特別訓練と事情を持った亜人ハンター-13
「じゃあこれから摸擬戦を始めるぞ。呼ばれたペアから始めるから各自準備体操忘れるなよ」
生き生きとした声でソウジは俺を含めた10人にそう声を掛けると身体を伸ばし始めた。ダンジョン攻略前日の今日は訓練の最終日でもあり、特別訓練を課せられた俺たち10人の攻略隊参加の最終テスト日でもあった。今回の模擬戦はペアでの連携やダンジョン攻略における協調性を重点的に視るため、勝敗関係なくその場で今回のダンジョン攻略を指揮するソウジとその指揮をサポートするサクラ、アキラの3人が審議を行った上で判断する形であった。
「今から順番に呼びますのでその順で摸擬戦を行います。では、一戦目はハヤトさんとミツキさんのペアです。そして、その後はサキさんとシウテリルさんのペア、カズトさんとトウゴさんのペア、マシルさんとアリサさんのペア、最後にユウキさんとサティヴァ―ユさんのペアの順に行っていくので作戦を立てるのもあり、他のペアの方々の戦いを見るのもありなので自分の番が来るまでこの訓練場内で各自お待ちください」
サクラは手に持った一枚の紙に目を通しながらそう言葉を放つと、思い出したように「あぁ、それと」といい、言葉を続けた。
「今回は先ほども軽く説明したように各ペアの連携や協調性を重視しているので勝敗は関係ありません。また、あなた方の相手をするソウジさんは基本攻撃は禁止ですので好きなだけ攻撃してくださいね」
「好きなだけって……一応防御はするぞ?」
「とのことなのでまぁ当てられるよう頑張ってください。あと結果はすべての摸擬戦が終ってから纏めて発表しますのでそれまでは摸擬戦が終ろうと訓練場からは出ないでくださいね」
今回のルールは至って簡単でペアの関係上、接近戦に向かないペアもいるためソウジからの攻撃は基本無しとしているが、カウンター狙いの攻撃や正当防衛に近い攻撃は一応ペアの連携による防御を視るためある。ちなみに戦闘時間は審判を行うサクラの判断によるため摸擬戦の終了は疎らになるため無制限としている。
そして今回の摸擬戦はペアのみ普段使っている武器・防具の使用が可能になっている。理由は使い慣れている武器の方が攻撃や防御、または魔法の詠唱に感覚が空いたりズレたりしないため実用している武器の使用をソウジ自ら許可しているのだ。その反面ソウジはサクラも言っていたように基本的に防御側に回るため、武器は訓練場に常備されている木剣のみであり、防具も胸や膝など部分的に回ることのできる簡易的な物のみ着用していた。
「じゃあ、説明も済んだようだしちゃちゃっと始めようぜ」
地面に突き刺さっている木剣を手に取ったソウジは先ほどまでとの生き生きした笑顔とは程遠い、真剣な表情へと変え、最初のペアであるハヤト・ミツキペアに睨みつけるような視線を向ける。まだ順番も来ていない俺にも緊迫した雰囲気が流れる。それもそのはずだった。なぜなら今回の摸擬戦の結果によってはダンジョン攻略に参加出来なくなるかもしれないのだ。
基本的にダンジョン攻略を行う攻略隊に正式に参加するには冒険者としてのランクがBを超えていないと参加できない決まりになっているため、今回のダンジョン攻略は冒険者や今後攻略隊に正式加入しようと考えている者にも自分をアピールするチャンスでもあるのだから。
ハヤトとミツキはソウジの鋭い瞳に表情が強張り、歩こうと前に出す1歩1歩を重く感じながらもゆっくりとソウジの前へと歩き出す。お互いに位置に着くと2人は各々の武器を手にし、ソウジへと向け、構える。ソウジはただ、自分へと武器を構える2人に微動だすることなく立ち尽くしていたが、視線だけは変わらず2人を捕えていた。
お互い位置に着いたことを確認したサクラは再度、両者に視線を送るとおもむろに右腕を上げた。これから最終試験が始まるせいかその場にいる者たちの間には一瞬の間の静寂と緊迫した時間が流れる。
「お互いに準備はいいですね。それでは……始めッ!」
☆★☆★☆
俺たちにとって最後の摸擬戦が始まってから約1時間。すでに4組目のマシルとアリサペアの摸擬戦が終わりを刻々と迎えており、最後のペアである俺とサティヴァ―ユは緊張を走らせていた。俺は軽く体を伸ばし、サティヴァ―ユは武器の整備をしながらマシルとアリサのペアの摸擬戦を見ていた。
「それまでにしてください」
唐突に両者の間に現れたサクラの合図とともに両者は動きを止め、緊張が切れた様にマシルたちは息を大きく吐いて、地面にへたりと座り込んだ。そんな2人とは反対にソウジは顔色1つ変えず汗すらも流すことも呼吸1つ乱すことなく、持っていた木剣を軽く地面に突き刺すや否や軽く身体を伸ばしながら地面にへたりこむ2人に摸擬戦の時みたいな真剣な表情から爽やかな表情へと一変し、「お疲れさん」と声を掛けた。そしてすぐさま俺たちの方へと身を翻し。
「さて、次で最後かな?ほら早く来いよ2人とも」
他のペアたちにも向けていた鋭い視線を俺たちにも向けてソウジはそう言葉を掛ける。ソウジの鋭い視線と普段とは違う低い声に少しばかりの緊張と武者震いを起こすが、俺たちは一拍おいてからソウジたちのいる方へと足を運ぶ。最初に行った摸擬戦の時よりも進む足取りが重く感じるのはこれが最後のチャンスだからだろうか。それとも一度、彼の圧倒的な強さに対する恐怖を味わった記憶からくるものなのか俺には分からないが、俺は徐々に速くなる鼓動と重い足を無理やり前へと出す。
遠くからすでに摸擬戦を終え、一息ついているハヤトたちから何やら声を掛けられているが今は緊張が勝っているせいかあまり聞き取ることが出来なかったが、視線を向け、頷く事は出来た。
ちらりと隣を歩くサティヴァ―ユへと視線を向けると彼女も同じなのか顎を引き、いつも以上に姿勢を正した歩き方をしていた。両者ともに立ち位置に着いたところでサクラが確認のため視線を交差させると右腕を静かに上げ、一拍おいてから口を開く。
「両者とも準備はよろしいですか?それではこれで最後の摸擬戦です」
サクラの声に反応するように俺たちは武器を手にする。すでにソウジは右手に木剣を持ち、いつでも準備が出来ているとでも言いたげな表情でこちらを伺っているのが分かる。サティヴァ―ユも弓と矢を構えるが、かなり緊張しているのか身体全身が強張っているように見える。
—————とにかくこれで最後だ。今やれる事だけは全部出してやる!それともう誰かとペア組むのもソウジと一戦交えるのも勘弁してぇな。
そんなことを心の底から願いながらも目の前に立つソウジへと剣先を向け、意識を集中させる。
「では……始めッ!」
サクラの合図とともに右腕は下に降ろされ、最後の摸擬戦が始まった。
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