セリヌンティウス死す Ⅱ
セリヌンティウスが死んだ。
そういった男の言葉を私は理解できなかった。
「なぜ……?」
「メロスが約束を果たせなかったからです」
王を殺そうとしたメロスは友セリヌンティウスを人質に一時的に許され村に帰ってきた。
私の結婚式をするために。
「メロスは王宮に向かったはずです」
結婚式を無事に終えた兄は約束があるからと次の日の朝、村を出ていった。
私は兄の力強い瞳を見て必ず約束を果たせると確信していた。前のとき見た自信なさげな瞳とは全く違った。
あれは確かに命を賭けた男の瞳だった。
「メロスは……兄は……どうしたのですか」
私の声は震えていた。
「メロスは……」
「逃げたのですか!?」
私は男に掴みかかっていた。そして男の答えに絶句した。
「メロスは、死にました。王宮に向かう途中で盗賊に襲われて殺されました」
「死んだ……?盗……賊……?」
「はい……」
兄が死んだ。
これでは前より酷い。
「どうして……どうして……」
泣きじゃくる私を、夫となった男が慰める。彼は私が兄と友を同時に殺された悲しみに打ち震えていると思っている。
しかしそうではない。
兄を殺したのは私だ。死に追いやったのは私なのだ。
最初から果たせない約束なら、兄は逃げればよかった。
果たす能力がなければ逃げて、隠れて生きていけばよかった。
しかし私が兄を鍛えた。兄を死なせるために。
だがセリヌンティウスは助かると思っていた。あわよくば二人共生かされると思っていた。
しかし二人共死んだ。
「失敗した……」
私は目の前が真っ暗になった。