表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールド・オブ・ザ・デスゲーム  作者: 悠城 拓
第1章 「全ての始まり『エイガルド編』」
77/163

特別訓練と事情を持った亜人ハンター-11

 彼女の朝はいつも早い。彼女が起きる時間はまだ空が明るくなる前、辺り一面暗闇が広がる時間に彼女は起床し、日課となっている鍛錬を行う。鍛錬が一通り終るころには陽も昇り始め空が明るくなってきていた。


 この日もいつも通り、攻略隊からダンジョン攻略までに課せられた訓練内容を成し遂げるために勝手に組まされたペアである銃剣士のユウキと近辺の森へと向かう。今日も彼との会話は一言二言だけである。それもそのはずだ。彼と会話する事自体、彼女は避けている。


 彼女は基本ソロで活動するハンターであり、誰かと組むことを拒んでいるからだ。昔は彼女の容姿もそれなりの美貌もあって様々な冒険者から声を掛けられることが多々あったが、彼女の相手に対する毛嫌いする態度や言動により自然と彼女に声を掛ける者も減った。


 だからか、ギルド内や酒場では彼女の噂を知っている者は攻略隊に参加するための摸擬戦に彼女が参加することを知った時、細々とだが話題にもなったのだ。だが、話題になったとはいえ言われていたのは彼女に対する「基本ソロのやつがチームワークとかできるのかよ」、「どうせ足引っ張るだけだろ』等という暴言や見下すような発言ばかりだった。


 しかし、彼女にとってはそんな事どうでもよかったのだ。攻略隊に参加する者たちの目的は基本、ダンジョン内にある金になるものや希少な魔物の素材を手に入れることだった。だからか、攻略隊に参加できる資格を手に入れた者の中にはダンジョン攻略に対し、「ダンジョンにいる魔物もダンジョン外に魔物と変わらないだろ」、「自分の実力なら攻略隊の手が無くても余裕だ」などという安易な考えを持っていた。もちろん正規の攻略隊のメンバーはそう言う考えを持っている冒険者がいることも承知の上で攻略隊の参加を認めていた。


 だが、彼女はそんな安易な考えを持った者たちとは違い、昔から変わらない目的を持っていた。それは”強くなる”ことだった。彼女の師匠—————リアを失った時からその目的だけを持ち、今の今まで生きてきた。彼女は今もなおリアが死んだ事は自分のせいだと自分で自分を責め、苦しんでいた。そんな苦しみから解放されるのは自分が強くなり、1人で生きていけると確信した時、自分は自分が行った罪から解放されると信じ、今も1人で強くなろうと考え、生きているのだ。


 仲間や一緒に戦う者がいると自分の中に余裕や安心といった怠慢が生まれ、”強くなる”という覚悟が揺らいでしまう。だから彼女は今も昔も頑なに1人で行動しているのだ。そうしないとまたリアみたいな死ぬ必要のない者を死なせてしまうと思ってしまうからだ。


 そのためにも彼女は昔も今も変わらず人を拒み続ける。それは例え攻略隊に課せられた課題だとしてもだ。普段なら声を掛けられても無視をするか、しつこいようであれば一睨みでも浴びせれば相手は自ずと彼女の前から立ち去る。だが、彼だけは、ユウキだけは違った。無視しようが、罵声を浴びせようが彼はついてきた。少なからず課題のためだとは言え、何も言わずただついてくる者は彼女にとっては初めて見たいなもので、これ以上どうすれば彼が自分から離れていってくれるか自分でも分からなかった。


 今思えばなぜ初日に自分から声を掛けたのかも分からなかった。普段なら何も言わず、何も言わせず黙々とクエストを受け、陽が落ちるギリギリの時間までクエストを達成するために森に潜る生活を送っていたが、それはペアを組んだ今も変わらず、普通の冒険者はこの時点で自分に罵声を浴びせるなりして街へと帰ってしまうのだが彼は違った。時折、彼も口を挟んで来たりするが、それ以外には普通の人間なら聞こえない程度の声量で文句や愚痴を溢すだけで絶対に自分の下から離れていこうとしないのだ。


 最初は攻略隊に課せられた課題のせいだと思っていたが、彼からサクラの伝言を聞いた時からさらにしつこく付き纏って来ていた気がした。そしてそれは今日も続いていたのだ。


 —————なんで私から離れない。私は誰かと連るむきも慣れ合う気もないのになんであいつは私に……。


 今日も陽が落ちるギリギリまで森で『翠眼兎(グリーンアイ・ラビット)』の討伐をし、街の入り口でユウキと別れたあとサティヴァ―ユは必要な消耗品と今日の夕飯である食材を買いに商店まで赴いていた。


「……ユさん、サ……ヴァ―ユさん、……サティヴァ―ユさん!」


 そして道中、今日のユウキの行動や言動に上の空になっていると久しぶりにまともに聞いた懐かしい声が自分を呼んでいることに気付いた。声の方へと顔を向けるとそこには自身のウィングスパンと同じぐらいのサイズの弓を背中に背負い、腰には矢筒と自分と同じ一本のダガーを携行しているサクラが仕留めたであろう小型の魔物を片手に持っていた。そして返り血だろうと思える赤い液体が防具の所々へと染み付いていた。


「……サクラ、か。何か用か?」


「いえ、用というほどの用はないのですが見たところかなり上の空で歩いてたので少し声を掛けただけです」


「そうか、それは心配かけたな。じゃあ私はもう行く」


 一度は同じ師匠の元でハンターとしての力を磨いていたが自分の勝手な行動で大切な師匠を死なせてしまったのだ。サクラが何を言ってこようと自分は何も言い返せない、何も言えない。だからこれ以上サクラと一緒にいるのがつらいせいかサティヴァ―ユは早々に話を区切り、その場を後にしようとしたがそれはサクラの言葉によって阻止された。


「またそうやって逃げるんですか?師匠が無くなった時と同じように」


「別に逃げていないさ。……ただこれ以上私と一緒にいるとまた死人が出るからなるべく人と関わらない様にしているだけの事だよ」


 サクラに返す言葉が微妙に震えている気がするが、サティヴァ―ユはなんとか言葉を返した。だが、サクラはさらに言葉を掛ける。


「それは逃げているのと同じなのではないでしょうか?」


「なんで私が逃げてるように見える。私はただ……」


「確かに師匠が亡くなったのは貴方の勝手な行動かもしれません。ですが、師匠を死なせたというなら私だって同じです」


 そう答えるサクラの声も徐々に震えていっているのがサティヴァ―ユにも分かったが、なぜサクラがそう言ったのかまでは理解できなかった。なぜなら『血猿(ブラッド・エイプ)』を引き寄せたのは当たりもしない矢をリアの制止も聞かず、勝手に射ったのも自分自身なのだから。本来なら自分が死ぬべきだった。師匠であるリアが死ぬ必要はなかったのだ。


 そのサティヴァ―ユの心情は同じ師匠の下でハンターとしての腕を磨いてきたサクラにも少なからず理解はしていたが、いつまでもウジウジと無理に1人で行動しようとするサティヴァ―ユの性根に腹を立てていたのも少なからずあった。だからこそ、もうこの先言うこともないと思える今の機会に意を決してサティヴァ―ユにサクラはそう言葉を吐き出したのだ。

次回更新は6/26です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ