夕陽と影と
学校を終え、帰路についた唯。
いつの間にか夕刻に差し掛かり、街はオレンジ色の太陽の光と、黒い影の2色になっていた。
しかし、どうにも不可解な点があった。
(おかしい…大通りなのに人が居なさすぎる…)
そう、その言葉の通り時刻は未だ18時程度で、普段なら食材の買い出しなどで出かける人や、仕事帰りのひとも多くいるはず。
だが、見渡す限り人は居らずそれどころか都会の喧騒すらなかった。
まるで、人が居なくなったかのように静まり返った大通りを見渡しながら唯は不気味だと思いながらも、気の所為だろうと言い聞かせ歩き始めた。
刹那
(ッ……!)
物凄い勢いで鳩尾に衝撃が入った。
あまりの衝撃に胃の中にある物を全て吐き出しそうになるが踏みとどまり、先刻の衝撃の正体を確かめようと試みる。
しかし、見渡しても相変わらず人影はみえない。
いや…人影とは全く別の物がそこには居た…
外見は、頭は烏の様な黒い鳥、しかし人間の顔であり正しく人面鳥と言う言葉が相応しいような風貌…最も頭が3つあり、巨大な蛸の触手のような物を大量に生やしている、6mは優に超える大きさであった。
それを、一言で表すなら正しく『名服し難き生物』…いや、生物とすら呼べない程おぞましい物がそこに立っていた。
(な………あ………く…)
唯は内心で言葉にならない言葉でひたすら「なぜあんなものが?」とひたすら呟いていた。
そして気付いた、先程の鳩尾に感じた激痛はあの触手に殴打されたのだと。
そして、名服し難き怪物は3つの頭にある6つの目で唯を凝視する。
「ひっ…」
喉の奥からならす掠れた悲鳴。
生命の危機だと脳全体が警鐘を鳴らす。
しかし、恐怖のあまり立ちすくんでいた、すると
「キイィィィィィィィャァァァ!!」
怪物が明確な敵意を持って、甲高い声で咆哮した。
(立たないと!逃げなきゃ!どうやって!?)
パニックに陥った唯は目の前の怪物から逃げないといけないと理解しつつも、逃げ切れるとは到底思えなかった。
ズガァン!
背中に走る衝撃
人体から鳴ってはいけない音がなり唯は壁に打ち付けられる。
痛みはほとんど感じなく、しかし喉の奥からドロッとした液体が零れペシャッという音と共にそれが何であったか遅まきに理解する。
「…ぅ…ぁぁ」
恐らく内蔵にダメージがあったのか、いくらかの骨は折れてるだろう。
そして怪物は唯の両手足に触手を這わせ、3つの頭が大きなクチバシを開けながらこちらへ迫ってくる。
死
それは、唯にとって然程恐怖を感じる物ではなかった。
生きている限り、生物はいずれ死滅する。
それは、事故にせよ寿命にせよいずれ人は死ぬ。
ならば、死を恐れる必要はない、そう思っていた。
しかし、目の前の理不尽な物に理不尽な死を与えられる最期の最期で『死』を恐怖と初めて感じた。
そして願った。
理不尽を押し付けてくるこの怪物から、自分を救ってくれる物を。
しかし、現実はそうでない。人は、自らの保身を第1に考え、目の前で理不尽が起きても、自らの事でなければ目を瞑る。
それが賢い生き方。
そう…初めて出来た友達が、ある日突然目すら合わせなくなったあの時のように
そして、あと10秒もしないうちにやって来るであろう死を、甘んじて受け入れようとした。
「…た……す……て…」
自分でも何を言ったのか聞き取れない程の掠れた声。
刹那、一瞬の内にそれらは起きた。
閃光
のたうち回る怪物
一瞬のうちに切り取れたれ触手
黒い装束の様な服を着た男
男に抱き抱えられた唯はそれだけを確認した。
そして、男は唯を抱え脇目もふらず一直線で怪物から逃げ出した。
そして、建設途中で放棄された廃ビルの中に入り、身を隠した。
外では未だに怪物の絶叫が聞こえるが男は意識を唯に向け、札を1枚出し何かを呟き出した。
唯はぼんやりとした意識の中でこの男が自らを助け出してくれた事に気付き、安堵した。
(あぁ…助かったのか…)
そして、男が呪文のような物を言い終わった瞬間、札が溶け唯の身体を淡い光が包む。
次の瞬間、嘘のように身体の痛みが引いた事で唯は身体を動かせる事に気付いて、男を見る。
「良かったぁ…君が無事で本当によかった…」
そこに居たのは
「藍上…さん…」
「うん、そういう君は白月唯」
例の物好きな彼であった
異能バトルなんてなかった…(白目)
次こそは…!