上中下の下
婿さんが島を出たのは二日三日経ってからのことらしい。詳しくは知らん。そして居酒屋の前で別れて五日目、事件が解決した。昼間家の仕事をしていたらオヤジがすっ飛んできて
「Kくんの遺体が出た!」と大声で教えてくれた。
俺もじいちゃんも驚きはしたが、別にそこまで驚くことじゃない。
「なに、どっかの崖からでも落ちていたの?」と聞くと、
犯人は映画の息子だという。
それには体がこわばった。
じいちゃんが
「子どもが自白したのか?」
「いや、言っちゃいないんだが、段取りがあってな、
頭領や村長や駐在とか大人達が、遊んでた子どもを全員集めてな、
Kくんが誰かに誘拐されたのなら、みんなが隠れていたところからは不審者はおろか大人も誰も見なかったわけだから、犯人はみんながいたところや見えるところは通らなかったわけだ、その不審者がいないことを確認できる範囲を地図に描きたいから、みんなどこに隠れていたか教えてくれと頼んでな、
全員から隠れていた場所を聞いて一旦みんなを家に帰し、それぞれが言った場所の周囲を捜索し始めたら、(映画)の子が隠れてた近くにKくんが埋められている場所が見つかったよ」
「で、(映画)の子は、自分がやったって言ったのか?」
「それがな」
オヤジはごくんと生唾を飲んで
「三十年前の子と、六十年前の子の骨も見つかったんだ。子どもよりも(映画)のほうが観念した」
「わぁ……」
「……なんで殺したんだろ」
「子どもの方はおれが出るまでは口を開かなかったが、(映画)の方は親から教わったのと、憎かったわけじゃなく殺せるから殺したと言ってた。祖父も父もそうなら、子もそうだろ」
その日はもう仕事が手に付かなかった。
翌日、アニメや小説だけでなく、他の奴らからも話を聞いて、この解決のやり方は頭領直々の指揮だったことを教えられる。
……いや、調べ方もまぁ納得できるし、理屈も解る、現に映画が自白してるんだから真実なんだろう。
しかし、頭領が自分で聞き込みなんかするわけがない、側近達が情報を集めたんだろうが、頭領が推理なんかするか?俺には婿さんが頭領に推理を語ったような気がしてならない。頭領も熟慮に熟慮を重ねてその推理に乗ったんだろう、それはいいんだけど、
なんで婿さんは映画の子が犯人だと思ったんだ?
遺体が見つからなかったら全員の隠れていた場所周辺を探すつもりだったんだろうか?それはあんまり意味がある賭だとは思えないんだけどな。
映画の家系三代が失踪事件三回とも関わっていたからか?それだけで疑うものだろうか。
しかし頭領に聞くわけにもいかない、畏れ多い。側近にも聞けない。俺が聞ける連中は婿さんが関わった部分の真相を知っているわけでもないようだ。
小説が好きなジャンルが推理物だったら話し合えるのだが、あいにくあいつは普通の文芸作品が守備範囲だ。アニメも推理物に特化しているわけでもない。
なんで婿さんは映画の子が犯人だと思ったんだ?
【夏のホラー2021】でテーマが「かくれんぼ」だと読んだとき、これはもう〝神隠し〟っきゃないっしょ!とストーリーが浮かびました。
この婿さん、私の書いた物を読んでくださった方なら解るでしょうが、「音にまつわる怪異譚」シリーズの主人公で、規定の「本編を読まなければ把握できないストーリーや設定が存在する作品は、提出をご遠慮ください」に引っかかるのですが、そこはそれ、もともと固有名詞は一切出してないから大丈夫だろ、そもそも「音にまつわる怪異譚」シリーズ自体が他の話を読まなければその回の話を把握できないってことはないし、と思いまして、
ならいっそのこと、婿入りした事情をこの話で詳しく書くかと主人公目線で書き始めましたら、失敗しました。
主人公が頭領のところに来た理由とか、どういう立ち位置になるかを書かないと「特別な才能や能力なんてない、どこにでもいる一般人」が解らなくなってしまうので書いてみましたら、それだけで無茶苦茶長くなる。
なのでそれは没にして、じゃどうするか。頭領やその側近の視点で書いてみるか。あんまり上手くいかない。
ならばと第三者視点、マンガ氏から見た観光客婿さんで書いてみましたら、物語は進むんですけど……全然怖くない、これだと推理物になってしまう。
しらばっくれてホラーで出してしまうか。
人怖ということでホラーで出してみるか。
長々と考えましたが、主催者さんの迷惑になるかと断念し、推理カテゴリで出すことにしました。
企画タグを使ってないのでご容赦ください。