ダンジョン攻略-13
突然ボス部屋へと現れた三ツ首の蛇百足はソウジたち攻略隊の姿を鮮紅色の瞳がさらに鋭くなり、威嚇するように「シャアアア!!」と短く鳴いた。その鳴き声を合図かの様に蛇百足は自分が破壊した穴から全身をスルリと出すと攻略隊から目を離すことなく卵の前へと移動し始めた。まるで卵を守る母の様な姿だが、卵の中に居るのはこのダンジョンに生息する魔物やタイガを含めダンジョンに訪れた冒険者たちだ。だから、卵の中で育つ子供を守る母ではなく卵の中にいる獲物を守るモノといった方が正しいだろう。
「っ!!即座にガーディアンを盾に陣形を整えろ!!」
ソウジが叫んだ瞬間、蛇百足の三つある頭の内の口が一向に閉じることのない右の頭が突然こちらを睨みつける様に動き出し、歯牙から伝い流れる緑色の液体を咄嗟のソウジの指示に動くことすら出来なかった前衛の二名の冒険者にまるで噴出させるように放った。液体は彼らの腕と足に付着すると、ジュウっと溶かすような音を立てて、彼らの腕と足を衣服の上から溶かし始めたのだ。
一瞬何が起きたのか理解が遅れた冒険者二名は突如現れる味わったことのない痛みに苦痛の叫びをあげた。液体に溶かされる肉や骨からは独特の異臭が漂い、近くにいた者だけじゃなく全ての冒険者に恐怖を植え付けた。
あの液体に触れたら肉だろうが何だろうが溶ける。。それをダンジョンの地面が解かされている所を見ている事で理解はしていたのに、今回彼らが受けた被害を見入れ、さらにはその液体を受けたら前衛の壁役を引き受けているガーディアンの大楯や鎧はどうなるのだろうかと不安が強まるのと同時にこいつはやばいと再認識させられた。
即座に神官に彼らの怪我の治療を試みたが、液体の毒が強力なのか彼らの腕と足はすでに液体を掛けられたところから下は溶け落ち、徐々に上にも広がっていくのが見えるだけでそれの進行を緩める事が出来るだけで治療といった治療が進むことはなかった。
「怪我人はなるべく壁際に沿って待機させておけ!皆も見た様にあの液体には絶対に触れるな!後方支援のパーティーは液体を放とうとした瞬間、魔法で止められるように待機。前衛は残り二つの頭の行動と脚に警戒しながら攻撃に移れ!」
全体にそう指示を発した後、ソウジは後方支援のパーティーにいる神官を数名呼び出し怪我を負った冒険者二名の下へと向かった。怪我を受けた二名の冒険者はソウジの存在に気付くなり、助けを求めるがソウジは何も言わず治療の際に使う汚れの無い布を神官から受け取ると、彼らの腕と足の付け根にきつく縛り始める。
皆、ソウジの行動的に最初何をしようとしているのか理解出来ていなかったが、ソウジが彼らの身体を抑える様に指示をし始めた頃、神官たちはソウジが何をしようとしているのか理解でき、即座に指示に従った。しかし、まだ痛みで混乱しているのか二名の冒険者たちはなぜ抑えられているのか分からず暴れようとするが、やはり人数の差もあり、またソウジの怒気の含まれた声で動きをピタリと止めた。
ソウジは怪我を負っている利き手とは逆の腕で腰に携えていた黒百合の剣をすらりと抜き取ると、刃先を地面へと軽く刺し、足で踏みつける様に固定した。その姿はまるで押し切り包丁のようでまずは腕の切り落とす部分を固定するため、軽く刃を腕に当てがいながら調整する。そこまでされてようやく今から何をされるか悟った冒険者は止めるよう脂汗と涙を流しながら必死に懇願し、子供のように暴れようとするが、すでに刃が腕に近づいている状況で無理に動けばさらに怪我を増やすだけだと一度、小さな痛みを感じた瞬間、動きを止め、今にも消え入りそうな掠れた声で「やめてくれ……」と懇願した。
ようやく位置が決まると冒険者に「一瞬で終わらす。だから暴れずに我慢してくれよ」と短く言葉を発すると、呼吸を整えた。そして、静かに刃先に体重を乗せ、下に押す様に腕に刃を落とした。
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「今です!撃ってください!」
サクラの指示により、口が開きっぱなしの頭に向かって様々な色の魔法が飛んでいく。全てとは言えないが行動を阻止するだけのダメージは通ったらしく、また液体が噴出されることはなかったが鱗が強固なのか傷がついてもかなり浅いものであまりダメージが通っているようにも見えなかった。
だが、それは他の頭も同じようで頭部はかなり強固な鱗で覆われているらしく、どの頭に攻撃を入れても傷は僅かなものであり蛇百足自体もそんなにダメージを負っているようには見えなかった。逆にさらに攻撃の回数が増え、今まで頭だけで攻撃をしていたのだが、徐々に地面を抉る程の鋭利な尖脚を器用に使い、攻撃する様子も見える。
しかし、やはり図体が大きいのか部屋内では少し動きづらそうに身体を紆曲しながら基本的に横向きに攻撃をしている。だが、そちらの方はまったくとは言えないが、頭ほど固くないようである程度の攻撃は通るが、数が多く攻撃を仕掛けても他の尖脚がすぐさまカウンターのように攻撃を仕掛けてくるため簡単には攻め入ることが出来なかった。
しかも、例え攻撃が通ったところで傷は浅く、またすぐに避けるか防ぐかしなければ与えた攻撃以上の攻撃を受けてしまうため、完全にジリ貧な状態になってしまう。
「サクラ、状況はどうなってる」
全ての状況を綿密に把握し、細かい指示を全体に出していたサクラの下に金鎧の一部分を怪我をした冒険者の血で赤く染めたソウジが顔に付着した血を大雑把に腕で拭いながらそう話しかける。サクラもソウジの存在に気付いたようである程度の指示を済ませると、簡潔に今の状況を話し始めた。
「一度撤退しようにも部屋の扉はすでに閉じられていますし、倒すにしても攻略法が見つかりません。それに正直、このままの状態だと徐々に負傷者だけじゃなく死者が出ると思いますがどうしますか?」
サクラは矢で前衛のサポートと指示を怠ることなく、視線は蛇百足に向けたまま、思ったことを全て話す。ソウジはサクラの言葉に「そうか」とだけ答えると、しばらくの間、左手を顎に当て、思考を繰り返す。
「……合図を出したら前衛にいるやつらを一旦この辺りまで下げろ」
ソウジは何かを思いついたようにゆっくりと顔を上げると、サクラにそう言葉を残して左手で黒百合の剣を抜き出した。
次回更新は10/30です




