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 祭りが終わってやれやれと休んでいたら、夜になって子どもがいなくなったと全島連絡が回ってきた。

 オヤジとじいちゃんが

「親は祭りのあとは神社で遊ぶなと言わなかったのか」

「前回は三十年前だからね、言っても熱心じゃないのかもよ」

「うん、三十年前だと、あそこの親もよく覚えてないか」

 などと話している。俺は初耳である。

「え?何があったの?」

 二人とも俺を見て、

「え?教えてなかったっけ?」

 よその家をとやかく言えるのだろうか。

「何があったのよ」

「三十年前に神社で子どもが一人、いなくなったんだよ。今日みたいな祭りが終わった後でな」

「あんたはマンガばっかり見てるから、話を聞いてなかったんじゃないの」

 母さんが酷いことを言う。

「マンガを読む(もん)がそんな事件を聞いてたら、ちゃんと覚えてるよ」

「子どもたちが神社で遊んでてな、気がついたら一人いないんだよ。結構騒ぎになったんだが、とうとう見つからなかった。不審な人どころじゃない、島の大人だって来てないところでだ。神隠しかなってみんな不思議に思ってる」

「でな」

 じいちゃんがお茶を一口飲んで、もったいをつけてオヤジから話を続ける。

「三十年前のときは、こいつは(とオヤジを指して)他のところにいたからお前みたいに驚いただけなんだが、六十年前にもあったんだよ」

「六十年前!」

 知らん。聞いてない。

「六十年前もそうだった。祭りが終わった後、俺たちが神社で遊んでいて、気がついたら一人いなくなってた。それでも周期があって起こるなんて誰も思ってない、誰も何も言わなかったけどな、十年何もない、二十年何もない、三十年経ってまた一人いなくなったから、さらにまた三十年経った今年は子どもたちに遊ばないよう言うことになってたんだが、言わんかったのかな」

「いや、ちゃんと言ったみたいよ」

 母さんが晩ご飯を持ってくる。

「今日スーパーでみんな集まって話してたけど、神社に来てた子どもたちのお母さんもみんなも怒ってたわよ、なんで行くのかねって。さすがにKくんのお母さんは来てなかったけど」

 Kくんという子がいなくなった子か。あと母さんがいう全員とは井戸端会議のメンバー全員という意味である。

 ふうんと食事を始める。


 翌日午後、なんとなく神社に行ってみると、もう子どもが何人も集まっている。怖くないのかね。バイタリティあふれてるということか。

 子どもだけではなく見たことのない奴が子どもに囲まれている。俺も腕力に自信があるわけではないが、わけ解らん奴が子どもに変なこと言ってたら止めないといけないので近づくと、向こうもこっちに気がついて浅く頭を下げてくる。なんかぽやぽやした変な奴だ。

 俺に一番近くにいる子が

「この人、頭領様の親戚の人なんだって」

「……あ、あぁ、どうも、初めまして」

 向こうも「初めまして」と声に出し、お互い自己紹介となる。

「まぁ親戚といいましてもね、こちらの頭領さんの五代前に連なる宗家に婿に入った者でしてね、血縁はないんですよ。今のトップである義理の祖父に、挨拶に行ってこいと言われまして」

「祭りが終わった次の日にですか?」

「こちらの方々にしてみれば祭に忙しくて、ただの挨拶に人手は割けられないでしょう。なので終わった次の日を言われたんだと思います」

 なるほどと思う反面、なんかひでーなとも思うが、婿さんじゃそんなもんか。

 コミュニケーションがとれる人であることに安心し、

「で、あれですか?子どもがいなくなった件を調べにここに?」

「いえいえ、違いますよ、島の偉い人たちへの挨拶は終わったんで神様にご挨拶をと思って神社に来ましたら、子どもたちから話しかけられて神隠しの話にもなりまして」

「はぁ、なるほど」

 子どもたちに顔を向け

「いったい何があったんだ」

「みんなでかくれんぼやってたんだよ。ほしたらKの奴、いなくなった」

「かくれんぼねぇ」

 すると婿さんが

「かくれんぼの最中に起こった不思議な話も、真偽不明ながら結構聞きますよね。隠れた場所に全然知らない子どもがいたとか、後で考えたらあり得ない場所だったとか。みんなが自分を置いて帰ってしまったなんてのは結構残酷なはずなのに、それが軽く思えるような話ばかりで」

 うん、俺もいくつかはそんな話を読んだな、と思っていたら、一人が大声で異議を申し立ててきた。

「違うよ!Kは隠れたんじゃないよ!鬼だったんだよ!」

「え?」

 俺と婿さんの声が重なった。

 みんなが口々に言う。

「みんな隠れてんのにKが全然探しに来ないから、頭にきて出てみたらどこにもいないんだ。俺がみんなを呼んで、探しても見つからないんだ」

「鬼じゃないのにこいつが走り回ってて、Kの声が聞こえないしどこにも見えないしで不思議に思って出てみた」

「ちゃんと範囲は決めたんだよ。境内を中心にあそこまでとかあそこまでとか」

 高くて目立つ木々を指す。結構な範囲である。

「全然見つからないから父ちゃんたち呼びにいって」

 そういえばと昨日の話を思い出し

「大人から、祭りのあとはここで遊ぶなって言われなかったの?」

「言われた。でもそんなん嘘だろって思った」

 一番元気な奴がしょぼくれて答えた。

「お前が遊ぼうって言い出したのか?」と俺。

「昨日のメンツ、全員ここにいるの?」と婿さん。

「ここで遊ぼうって言い出したのはA」

「A来てないよ」

 ふむ、と考えていると

「おい!そこで何をしている!」

 と声がかけられた。見ると五人ほどの大人である。

「ちゃんとみんなで探そうって集まったんだ」

「もう大人に任せなさい」

「危ないんだから子どもは帰った帰った」

 とやりとりがあり、俺にも嫌な怖い目で睨んでくるが、婿さんのことも聞いているのだろう、

「お前はこの人を、島の中案内してやれ」

 と役目を振ってきた。

 まぁそれも悪くない。


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