表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/13

時をかける妹

 私は卒倒した。


 邪智暴虐の王によってセリヌンティウスが殺されたと聞いたからだ。


 しかもそれは兄メロスが王との約束を破って行方をくらましたからだという。


 兄は戻らないだろう。親友を身代わりに死なせた卑怯者に帰るところはない。私は一日で愛する人を二人も失うことになった。


 * * *


 私は気づくとベッドに横たわっていた。


 見慣れた天井は何度も補修を重ねてボロボロだった。


 雨音が聞こえる。


 ぽたりと顔にしずくが落ち、つたっていった。


(この前お兄ちゃんが直してくれたのに……)


 兄はもう居ない。


 体を起こすと目じりに溜まっていた涙が流れ落ちた。


 セリヌンティウスを死なせた兄が私の前に姿を現すはずがなかった。


「おーう、やっと起きたかー寝坊助!雨漏り直すから……」


 枕元に兄が立っていた。私のたった一人の家族。大好きだった兄が……。


「はぁ!?」

「なんだあ?幽霊でも見たような顔して」


 間違いない。兄だ。親友を身代わりにし、あっけなく殺させた卑怯者。


「死ね!!セリヌの敵!!」


 私は兄に掴みかかった。


「な、なんだよ!イテッ!やめろ!寝ぼけてんのか」


 私は兄を殴り続けた。周りの人は私のことを内気だと思っているが、私は邪悪には人一倍敏感なのだ。


 友をのうのうと死なせて平然と帰ってくる人間など邪悪以外の何者でもない。


「……セリヌ?お前まだアイツのこと引きずってんの?一年も前に振られて……」

「違う!私が振られたのは15ヶ月前だ!」

「何が違うんだ!イテッ!というか振られたのは一年前だろ!?イタタ……」

「15ヶ月前!!」

「一年前!!」

「15!!」

「12!!」


 私たちは私がセリヌンティウスに振られたのが何ヶ月前か、ということでひとしきり争った。


「まったくおかしなやつだ!!アイツのことは忘れたというのは嘘だったのか!?」

「う、嘘じゃない!!セリヌとは一緒になれないことは分かってた!!でもいきなり死んでしまうなんて……」

「はあ?何を寝ぼけたこと言ってるんだ」

「それはこっちのセリフよ!!」

 

 どうもおかしい。話が噛み合わない。


「はぁぁ……せっかく縁談がまとまりそうなのに!!花嫁が昔の男を忘れられないんじゃあなあ。あんまりお兄ちゃんを困らせてくれるな」

「……!?」


 縁談がまとまりそう?


 私の結婚が決まったのは3ヶ月も前のこと。そもそも今回の事件が起こったのは結婚式の準備のために兄が市に出掛けたからだ。


「待ってセリヌの敵。今日は何月何日?」

「敵?」

「間違ったクソ兄貴。今日は何月何日?」

「何日ってそりゃあ……」


 兄が言ったのは結婚式の3ヶ月前の日付だった。


「……ごめん、私、夢を見ていたみたい」

「そうだろうな」

「セリヌンティウスが殺される夢」

「夢でも俺の愛しの妹を泣かせるなんて、あいつはやっぱりクソ野郎だな。死んじまえばいい」

「おまえがしね」


 泣き出した兄を残し、私は部屋を出た。


 夢なんかじゃない。セリヌンティウスは確かに死んだ。


 セリヌンティウスの死を伝えに来た男に嘘をつくなと思いきり殴った手の感触がまだ手に残っている。


 あ、この感触はさっきお兄ちゃんを殴ったときのやつか!!


 いやいや兄が戻らないと分かって流した涙の熱さが頬に残っている。


 あれ、そもそもお兄ちゃんを思って泣いたんだっけ?


 あ!そうそう!セリヌンティウスが死んだと聞いて胸がキュッとした。あれは夢じゃない。夢なわけがない!!


──と、言うことは、私は3ヶ月前に戻っているということだ。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ