『怪異』
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とてつもない存在感だった。
先の異形の存在を逃れられたのはとてつもない幸運だったと言っていい。
無論一般人からすれば怪異の戦闘力の高さや魔力の濃密さなど推し量れまい。
だが、自分は違う。
幼い頃より夜に蔓延る『人ならざる者』との戦いの為に鍛え上げられた己の超感覚は、全力で警鐘を鳴らして危険を訴えている。
それも、今まで感じた事の無いような濃密な気配を。
藍上蓮が生まれ育った藍上家は、古くは平安時代から続く陰陽師の家系であり、現世に居てはならぬ物を祓う事を生業としていた。
無論、現代においては世間からは隔絶された存在ではあるが、陰陽師達は人知れず人ならざる存在─『怪異』を祓っている。
陰陽師に限らず、世界各国で同様の組織があり、文明の発達と共にグローバル化が進んだ現代では海外との繋がりも多く、『教会』や『委員会』と言った組織との交流も盛んである。
中でも藍上家は、陰陽師の中でもトップクラスの実力を誇る家系であり、蓮は幼少より怪異祓いの英才教育を施されている。
故に慢心はなく、奢りはなく純然たる事実を述べる。
「これは…僕にはどうする事も出来ないなぁ…」
取り敢えず、被害にあっていた彼女─白月唯を救い出せただけ御の字だろう。
ホッと安堵の溜息を零して、蓮は彼女にこの状況をどう説明するべきな悩むのであった。
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「『怪異』?」
「そ、さっき君を襲ったあの気持ち悪い奴。」
「妖怪とかお化けとかいわれてる奴なの?」
「うん、僕達は妖怪や霊、ところによると神様なんかも、まとめて『怪異』と呼称する。」
ざっと、事情を説明してもらったがまるっきり言っている事が解らない。
すると、迷った素振りを見せながらも、蓮がおもむろに立ち上がり言い放った。
「じゃあ僕はこれで、アイツをどうにかしなくちゃいけないからね。」
「ちょ…ちょっと待ってよ!アイツをどうにかするって言ったって…あんなのを倒せるの?」
「どうだろうね…正直死ぬと思う。」
先刻まで話しかけていた時と同じ調子でおどけるように笑いながら自らが死ぬと言い放つ蓮。
「じゃあ!」
「だって、僕がやらなかったらアイツにこの街の人々が殺されちゃうからね。」
「…でも…!」
蓮の言い分はわかる。
あんな奴を放っておいたら間違いなく死者が出る。
だけど、目の前で話している少年に今から死にに行くと言われて引き留めない人間が居るのだろうか?
「じゃあ、君も早く帰った方がいいよ!」
「まだ話は…っ!?」
するとおよそ人間には有り得ないような身のこなしで、藍上蓮は先程の怪物の居た方向へと進んで行った。
「〜〜〜…!」
自慢ではないが唯は自らを非情だと思っているが、あの気のいい青年を見殺しに出来るほど彼女の心は非情では無かった。
いつの間にか唯は、蓮が消え去った方向へと足を進めていたのだった。
異能バトル…異能バトルは…