模擬戦-13
「いや、何がという訳だよ。その考えに至った経緯を説明しろよ」
シノにかなり雑に説明され、理解もままならないまま話を一方的に進められたのか、ユウキは顔をしかめながら説明を求めるが、シノは「時間がない」とだけ言い、説明を拒んだ。それ以上追及しても答えないと諦めたのかユウキはため息を吐きながら頭をガシガシと掻き、シノの話に耳を傾けた。
シノの話によると能力の移譲は簡単に出来るらしく、やり方もシノをユウキの身体の一部にした時と同じでシノの一部をユウキの中に入れ込むだけだということだった。この話を聞いたユウキは少しの安堵感を覚えるが、またシノと唇を重ねなければならないのかと恥ずかしいという感情も出てきていたのは事実だ。
ユウキが影ながら羞恥と戦っている事すらシノはつゆ知らずといった表情で能力を移譲する準備を進めているのを見ると、1人で恥ずかしがっているのも馬鹿馬鹿しいと感じたのかユウキは1つ咳ばらいをして考えていることを一掃させると真剣な眼差しで移譲の準備をしているシノに声を掛ける。
「おいシノ、早く終わらせられるなら早く終わらせてくれ」
「少し待っておれ、簡単だとは言ってもそれは移すときだけであってそこまでに行く準備は少し時間がかかるのじゃ」
シノはそう答えると、自身の右目に指を当て、自分の魔力を込め始める。その後、シノは以前と魔力を込めながらユウキの手を引き、ユウキ自身にも繋いでいる手に魔力を込めろと短く発する。ユウキも言われた通り、最近やっと出来るようになってきた魔力操作で手の周りに紫色の魔力を巡らせ、シノの手に魔力を送る。そして————
「よし、準備はオーケーじゃ。次の段階に行くぞ」
「次は何する気だ?」
素朴な疑問をシノに投げつけると、シノは少しだけ不敵に笑いユウキの顔に自身の顔を潜らせるよう下から近づけ、「こうするんじゃ」と短く答える。それと同時にユウキも瞼を少し強めに閉じ、シノの行動を待つ。ユウキは目を瞑り、自身の唇に来るであろう感触を少しだけ期待心を持って待っているが、いつまで経っても来ないことに異変を感じたのか徐々に閉じていた瞼を開くとそこに飛び込んできた景色はユウキの期待を綺麗に裏切るような状況だった。
「お、おい……お前、何してんだよ」
ユウキは先ほどまで魔力を込めて準備をしていた右目から大量の血を流しているシノに狼狽えながらそう呼びかけるが、シノは依然と不敵な笑みを浮かべており、開いた左目はユウキの右目を見据えていた。
「言ったじゃろ?次の段階に行くと」
シノはそう言いながら再度ユウキに近づき、まだ血濡れのしていない白い華奢な腕を上げ、ユウキの右目に指を当てる。この時点で嫌な予感はしていた。だが、なぜかユウキはその場から動けず、言葉も発せられずと言った恐怖の中、ただただシノの顔と徐々に瞼の中に侵入してくるシノの指を見つめていた。
「痛いのはちぃとだけじゃ。すぐ終わるから叫ぶな、暴れるな、動くな」
口角を上げ、そう言うシノは悪魔にしか見えず、瞼を閉じたくても閉じれないユウキの目尻にはすでに痛みと恐怖で流し始めていた涙が徐々に赤く染まり、最終的に右目は何も映すことはなく、残ったのは痛みと恐怖と眼窩の中に何も無くなったという感覚だけだった。
シノの手が離れると同時にユウキは自身の右目を抑え、シノから離れると痛みに耐えながら空いた左目でシノを睨みつけると、純白のワンピースと肌をユウキと自身の血で濡らし、両手の平に取った眼球を握りしめていた。
「なぜ逃げるのだ?まだ終わってないぞ?」
「何が終ってないだ!このサイコ野郎!」
「サイコ野郎?儂一応お前の種族では女となるが野郎なのか?あとサイコってなんだ?」
シノは首を傾げながら疑問に思ったことを口にし、ゆっくりとユウキに近づく。
「頼むから近づくな!」
「近付くなと言われても終わらなければずっと痛みに耐えるだけだぞ?これを空いた右の眼窩に移し、魔力で治せば終わるんだ。未来予知で見た死よりは全然ましだと思うがな」
シノはそう言い、小さくため息を吐くとユウキの右の眼窩から取った眼球を自身の空いた眼窩に埋め込み魔力を込めて治し始める。魔力を込める事数秒、右目から手を離したと同時にシノは右目を開き、辺りを見渡し、眼球を動かすと完全に治ったことを確認する。
「どうじゃ?ちゃんと治ったであろう?」
その行動を確認したユウキは未だにシノを睨みつけるが、治る事実も確認してしまったため完全にシノを遠ざける意味も無くなってしまった。シノはそれを確認したのかそれともなんとなく理解出来たのかさっさとユウキとの距離を縮め、閉じたままの右の眼窩に指を添える。
「さっきと違って痛みはないから安心しろ。そしてその後なら殴っても構わん」
シノはそう言うと同時に先ほどと同じように眼窩に眼球を入れ、魔力を込める。数秒後、右目から流れる血は止まり、ユウキの右目が完全に治ったことを確認したシノはユウキから少しだけ離れ、視界の確認をする。
「どうじゃ?ちゃんと見えるか?」
「……あぁ、ちゃんと見えるよ」
ユウキはもうどうしたらいいのか分からないのか短く覇気のない声でそう答えると、その場に座り込んだ。
「殴らないのか?」
シノは座り込んだユウキの顔を覗き込みながらそう聞くが、ユウキは言葉も発せず、首を横に振るだけだった。それを見たシノは諦めたのか立ち上がり、指を弾いて鳴らす。
「とりあえず今日は返すが、明日も来てもらうぞ。その……悪かった」
ユウキの視界は徐々に変わり始め、シノの最後の言葉は完全に聞き取れてはいなかったが、何を言ったのかは歪み始める空間の中で見たシノの表情で理解はした。
次回更新は2/6です。来週は事情により更新できないので再来週に2つ更新します。




