模擬戦—4
「タイセイお疲れさん」
俺はカズの摸擬戦を見に行ったハヤトと別れた後、先ほど1勝を掴み取ったタイセイの下に行った。
「ん?あぁ、ユウキ君。ありがとう、見に来てたんだね」
備え付けられたベンチに腰掛けていたタイセイが俺に気付き、顔を上げてそう言う。俺はタイセイの横に座り、持ってきていた水を入れた水筒を渡す。
「あ、ありがとう」
タイセイはそれを受け取ると少しずつ口に運び、喉に通していった。周りは活気づく中、2人の間には謎の静寂が流れていた。
「そういえばさっきの能力?すげぇな!」
俺はその静寂を何とか破ろうと先ほどのタイセイの戦いぶりを見て、気になったタイセイの能力のことを口に出した。
「あぁ、『消耗』のこと?」
タイセイは俺の勢いに押されて少し呆けた表情を浮かべたが、すぐに思い出したように笑みを浮かべながらそう答えた。
「消耗?っていうのかタイセイの能力って」
「うん、無機物であれば大体はあんな感じになるよ」
タイセイは俺の疑問にそう答えると、端の方に寄せられ、積み上げられた壊れた木剣を指す。大半は折れて使えなくなっているが、1本だけ朽ち果てた様にボロボロになった木剣が置いてある。
「あの剣って確か……」
「うん、さっき僕が消耗させたやつだね」
タイセイはそう言ってゆっくりと手に持っている水筒の中身を口に運ぶ。
「そういえばハヤト君は?」
再度流れた静寂を今度はタイセイが破った。
「あいつならタイセイなら大丈夫だろってカズのところに行ったよ。俺も後で行くつもりだ」
「それなら早めに行った方がいいんじゃない?」
タイセイは何かを心配するような表情を浮かべながらそう言う。
「なんでだ?」
俺はその時タイセイの言う意味がよく分からず普通に聞き返してしまった。
「だって、こんなに人がいるんだよ?移動しているうちにカズ君の試合終わっちゃうかもよ?」
ようやくタイセイの言うことを理解した俺はすぐさまベンチから立ち上がり、周りを見渡す。周りはすでに観客と参加者でいっぱいになっており、5メートル先も見えなかった。
「こりゃあ、やべぇな。タイセイの言う通りカズのいる場所に向かってるうちに終わっちまいそうだ」
俺はタイセイの方に振り向くと、タイセイは笑顔で「行ってらっしゃい」と言って手を振った。
☆★☆★☆
「……嘘だろ、これはやばいな」
ハヤトはユウキと別れた後、特に苦労することなくカズのいる闘技場に辿り着いた。そしてハヤトが辿り着く前にすでにカズの摸擬戦は始まっており、ハヤトが目にした光景はカズが相手の剣士にボロボロに打ち負かされていた光景だった。
「がはッ!」
カズはまた一突き腹部に受け、地面に膝を付いて血反吐を吐いた。
「まだ…やるのですか?もうこれ以上やる必要はないかと思うのですが」
「ぐッ…ま、まだだ……まだ、俺は…やれ、る……」
カズの相手を務めている長身の白い鎧を着込んだ男———カイザはBランクの冒険者で攻略隊にも引けを取らないほどの実力の持ち主だった。
「なぜそこまでして立ち上がろうとするのか理解に苦しみます。もうすでに勝敗は決しているでしょう」
カイザは木剣の剣先を地面に跪くカズに向けながらため息交じりにそう言葉を溢す。
「こんな、とこで…負けてたら……俺はダメなんだよッ!」
カズはそう言いながらゆっくりと身体を起こし、床に落としたままの剣を拾い上げると、凛と立つカイザに剣先を向ける。
そして、呼吸を整えるとカズは一気にカイザとの距離を縮め、横一文字に剣を振るう。
「はぁ、やっぱり理解に苦しみますね。こんな遅い剣筋でどうやって僕を倒すつもりなのか教えて貰いたいくらいです」
「がッ!」
カイザはそう言いながら一歩後ろに下がりカズの攻撃を避けると、木剣でカズの手の甲を叩き、カズの木剣を叩き落とす。カズの木剣は再度地面に落り、カイザはさらにカズの側頭部を剣で殴りつける。
カズは地面に膝から崩れ落ちるように倒れ、そのまま意識を失った。
「勝者、カイザ!」
審判の試合決着の合図が聞こえたが、誰も歓声を上げることなく静かにその場から離れていき、カイザは意識を失ったままのカズを見下すように見つめ、剣士としての作法なのか一礼をするとその場から去って行った。
次回更新は11/28です




