いを浮かべるばかりであった。


(私とトオルさんとじゃ、強さの次元(・・)が違う)


 ……驚愕すると同時に。

 自身の中で強く、熱く、輝く感情が湧き立つのを、ホムラは確かに感じ取っていた。


(きっとこの人こそが、私の目標だ)


 彼女の黄金の瞳に、トオルの姿が焼き付いて消えない。


最高の探索者(・・・・・・)。トオルさんはきっと、そこに最も近い場所に立っている。……知りたい。この人の事を。どうすればこんな力を手に入れられるのか、彼の近くで、もっと)


 彼女の高鳴る心臓は止められない。

 両者の間にあまりにも高い壁が立ち塞がっていると、理解していても。


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