デスゲームの始まり-16
隣の部屋に入っていくハヤトを見送った後、ユウキも案内された部屋に入った。そして、ベッド同様備え付けられた机にタイセイに渡された食事の乗ったお盆を置き、ユウキも机と一緒に置かれた椅子に腰かけた。食事はパンとスープ、そして付け合わせ程度のサラダが木製の器に盛られており、ゆっくりとそれらを口に運んだ。
タイセイに渡された時は全くと言っていいほど食欲はなかったのだが、部屋で一人になった瞬間、緊張が解けたのかものの数分で渡された食事を平らげてしまった。食事を終えた後、ユウキは満腹感に浸る様に窓際に設置されたベットに倒れ込み、ふと、窓の外を眺める。そこには、昼間にも見た赤い三日月が昼間よりも一層明るく光を発しており、美しくもあったのだが、何故かそんな三日月の存在に恐怖を感じた。
「……俺、本当に異世界に来ちまったんだな。今はハヤトたちがいるからいいけど、これからどうしたらいいんだ。あの夢なのか現実なのか分からない所であった女が言っていたことも気になるし。確か、英雄が何とかって言ってたよな?……まぁ、今は考えても無駄か」
三日月を眺めながらユウキはやはりここは日本ではないんだなと改めて実感していた。今日だけで起きた出来事を一つ一つ思い出していた。クラスという役職や武器に姿を変えるという一見ただの石ころやゲームやアニメなどの世界でしかないと思っていた魔法の存在などユウキにとってはどれも新鮮で信じがたい事ばかりだった。
だが、それすらもすでに受け入れ始めているユウキ自身が一番吃驚していた。焦りや不安もあるが、今は何故か落ち着いている。それが、食事をし、腹を満たしたからなのか、それとも一日で色々ありすぎて疲れているせいなのか、はたまた知り合いではないが同じ日本人のハヤトたちがいたからなのかはユウキ自身にも解らなかった。
とりあえず今日の所はもう寝ようと徐々に強くなっていく眠気にユウキは窓から覗く三日月に背を向けるように寝返りを打つと、右足の付け根に違和感が走る。正確にはズボンの右ポケットの辺りだろうか。ユウキはまた、少しだけ身体を動かし、右ポケットに手を突っ込むと、ここに来た時には無かったであろう異物が一つ入っていた。
ユウキはその異物を取り出すと、三日月の光に照らすように顔の前にその異物を現す。右ポケットに入っていたのは神殿にあった紫色の宝玉と同じ色をしたビー玉サイズの宝玉の様な物だった。何故こんなものが自分のポケットに入っているのだろうと薄れゆく意識を無理やり引っ張り、思考を始めるがやはり眠気が強いせいか上手く頭が働かない。
しかし、その数秒後にある事を思い出した。『外に戻ったら自分のズボンの袋を確認してみろ』という言葉だった。それはシノと別れるときシノが最後に言った言葉だった。その言葉を思い出したユウキは「あぁ、シノの言ってたことってこれか」と口には出さずもそう心の中で呟き、完全にそこで意識を離した。
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眠りについてから数分後くらいに誰かから呼ばれる声が聞こえた。大人しく寝かせてくれよと内心そう思いながらもユウキは渋々瞼を開いた。すると、目の前には別れてそんな時間が経っていないはずの白いワンピースを着込んだ紫色の髪の少女シノが「はよ、起きんか」とユウキの服の襟元を掴み、揺すっていた。
「起きたから、やめろ。揺らすな、気持ち悪い…」
機嫌が悪そうに放つユウキの言葉にシノは「やっと起きたか」と言い、やれやれといった顔でユウキの襟を離した。ユウキは眠たい眼を優しく擦りながら、辺りを見渡すと、そこはユウキのいた部屋ではなく、また白い空間にいた。
「なぁ、ここはどこなんだ?」
「ここはお主の意識の中じゃ。他の言い方としては精神の世界ともいうな」
シノはユウキの問いにそう答える。質問を下にも関わらずユウキは「へ―」とだけ言葉を返し、眠たそうに欠伸をし、再度問いかけた。
「で、ここに呼び出した理由は?」
「理由というより確認だな。結晶化できているかの」
シノの言葉にユウキは思い出したかのように「あぁ、あの宝玉か」といい、納得した表情を見せる。その言葉にシノも頷き、付け足す様に「まぁ、あれは宝玉というより魔石に近い物じゃがな」とユウキの言葉を訂正してきた。宝玉と魔石の違いはなんだよと思いながらもユウキは特にシノに問いかけることも無く、さらに言葉を続けるシノの言葉に耳を傾ける。
「まぁ、お主の精神の中にも入れるということは結晶化も無事に成功したということじゃな」
満面の笑みを浮かべながらそう言葉を発したシノを見て、ユウキは口を開いた。
「てことはもう用はないんだろ?じゃあ俺は寝るから」
ユウキはそう言葉を発すると、その場で横になり、もう一度欠伸をしながらシノに「元の世界に戻しておいてくれよ」と言い残し、再び眠りにつこうとした。




