模擬戦-18
「ではでは、参加者の準備が出来たようなので摸擬戦最終日第1戦目を初めて行きたいと思います。まず、攻略隊からはハンター隊隊長であり、攻略隊の索敵者サクラさんです!」
司会の女性がそうサクラの紹介を始めた途端、サクラのファンだろうか観客の大半(主に男性陣)が雄叫びのように声を震わせた。そして、司会の紹介をもとにサクラが人込みを割いて闘技場へと足を運んでいた。それによりさらに男性陣からの声援という名の雄叫びは増し、サクラは少し困った表情を浮かべた。
「そして、参加者からは魔法使いのサキ&ビーストテイマーのカイペアです!」
司会の言葉に再び声援が訓練場内に鳴り響き、今まで以上の熱気が感じられたが、名前を呼ばれたサキとカイさんは緊張した面持ちで闘技場内に入っていった。
サキはいつも通り普段着の上に肘、膝にプレートの様な防具を身に付け、フード付きの黒いローブを羽織り、手には自身とほぼ同じサイズの左右3つずつ円環がついたT字型のロッドを持って構えていた。また、相方のカイという男性は頭、肘、胸、膝に黒い防具を身に付け、両手には鉤爪の様な武器を身に付けていた。そしてさらにビーストテイマーだと自慢するかのように彼の右側には頭部に彼と同様の防具を身に付けた赤色の毛並みをした狼の様な魔物がグルルッとサクラに対して威嚇をしていた。
「ありゃレッドウルフか?結構レベル高いな。あのビーストテイマー」
「そうなのか?」
いつの間にか隣にいたハヤトが赤牙狼を見るなり感心したような声でそう答える。
「レッドウルフは基本数体から数十体の群れで行動するらしくてな。C級以上の冒険者が何パーティーかで挑んでもかなり苦戦するレベルの魔物で、昔ソウジから聞いたがダンジョンによってはあいつらも出現するらしい。しかも数十体の群れで」
ハヤトは続けて「だからレッドウルフをテイマーし、使役するってことはそれなりの実力者だってことだ」と何故か少しだけ嬉しそうにそう答えた。
「へぇ、そうなのか……確かにすごいな」
俺はハヤトからその話を聞いた後にレッドウルフを使役するカイという人物とレッドウルフに対して興味本位で鑑定してみた。
名前:シノミヤ カイ
種族:人間
性別:男
使用可能魔法適正:火
【スキル】
炎魔法Lv2
『火球』
『火壁』
『火嵐』
『固有スキル』
『召喚』
【印力】
『懐柔』
名前:ロウ
種族:赤牙狼
性別:♂
使用可能魔法適正:火
【スキル】
炎魔法Lv2
『火裂爪』
『炎喰』
【アビリティ】
『雄叫び』
名前:ニッタ サクラ
種族:人間
性別:女
使用可能魔法適正:光
【スキル】
光魔法Lv4
『光癒』
『閃光』
『光矢』
『閃光雨』
『武器付与・光』
【印力】
『広範囲索敵』
俺はカイと赤牙狼を鑑定して静かに息を呑んだ。そしてついでに2人の相手のサクラの鑑定もしたが、その情報は2人が相手で本当に歯が立つのかと思うほどの差だった。サクラでこのレベルだ。なら次に待つアキラ、そしてソウジの強さはどれほどなのかと俺は思考を続けた末に一切の声も溢すことなく静かに息を呑むしか出来なかったのだ。
「それでは両者揃ったようで摸擬戦の方を始めていきたいと思います!御三方準備の方はいかがでしょうか」
「私はいつでも」
「構わん」
「時間が惜しいので早めにやりましょう」
司会の言葉に3人はおのおのが言葉を発し、武器を構える始めると辺りは先ほどの活気を忘れるかのように静かになり、辺りに緊張感が走る。そして—————
「それでは第1戦目始め!」
静寂を破った司会の合図によりまずカイとロウがサクラに向かって走り出す。サクラは迫りくるカイとロウを警戒しつつ、後方で魔法を詠唱し始めるサキに視線を送り、矢筒から1本の矢を取り出すと静かに魔法を唱えた。
「……『閃光』」
唱えた瞬間、サクラを中心に眩い光が現れカイ、ロウ、サキだけでなく観戦者たちの視界を白く染める。単純な目くらましだが走り出したカイとロウの動きは止まり、完全に隙が出来る。
「きゃいんッ!」
「なんだ!……ロウ!」
カイは突然のロウの叫びに横を振り向くが、依然として『閃光』による目くらましに視界が遮られ、相棒のロウの姿が見えないが、魔力の流れ的にロウが消滅したことを理解する。眩い光は数秒で消滅したが、カイの視線には闘技場の外で摸擬戦を観戦する者たちの姿しか映さず、相手であるサクラの姿を完全に見失った。
「ッ!カイさん、後ろです!」
「グッ!?」
サキの声にカイは瞬時にしゃがみ込み、足を上へと振り払うとサクラの放ったと思われる矢が振り払われた圧力で地面に落ちた。カイはそのままバックステップでサクラから距離を取り、サクラを挟む状態で武器を構え直した。
「なる程、よく今のを避けられましたね。それは褒めてあげます。ですが……」
サクラはそう答え、視線をカイからサクラへと移し、キッと睨みつけるように目線を鋭くさせ言葉を続けた。
「あなたは何をしているのですか?これはパートナーとの連携を意識した摸擬戦でもあるんですよ?それなのに詠唱も止め、パートナーの援護もせず突っ立てるだけって攻略隊を私を舐めているんですか?」
「それは……」
突然の説教にサキは思考が追い付かず言葉を濁らせるが、サクラはお構いなしに言葉を続ける。
「はぁ、攻略隊に参加するのだからそれなりの実力はあると思っていたのですが、第1戦目からこの程度とは先が思いやれます。悪いことは言いません。あなたたち今すぐ辞退しなさい」
サクラは冷たく鋭い瞳でサキへと視線を変えず淡々とした物言いで2人にそして観戦している他の参加者に対しそう訴えかける。放つ言葉は何の感情もないただただ冷たく重いものだった。それは多分彼女の攻略隊での経験がそういうのだろう。使えない奴、動けない奴はダンジョン攻略にとってお荷物。それだけでなくタイガ奪還戦である今回の事に関しては完全に皆の足を引っ張るだろうというサクラなりの思いやりだった。
だが、そんなサクラの言葉もお構いなしにサクラの背後で静かにその言葉を聞いていたカイが今度は詠唱をしながらサクラへと走り出した。
「さっきから好きかって言いやがって!そう簡単に辞退するかよ!食らいやがれ!『火球』」
カイの頭上には複数の火球が生まれるとサクラ目がけて放たれ、サクラへと着弾したかに見えた。しかし、それは全てサクラの『光矢』と接触し、お互いに煙を立たせながら消滅した。
「残念でしたね。ご自慢の魔法も簡単に破られてはもう手の打ち様がないのでは?既にテイマーしている火牙狼も倒しましたし、貴方の勝ち目はないと思うのですがそれでも私に挑みますか?」
「あ、当たり前だ!ここで諦めて辞退したらこれまで努力してきた意味がねぇ!例え勝てなくても一太刀でも一掠りでもあんたに傷を付けてやる!」
カイはそう答えるなり、鉤爪を装備した腕を顔の前で交差させながらサクラへと突進していく。サクラはそのカイの無謀な行動に呆れ果てため息を溢し、またサキは未だに動けずに手に持ったロッドを握り締めながら2人の攻防を眺めていた。
次回更新は3/6です




