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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

全ての人から忘れられた少女

全ての人から忘れられた少女

作者: てと


幼い時から私達はずっと一緒だった。小さな村で同じ日に生まれた幼なじみ。白銀の髪に紫色の瞳、女の子みたいな綺麗な顔をしていて、幼い頃はよく年上の子供達に虐められ、私がいつもそんな幼なじみを守って慰めていた。でも、そんなサーシルが私は大好きだった。いつも優しく、心配性で、年上の子供達と取っ組み合いの喧嘩をする私をいつも泣きながら手当てをする。


「ターニャ、ごめん、僕が弱くて弱虫だから、いつもターニャが傷ついてばかりだ……」


「彼奴らがサーシルを馬鹿にするからいけないんだよ。サーシルは優しいから、暴力が嫌いなだけで弱虫なんかじゃないよ」


そんな日常はそう長くは続かなかった。お城から沢山の騎士が来て、神託で勇者であるサーシルと連れとしてターニャ、私を王宮に連れていくと言われた。不安がるサーシルの手を強く繋ぎ、安心させる様に笑う。


「大丈夫だよ、サーシル。サーシルは私が守るから」


「違うんだ……またターニャが傷つくところは見たくない、僕一人で行くよ」


そんな会話をしていると騎士の人がサーシルに言う。


「勇者殿、これは神託なのです。ターニャ様が貴方と共に魔王が復活したら旅に出るという神託です。これは曲げられない運命なのです」


「そんな……」


「ほらね。きっとサーシルが優しいから私も一緒に戦う運命なんだよ」


そして私達は王宮に連れて行かれ、二人一緒に戦い方を叩き込まれた。驚く事にサーシルは魔法が使えた。いつも私の傷があっという間に治っていたのは魔法だったのかと納得してしまった。


私といえば、力もなければ魔法も使えない。俊敏さだけが取り柄の荷物持ちのレベルだ。剣は重くて持てないからナイフでの戦い方をみっちり教わった。


そうして、二人ボロボロになりながら十年が経ち、私達は17歳になっていた。魔王が復活し、勇者のサーシルとそれをサポートする私。そしてこの国の将軍や冒険者のガゼルさん、聖女のマリベル様と旅に出た。


サーシルは全魔法を操り、剣の腕も将軍以上。将軍も今までの経験から戦闘で頼りになる。冒険者のガゼルさんは知識が豊富で、魔物の弱点などを熟知している。聖女のマリベルさんは癒しの魔法で皆んなの怪我を治す。私といえばナイフを使い姑息な手で戦う一般人よりも強いってところだ。でも、皆には出来無くて、私だけが出来る事がある。


サーシルが危ない時、代わりの盾になる事だ。サーシルを守るためなら死ねる覚悟でここまで頑張って来た。魔王の城に着き、私達は魔物を倒しながら慎重に足を進める。


そして魔王と呼ばれる異形の存在がまるで玉座に座る様にしていた。そこからは皆必死で魔王と戦った。どれくらいの時間が経ったのだろう、もう立っているのもやっとだ。もう少しで終わると言う時、魔王の手がサーシルの腹を貫いていた、だが、サーシルの剣もまた魔王の心臓を貫いていた。


「サーシル!!」


疲れなど忘れてサーシルの場所へ向かう。魔王は嗤いながら砂となって消え去った。どうして、私にはサーシルの盾になる筈だったのに。私の運命はサーシルを守る事なのに。


「ターニャ…泣かないでくれ……ターニャ……君の笑顔が、好きなんだ。……ターニャ……愛してる……」


そう言ってサーシルは事切れてしまった。


「やだ!!やだ!!サーシル!!言い逃げなんて許さない!!神様、私の全部をあげるから、サーシルを助けて!!」


「ターニャさん……お辛いのは分かりますが、一刻も早く此処から出ましょう。城が崩れ始めています」


「私もここにいる!!サーシルとずっと一緒だったんだ!!これまでも、これからも!!」



『へえ、面白いね人間って』



「お前は誰だ!?」


将軍やガゼルさんが警戒態勢を取る。空中には少年がふわふわと浮いていて半透明だ。


『僕は悪戯の神だよ?ねえ、彼を助けたいんだよね?全てを捧げてでも』


私はその言葉に泣き縋った。


「あげる!!私の命でもなんでもあげる!!私の運命はサーシルの盾になって死ぬ運命だったんだから!!」


そう、密かに神殿から言われていたのだ。神託で私はサーシルの盾になり死ぬ運命だと。全て承知の上でここまで来た。


『じゃあゲームをしよう。彼を生き返らせる代わりに、全ての人の記憶から君が消え、君は眠りにつく。彼がもしも君を思い出す事が出来れば君は目覚め、全ての人の記憶も戻る。どう?このゲームにのる勇気が君にはある?』


「いいよ、その話にのる」


『いいんだね?彼の記憶からも消えるんだよ?勝算はゼロに近い』


「別に良いの。サーシルから忘れられたとしても、生きていてくれるなら何でも良い」


『本当に人間って面白いね。それじゃあ彼を生き返らせるとしよう』


少年がサーシルに手を当て命を吹き込む。それと同時に私の体はクリスタルの様に固まってゆく。私は笑って崩れ落ちる城の中、永遠に続くかも知れない眠りについた。





ーーーーーーーーーー



魔王は勇者一行が倒し、世界中が喜びと笑顔で溢れている。だが勇者だけは心が凍り付いたかの様に喜びも笑顔も無かった。


何かが足りない。俺は何を失った?凄く大事なものだったはずなのに、俺はそれを失った。心の中にぽっかりと穴が開いた様に。何にも代え難い何かを失ってしまった。思い出せない。夢の中に出てくる甘栗色の髪をした少女の後ろ姿を何度も見る。俺はその少女に近づこうとするが一向に近づけない。必死に手を伸ばしても届かない。


そんな時、国王からこの国の姫との縁談を持ちかけられた。だが、俺はそれを断わって故郷へと帰る。俺は魂が抜けた様に実家の自室で項垂れる。


故郷の昔俺を虐めていた奴らもそれを謝罪し、魂が抜けた様な俺を心配する。


一瞬、甘栗色の髪をした小さな少女がボロボロになって笑う光景が見えた。だが顔が霞んで見えない。



君は誰だ?




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― 新着の感想 ―
[一言] ランキングから飛んできたから、こっちを先に読めばわかったのね そっか、全てをかけて願いをかなえて、ハッピーエンドか…… よかった
[気になる点] 全部『信託』になってるけど、神様のお告げなら「神託』でない?
[気になる点] 思いだしかけてるところで・・・・ 続きが気になりますが
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