走らせろ妹
散歩から始めた特訓は次第に強度を上げていった。
私は兄に魚が食べたいと言って川に行かせたり、山菜が食べたいと言って山に行かせたりした。
ときにはこっそり猟犬を借りて兄にけしかけたりした。
これも全てセリヌンティウスのため。ついでに兄も助かれば儲けたもの。
心が傷まないではなかった。兄はよく働いてくれた。
甥や姪、新しい家族のため。これが効いたらしかった。
そしてついにその日が来た。
「妹よ。今日はシラクスに行ってくるよ」
「早く帰ってきてね」
「ああ、任せろ」
「それとセリヌンティウスによろしく」
「お前やっぱりまだ……!」
「違うわ!結婚式に来られるならセリヌにも来てほしい。幼馴染みなんだから……」
「まあ、そうだな」
嘘だ。セリヌンティウスに結婚式に来てほしいなんて。もしそんなことになれば私は彼に攫ってくれと頼んでしまうかもしれない。
でもそれはできないことは私は分かっている。
「でも、あいつは結婚式には来れないよ」
「え!?」
「あいつは仕事で忙しいからな……」
「あ、ああ。そういう……」
まるで兄がセリヌンティウスの死の運命を知っているのかと思って驚いてしまった。
しかし、そんなはずがない。彼の運命を知っているのは私だけ。彼の運命を狂わせようとしているのは私なのだ。
「じゃ、行ってくるよ」
「行ってらっしゃい。気をつけて」
本当に、気をつけて。