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私の愛する私だけの。

この世界は、死後の世界である。と言っても、これは私の仮説であり、本当のことは分からない。ただ、現時点で分かることはここは「架空」の町であることだ。


私の名前は西園寺 白羽根(セラフ)。どうもキラキラネームが流行っていた時に私を産んだらしく、このような名前がついてしまった。その両親は今頃どうしているのやら。私は一応十七歳であるが、ここで過ごした年数を考えると実際のところはよく分からない。まず一ヶ月経ったのだろうか。ここでは学校という施設がないため、未成年の子供達は働いている。此所へ来た者には必ず住居が用意されているのだが、住所はない。なので、皆は‘’園願寺”と呼んでいる。理由は分からないが。

私は今、‘’街中コンシェルジュ”という仕事をしている。ホテルでコンシェルジュというものを聞いたことがないだろうか。何でも屋に似ているが、そうではない。しかし、境界が分からないため、‘’街中コンシェルジュ”はほぼ何でも屋である。初めて約数週間だろうか。探偵、ボランティア、警備、ボディーガード...本当にたくさんのことをしたと思う。それほど大変なのだ。この仕事を見つけたのは、此処に来る前に出会ったとある恩師のお陰だ。まさか、あちらの世界でもお世話になるとは思わなかった。


おっといけない。つい早口で回送に入る悪い癖が出てしまった。あと数分で用意をして仕事に戻らなければ。此所は園願寺の‘’ハイカラ横丁”。そう、昔の―昭和、大正、明治、江戸の人達が混在しているこの世で働いている。

私は此所に来て毎日が楽しく感じている。スーツを羽織り、鏡で漆黒のネクタイを確認し、恩師の待つ場所へと向かう。


* * *


大通りを横切り、橋を越える。すると、花魁道中が見える。脇には様々なカメラを持つ見物人たち。あれは多分、忘草屋の新人だ。私はこう見えて花魁が大好きであり、またお姉様方も私を可愛がってくれる。ありがたい。私の推しがいるのは華善屋。ここから少し離れている。今は通りすぎることもできないので残念である。

と、噂すれば...


「あらぁ!せらふじゃあないのぉ!」

「あ、あねさん。久しぶりですね。」

「今はお仕事?」


この下りはよくあることだろう。だが、私は飽きない。好きだから。


「はい。今日は残業が無ければ行こうと思います。」

「ほんとぉ!嬉しいわぁ!みんなねぇ、あなたに会いたがっているからぁ!」


この人は本当に心が澄んでいるいい人だ。私は並大抵の嘘が分かるが、この人は本当の事しか言わない。女神だ。


「あぁ。今日もいらっしゃったわねぇ。ほら。」


そう言ってあねさんが見た方向に目をやると、私はあねさんの背後に隠れた。そこには、


「...今日も騒がしいな。..........」


聞こえるか分からないギリギリの声量で呟き、周りから黄色い歓声が上がる程の人気者の彼は将校サマと呼ばれている。いわゆる軍事関連の人だ。私は少女漫画の中心的存在(ヒロイン)などになりたくないため、モブどもと同じように黄色い歓声を同じ声量で同じ高さで叫んでいる。そうすれば、さばさばしている女の子に向いてくれるだろうから。ほら、向こうに気づいてほしくてわざとそうしている子が一人。

だが、残念ながらナルシスト気質でもある彼はそんな事など気づく様子もないらしい。あっという間に通り過ぎていった。


「今日も人気よねぇ。あんな人がうちにも来てくれたらいいのにぃ。」

「そうですね、誰か一人でも引き取ってくれそうですもんね。」

「あの人のタイプってぇ、見た目も中身も変わった人らしいのぉ!せらふ、あなたのことかもしれないわぁ!」

「あはは。そんな事はないから安心。万一のときは誰かに成りすますね。」

「もう!せらふったらぁ!恋愛に興味無いんだからぁ!」


最も私は恋愛感情が分からない。確かに、見た目は普通黒、茶、金、銀などが一般だろうが、私は真ん中の分け目から右が黒、左が銀髪になっている。本当に不思議だ。医者に見てもらったが、特に異常はないらしい。話が逸れたが、私と付き合ったとしても幸せにできる保証が無い。つまり、誰ともお断りである。


「あっ、そろそろ時間なので行きますね。もし行けたらまた夜にー」

「えぇ!でも、無理はしないでねぇ~!いってらっしゃぁ~い!」


あねさんの言葉を背に私はヒールでこけないように小走りで向かう。気になるポスターが見えた気がするが、それどころではない。また後で、と思いつつ、私は走った。


* * *


「おっ!セラフ!やっと来たか!」

「す、すみません。ギリギリになってしまいました...。」

「大丈夫、大丈夫!ほら、依頼人が待ってるから、行くよ!」

「はいっ!」


何とか約束の時間に間に合ったものの、ギリギリなので少々まずかったか。とりあえず、恩師―春海さんと共に依頼人の待つ部屋へ。


「お待たせいたしました。今回の担当をさせていただく近藤と西園寺でございます。」

「よろしくお願いします。」

「宜しくねぇ。」


今回の依頼人は優しい表情を浮かべたお婆さん。


「今回はどういったご依頼でしょうか。」


春海さんが淡々と尋ねる。


「それがねぇ、実は...天王寺...って言う人に頼まれたんだけど...。」

「えっ?あ、申し訳ございません。今日のところは...。」

「西園寺さん?」


営業スマイルを崩さない春海さんにスーツを引っ張られ、私は渋々席に戻った。


天王寺蓮―またを将校サマ。そう、私が今朝邪険に思った本人である。

この依頼はこれで十三件目。彼が私を追っている理由は一つ。


私の見た目が彼が見た中で一番変わっているからだ。彼が物好きであることを、私は油断していたようだ。

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