童顔の鬼神は、意思持つ剣に共感を覚える。
ーーー死なせたくない、か。
そのグラムの言葉には、優しさが感じられた。
いや、どちらかといえばヴィランに対する憐れみだろうか。
ラセツが黙っていると、剣はさらに言葉を続けた。
『圧倒的敗北を喫したそなたの『実』が悪であったとて、それでも一度は拾った命。我が言葉にて仲違いを誘い、みすみす捨てさせるには忍びない』
こちらへの疑いを、即座にヴィランに伝えなかった理由がそれなのだろう。
もしラセツが悪であると確証出来たなら、折を見て、彼女に逃げるように言うつもりだったのに違いない。
「お前さんは、海の向こうでも、そういうのには気付いてたのかい?」
彼女に向けられてる視線や想い、下心。
老獪な印象のあるこの剣は、そうしたことを見つめ続けていたのではないだろうか。
ヴィランの前ゆえに、ラセツは先ほどから伝わらないように言葉を選んでいたが。
ーーーこの剣なら、ヴィランの扱いがどういうものだったのか、知っているだろう。
ラセツはそう考えたが、グラムは質問をはぐらかした。
『我が使命は〝影の勇者〟の助けとなること。そして我自身が、彼女を遣い手と認めた相手だ』
それきり、グラムは沈黙する。
だが剣の立ち位置ははっきりしたので、ラセツはさらに問いかけた。
「なぁ、お前さんの能力だが、ヴィランに力を与える以外にも一つ、別のもんがあるな?」
『……そこまで見抜くか』
「当然だろ」
陰陽五行の思想には、五行相生と五行相克がある。
水は木を生み、木は火を生み、火は土を生み、土は金を生み、金は水を生む。
また水は火を制し、火は金を制し、金は木を制し、木は土を制し、土は水を制す。
五芒星を描く相生相克。
本来『木』であるヴィランは『火』であるラセツに相性が悪いが。
剣は『水』の性質を持つため『火』に有利だ。
グラムは、ヴィランの不利を打ち消して補佐する存在であることがその事実からも分かる。
だがしかし、だ。
「陽には陰がある」
知恵と力を与えることを陽とするならば。
それに見合う対価を、ヴィランは支払うことになる。それが陰だ。
また、木の陽は生命の象徴。
水の陰は死の象徴だ。
ヴィランとグラムは、鏡合わせのごとく対比になり、また相反しているとも言えるのである。
グラムは生命を呑む性質を持ち。
ヴィランに触れることで、活性化する……そうした事実を加味すれば。
『……力の対価は、ヴィランの寿命。魂の力を吸うことで、我は力を発揮する』
「だろうな」
その力に頼り過ぎれば、結果として何が起こるかは明白だ。
妖刀でも同じことが起こる。
生命を吸われて強大な力を発揮する宿主はーーーやがて、衰弱して死に至るのだ。
「お前さんは魔性だな、グラム」
『勘違いをするな』
軽くラセツが指先に力を込めると、グラムは焦った様子もなく言い返してくる。
『我は神託を与えられし存在。我が持ち主と成るには『強さ』以外にも条件がある』
ただ命を喰らうだけではない、ということなのだろう。
「そいつは何だ?」
『不完全であること、だ』
「……?」
その言葉の意味が飲み込めずにいると、剣は言葉を続ける。
『先ほどのそなたの問いかけに答えよう。……ヴィランは、完全なる存在ではない。その彼女がどういう扱いであったかは、本人の口から語られることが全てだ』
我は影、とグラムは言い。
『彼女の出自については、本人の口から聞け』
それきり、剣を包む光が失せる。
話は終わりだ、ということなのだろう。
ラセツは剣に当てていた指先を離し、秘宝をヴィランに差し出した。
「結局、何の話をしていたのだ?」
「ん〜……」
内容を伝えるべきかどうか、は悩ましいところだ。
ヴィランが剣の秘密を知っているかどうかも知らないし、まさか、本当に西の連中がヴィランを裏切っていたのかどうかを話していた、とも言えない。
それに関してグラムは歯切れが悪かったが、あれはほとんど肯定だったのだから。
だが、悪意をもって川でヴィランの恐怖を増幅して煽ったわけではない、というのは分かった。
「コイツが、お前さんをどう思っているのか、を聞いてただけだ」
結局、話をはぐらかした。
「なぁ、ヴィラン。俺は、てっきり人間だとばかり思っていたんだが」
彼女の、人にしては少し尖った耳に目をやって、ラセツは問いかける。
「ーーーお前さんは、妖怪側の存在なのか?」




