ダンジョン攻略-18
スネーク・センティピードの『岩石槍』がボス部屋全体に放たれた後、ユウキたちの視界に広がっていたのは『岩石槍』から身を守ることが出来なかった者たちの亡骸と『岩石槍』によって起きた土埃だった。土埃が完全に晴れると、周りの状況が一層よく見え、軽く周りを確認しただけで数十名の亡骸が身体のところどころに穴を開け、地面に横たわっていた。
あまりの出来事にその場にいる全員が言葉を失い、ただただ目の前に広がる無残な光景とその状況を起こしたスネーク・センティピードを見つめていた。ユウキ自身もさすがの光景に言葉を失い、今まで発動していた魔法も無意識のうちに全て解いてしまっていた。
「……これ、勝てるのか?」
そう誰かが言った。いや、誰もが思ったことだった。今までこのダンジョン以外を攻略してきた攻略隊員たちも今回のダンジョンだけは無理だとこの光景をみて完全に悟った。それからは地獄だった。今まで手離さないよう力強く握りしめていた武器を力なく地面に落とし、自分たちがこのボス部屋に入ってきた入り口であり、今、後衛たちの後ろにある扉へと誰よりも早く逃げ出そうとし始めたのだ。それに続くように前衛にいた者たちは一人、また一人と武器を捨て、敵に背を向け、扉へと走り出した。
しかし、何人で押そうとしても扉はビクともしなかった。それもそのはずでダンジョンにあるボス部屋へと続く扉は外から開くか、ボスを倒すまでは絶対に開く事がないのだ。本来ならダンジョンに入ったことのある者やこれから入ろうとする者は予習をしており、ボス部屋の特徴も知っているはずなのだが、死にたくないという恐怖からなのか叫びながら扉を叩いていた。
ほかにも逃げ出そうとしている者もいたが恐怖で足が竦んだのかその場で立ち尽くす者や泣き出す者、中には粗相をしてしまう者もいた。そんな彼らの姿を見たスネーク・センティピードは完全に優位に立ったと理解したのかまるで嘲笑うかのような目で扉の前に集まる者たちを見下していた。
「おい、いい加減どうすんだよ!いつまでそうやって地面に這いつくばっているんだよ!何か手はねぇのか!」
自分の後ろで未だに黒百合の剣を杖代わりにしているソウジにユウキは我に返ったように訊ねる。しかし、ソウジはもうすでに攻略隊員たちと同様、完全に戦意を喪失してしまったのか微かに聞こえる程度の声量でまるで死んでいった仲間たちに謝罪の言葉を呟いていた。ユウキの言葉はもうすでに届いていないのかユウキがソウジに掴み掛っても、目からは涙は流すものの焦点はあっておらず虚ろだった。
「俺には元から誰かを引っ張る程の力も誰かを守る力もなかったんだ……」
ソウジはどこを見つめるかもなく焦点の合わない虚ろな瞳をユウキに向けながらそう言葉を溢した。杖代わりに持っていた黒百合の剣もソウジの手から離れ、地面に転がっていた。
「……そうかよ。なら、ここに居られても邪魔なだけだ。攻略隊の仲間が全員死ぬまで扉の近くで項垂れてろよ。そして、お前もタイガを一緒に助けに来た仲間を見捨て、タイガも助けられなかったという後悔に潰されながらあいつに食い殺されろ」
ユウキはそう言い切るとソウジを突き飛ばす様に掴んでいた手を離し、一人スネーク・センティピードに目を向けた。そして小さい言葉で「そんなの俺はごめんだ」と呟き、改めて『鑑定』を行った。しかし、『鑑定』内容はあまり変わらず、『死毒』を吐く右の頭の情報だけが無くなっていただけだった。
「さて、どうやって攻撃を入れるか。まず『硬鱗』のせいで中途半端な攻撃は効かないだろ。かといって無暗に魔法による攻撃もやり返されて、最悪さらに被害が増えるだけ、か……」
スネーク・センティピードから一切目を離すことなく顎に手を当てながらブツブツと独り言のように呟いていると、背後から自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。一瞬だけ後ろへと振り返るとそこにはハヤトが興味ありげな表情でこちらの様子を窺っていた。
「ユウキ、お前一体何する気だ?」
「ハヤト……どっちにせよあのデカブツ倒さないとここから出られないんだ。それなら答えは決まってるだろ。何とかしてあのデカブツを倒す」
「いや、倒す前にお前が来たあの大穴から逃げるってのはどうなんだよ。一応外に繋がっているんだろ?」
当然の疑問をハヤトはユウキにぶつける。ハヤトの提案も実際ユウキも悪くないと思っていた。だが、その提案には問題がある。大穴は一本道であり、外に繋がっているとはいえ、ユウキが入ってきた三層の通路まではかなりの距離があるのだ。誰か一人でもその大穴から逃げ出せば皆も同じように逃げ出すだろう。スネーク・センティピードがそんな彼らを逃すわけもなく、逃げる彼らを簡単に食いつくされるだろうとユウキはハヤトに答えた。
それを聞いたハヤトは納得がいったのか「それもそうか」とだけ答えた。ハヤトと目を合わせずにそう言葉を交えていると痺れを切らしたのかスネーク・センティピードが新たな『岩石槍』を発動させようと口元で魔力を込め始めた。その行動に気付いたのか扉の前で固まっている攻略隊員たちはまるで蜘蛛の子を散らすかのようになるべく『岩石槍』が自分の方へと来ないようにと逃げ始めた。
「おいおい、そろそろ来るぞ。どうすんだユウキ!」
ハヤトはまもなく来るであろうスネーク・センティピードの『岩石槍』が発動されるのを見て、焦りを表しだした。ユウキも必死に考えるが、スネーク・センティピードの『岩石槍』から護れる人数にも限りがある。しかも、全ての攻撃から身を護っていたとしてもいずれソウジのように魔力が枯渇し、動けなくなる。
必死に思考を繰り返すが、現状ユウキの力では『闇扉』で身を護ることくらいしか思いつけず、とりあえず両手に銃を構え、魔力を込められるだけ込め始める。武器を捨てず、逃げ出していない者たちも残り少ない魔力を使い、自分と周りの者を護れるくらいの防御魔法を発動させようと魔力を込め始める。
逃げ出した者たちは壁に張り付くようにびったりとくっつき、泣き喚き、叫びをあげ、祈りを捧げているだけで自分の身を護ろうとは一切しなかった。ユウキはなるべく壁側にいる者たちの位置だけでもと辺りを一瞥するとスネーク・センティピードの二回目の『岩石槍』が繰り出された。それに合わせてユウキも『闇扉』を発動させるため『岩石槍』が向かう場所へと向け、引き金を引いた。
次回更新は12/4です




