第五話 痛ぶられ無意味な努力だったと悟る②
トルグは拳を振りかざしながら突進してくる。
「死ね! おらあ!」
見えないが予備動作で先の動きがなんとなく分かる。
かろうじてトルグの突進を身を翻して避けたが、後ろに回り込んでいたキリゲに側頭部を殴られる。
「ぐあっ!」
「やったでやんす!」
とてつもない衝撃が僕の全身に伝わる。
「ざまあ見やがれ! おらあ!」
意識が飛びそうな僕に向かってトルグは鳩尾を食らわしてくる。
「あぐっ! かっは、はぁはぁ!」
胸を強打され、膝をついた僕はまともに息が出来なくなる。
それでも僕は諦めたくなかった、今までずっと鍛えてたんだ。魔法がなくても一人くらいは倒したい!
「くっ!」
僕はその場から脱出するように跳んで木剣を構える。
「うひひっ! ゴミムシの分際でこのトルグ様に勝てると思ってんのか?」
「こいつ馬鹿でやんす! 馬鹿でやんす!」
二人は立ち向かおうとしていた僕を馬鹿にしていた。
「まだ勝負は……はぁはぁ……終わってない!」
「死ねよ雑魚が!」
二人が向かってくる。木剣を振るおうとしたが、二人は跳んで、僕の左右に移動する。
横に移動するのは分かってたけど、相手が身体能力を上げているせいで速くて対応できない!
「おら!」
「ほんと馬鹿でやんすね!」
二人は左右から僕の腹部に拳を食らわせていた。
「ぐぁ……!」
僕は耐えきれず木剣を手放し、前のめりに倒れそうになるが、
「まだ終わってねえぞ!」
トルグに顔面を殴られた。
――それから一〇分は経っただろうか。
「はぁはぁ! こいつしぶといでやんすね!」
「もう意識ねえんじゃねえのか? 骨も折れてるだろ! どのみちお前は死ぬんだよ! うっひっひっ!」
どのみち死ぬってどういう意味なんだろう。
散々、殴られた僕は仰向けに倒れていた。顔が腫れ、口が切れ、節々が痛い。それでも骨折していないのは途中で相手の『フィジカルアップ』の効果が切れたおかげなのかもしれない。
トルグとキリゲは満足そうに去って行く。
「くっ……うっ……うっ!」
僕は嗚咽を漏らす。
無能扱いされてから毎日、欠かさず努力をしてきたのに……。
僕はなんのために頑張ってたんだ⁉ なんの……なんの意味もないじゃないか!
分かってた、分かっていたさ。いくら頑張っても魔法を使える人には勝てないって分かってたけど、それでも抗うのがカッコいいと思ってたんだ。
胸を張って生きれるように、頑張っていた。
でも、頑張っても無駄だったよ。
「くそ……うっ、うっ……」
泣きながら体を反転させてうつ伏せになる。
「くそ……クソおおおおおお! うああああああああああ!」
地面を右拳で殴りつけ、僕は悔しさを声に出した。
――――しばらくして、僕は真っすぐ寮へと帰った。
もう何も考えたくない。
そう思い、ほとんど物がない自室に入ろうとすると玄関の隙間に封筒が挟まっていることに気付く。
「……なんだろ」
呟いたあと、封筒を開けると手紙が入っていた。それは僕を養子にしている王家傍系アルスター家からの手紙だった。
手紙の内容は簡潔で、そして明確に僕にとある事実を突きつけていた。
◇
ファル・アルスターへ
アルスター家に相応しくない貴殿は協議の結果、勘当することにした。
また、魔道教の古き経典により、『魔力が無い貴族は人にして人にあらず。後世のためにも自害せよ』と記されており、この経典に則り、貴殿は手紙を受け取ってから二四時間以内に自害せよ。
◇
「なんだよ……これ」
僕は膝から崩れ落ちた。
そして、心が壊れる音がした。
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