特別訓練と事情を持った亜人ハンター-1
「……ッ!、……キ!」
—————あぁ、誰だ。俺を呼ぶのは……。
「……キ!ユウキ!いい加減起きんか!この馬鹿たれ!」
聞きなれた声で名前を呼ばれた後、脳天に固い何かがぶつけられ、その痛みにより目が覚めた。
「いでッ!いきなり何すんだよ!このロリババア!」
「ロリババアとはなんじゃ!いくら呼んでも起きんお主が悪い!」
目を覚まし、声のした方へと身体ごと向けるとそこには純白のワンピースで全身を包んだ、腰まで伸びた紫色の特徴的な髪色の女の子—————シノがどこから出したのかも分からない分厚い本を手に持っていた。
「大体なんでまたこんな所に?俺は確かソウジとの摸擬戦の最中で……って結局あの試合どうなったんだ?」
いきなりの事で色々と頭の中が混乱していたが、順番に整理していくと一応俺はこの空間に来るまでソウジと摸擬戦を行っていたはずだ。ソウジから溢れる謎の存在、そしてソウジが最後に使ったあの『黒百合』という他者を飲み込み、内側からの攻撃を完全に無力化するという固有スキルの正体。謎が次から次へと来てもう考えるのも放棄したいくらいだった。
「まぁ、ユウキよ。一度落ち着け。落ち着かなければ分かるもんも分からんぞ」
シノはそう言うとまたどこから出したのか分からない座布団の様な敷物を2枚敷き、一枚の上に胡坐をかいて座り出した。俺自身も確かにシノの言う通り落ち着いて整理しなきゃ分からないだろと思い、俺も出された座布団らしき物の上にドサッと座った。
「それでまずはお主の相手のソウジだったか?あやつが持っていた剣はなんじゃ?」
「いや、お前も知らねぇのかよ。お前が知らなかったらこの世界に来て数ヵ月程度の俺が分かるわけないだろ!」
「そうではない。なぜあやつが「あれ」をもっているのだって聞いているのじゃ」
俺は聞きたいことを逆に聞かれてしまい生憎にも嫌味な感じで答えてしまった。
「「あれ」って『黒百合の剣』ってやつか?」
『黒百合の剣』そう言葉にするとシノは静かに頷き、一拍おいてから口を開いた。
「あれは賊に言う『魔剣』というやつだ。しかもこの世界に存在する中でかなり危険な部類の魔剣に入る」
シノはそう答えるとブツブツと俺にも聞き取れない声量で呟き出した。しかも、かなり深刻なものだということもわかる。でも、なんでソウジがそんな危険な魔剣を?
「なぁ、シノ。1ついいか?」
「なんじゃ?」
「俺たち転移者っていうのはこの世界に来るとき必ずと言っていいほど魔武石っていう自分に合った武器に変形する石が近くに転がっているんだが、武器に変わるとき魔剣になる可能性ってあり得るのか?」
「残念だが、お主の求める答えは出せぬ。儂は転移者の適性クラスを見分ける、それが仕事であり、それ以外の事には一切の情報がないのじゃ」
俺の質問にシノは悔しそうに頭を横に振りながら答えた。だが、シノの答え通りに考えると理屈が合わない。なぜならそうなるとなぜ見ることも知ることもできない魔剣の存在をそれも『黒百合の剣』がかなり危険な部類の魔剣になるのかという物だった。しかし、その疑問にはシノの続けて出ていた言葉により納得せざるを得なかったのだ。
「儂は確かに振れたもののステータスしか分からん。だが、その時に身に付けている物は全て『鑑定』の力により知ることが出来るのじゃ。そして昔、儂は偶然にも『黒百合の剣』の所持者のステータスを『鑑定』するときがあった。儂の鑑定は正直鑑定できるものが制御出来んのじゃ。だから、その時も自動的に『黒百合の剣』のステータスを実態を知ってしまったのじゃ」
シノはそう言葉を放つと顔色を悪くさせ思い出したかのように身体を震わせていた。その光景はいつもの元気なシノではなく何か強く禍々しいものに対しての恐れ、恐怖といったものが表情から読み取れたのだった。
「とりあえず忠告はしておく。あの剣の持ち主であるソウジにはなるべく近づくな。いつ自身に災いが訪れるか分からん」
「おいおい、さすがにそれは冗談だろ?やめてくれよ」
シノの言う言葉を信じきれないというか信じがたい内容だったせいかヘラりとした表情でそう言葉を返す。だが、シノの額から見える脂汗がその恐怖を物語っていた。
「今回はお主は運がいい。あの『黒百合』を食らってなお、意識は失ってはおるが死んではおらん。今度もう一度あれを食らってみろ。今度は何かを考える隙も無くあの世行きじゃ」
「あの世……」
だんだんとシノのいう言葉に信憑性を感じてきたのかシノ同様、額に脂汗を流す俺は少し思い出してしまった。あの摸擬戦での出来事を。突如性格変化したソウジ、ソウジの背後から感じられる謎の存在感、そして『黒百合』という相手を飲み込む固有スキル。あれは一度食らったから分かる。あれは冗談気にやばい。
「今は何も知らんといった感じで接しておればよい。ほら、お主の仲間たちも心配そうにお主に声を掛けておる。そろそろ目を覚まして無事を知らせてやれ。あと、摸擬戦ごくろうじゃったな」
「お、おう……ありがとよ」
シノはそう言うなり指はぱちんと鳴らした。
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